憑依転生げとーさん、パン屋を開く 作:どこはかとなくやばい人
「夏油様、それって!」
「この前二人が言ってたスイーツだよ。並べておくから、先に手を洗っておいで」
「はーい!!」
元気よく駆け出す菜々子と、ゆっくりと歩いて向かう美々子。側から見ればギャルと大人しめの女子と相性はあまりよくなさそうに見えるが、その実一蓮托生という言葉すら軽々しく思えるほどに仲が良いのだから、人間見た目では中々わからないものだ。
「私らみたいにガッコー行ってるとどうしても買えないんだよねー、それ」
「うん……。放課後になると、いっつも売り切れてる」
「偶にサボる分には何も言わないよ、私は」
「えー、でもなぁ。夏油様のお金で通ってるわけだし」
「勿体無くて……」
ダメだ、泣く。
進学の際。特に菜々子が派手目の格好を好むことから、万が一にでも校則に抵触すると色々面倒なため、その辺の縛りが緩い私立校に入れた。仮に50人子供がいようと全員を私立校で幼稚舎から大学まで卒業させてやる程度の貯金はあるので、金の心配もいらない。
大学の授業を一コマごとに換算するといくらだ、と計算した金額が度々話題になるが、世の大学生はそれを理解した上で、出席のいらない授業は平気で飛ぶ。一度美々子と菜々子の爪の垢を煎じて飲ませてやるべき──いや、ここは日本、変態の大国。その手の輩が湧きそうなことはやめておくべきか。
「そういえば、勉強の方は大丈夫なのかい?」
「ま、まぁ、最低限赤点は取ってないし……」
「数学31点だけどね」
「だーー!? 美々子、それ言わないって約束じゃん!」
勉強のできるギャルは存在するし、勉強が苦手な大人しい子も当然存在する。が、うちの場合は見た目通りというべきか、菜々子は少しおバカな節があり、美々子は学業優秀。まぁ最悪の場合私が最後まで養ってやることも余裕なのだが、彼女たちの将来を考えた際、それでは中々良くないだろう。せめて、大学を卒業出来る程度には頑張ってもらわねばならない。
何気に私や悟、硝子は全員それなりに勉強が出来るタイプではある。が、流石に十数年も前のこと。高校生に教えられる学力はとうの昔に失われている。現役教師の悟や医者の硝子であれば或いは、といったところだろうが、奴らと日常的に会うことは二人の教育に悪い。
「ホントにヤバい時は順平にも手伝ってもらってるし、なんとかなるって!」
「順平……」
おいたわしや、とでも言うべきか。多少改善されたとはいえ彼の本質はオタク側、女性に頼られることは満更でもないだろうが、それにしても初が菜々子とはまた中々難易度が高い。
美々子が居れば多少マシかと思いきや、彼女も彼女で中々に癖が強い。凪さんを安心させるためにも是非順平には頑張ってもらいたいところであるが、恐らく彼と彼女らがそういった仲になることはないだろう。
「んーー! やっぱこれ美味しい!!」
「ん……おいしいね」
「甘っ……」
まぁ、なんと言うべきか。歳を食ったおっさんには、この手のクリームたっぷり甘さモリモリのスイーツはどうにも難しい。
無論、不味いわけではない。一見見栄えの一点張りで盛り付けられているようでも、具材一つ一つは調和を取っている。人気になるのも頷ける。ただ、口の中がしんどい。量が食べられないのだ。
「……美々子、菜々子。これ、残り食べるかい?」
「え、いいの? 嬉しいけど、夏油様は」
「いやあ、私はどうにもこの手の甘いものは量が食べられなくてね……」
「ふーん……じゃ、美々子! これ分けて食べよ!」
「うん。私が分けるね。菜々子がやったらぐちゃぐちゃになりそうだし」
「前科あるから言い返せん……」
彼女らの日常が気になるところではあるが、それはそれとして。年頃の女子高生にこう言うのもなんだが、彼女らのスイーツを食べ進める速度は中々の物。気付いた頃には皿の上が空になっており、満足そうに息を吐いていた。
こうも良い表情をしてもらえるのなら、買った甲斐があると言うものだ。袈裟を着てその手の店の列に並ぶと、珍獣を見るような視線を周りから向けられるのがアレではあるが。まぁ、可愛い娘たちを思えばなんてことはない。
「そう言えば、二人とも。護衛の調子はどうだい?」
「うん、大丈夫だよ! あいすが守ってくれるし……って、出てきちゃった」
一級である犬型の呪霊。継続戦闘能力に長けることから、万一の際私の到着まで時間を稼ぐことを想定しての選択である。
無論一級ということもあり単体での戦闘力も中々の物。術師であろうと呪霊であろうと、並大抵であれば傷一つ付けることすらかなわない。
ちなみに。あいすなんて可愛らしい名前がついてはいるが、あくまで呪霊である。"犬っぽい何か"でしかなく、その見た目はお察しである。
「……そういえば、なんだけど」
あいすという名の一級呪霊が再び姿を消した頃。私は、二人にこのような質問を投げかけた。家族関係であっても下手をすればセクハラとして立件されかねない質問ではあるが、これは私にとっての最優先事項である。
仮に二人が金髪ヒョロガリのクソ男を彼氏として連れてきてみろ。何を言われようが私は鬼となり、そいつの存在を消し去って見せよう。というか彼氏の存在なんぞ許容しない。最低限私に肉弾戦で勝てる様な奴を連れてこい。悟とパチンカスは除く。
「二人に、恋人はいないのかい? 浮ついた話が出てもいい年頃だと思うんだけど」
「え、げとー様、それマジで言ってる?」
「それはない……」
「ゔっ……すまない。それでも、私は君たちのためを思って……」
「あー、こりゃ重症だわ」
「硝子さんに頼るしか……」
「この前新しい薬できたって言ってたっしょ? なんとかして混入させて」
「でも、夏油様にそんなことをするのは……」
「けど、これだと一生伝わんないって」
何やらヒソヒソと話す二人をよそに。私は一人、机に項垂れて打ちひしがれていた。泣きたい。夜蛾先生の説教よりもよっぽど効く。
ネタがない