憑依転生げとーさん、パン屋を開く   作:どこはかとなくやばい人

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お久しぶりです


大型新人裏梅ちゃん

「……ここが奴のアジトか」

 

 カランカラン、と。入り口のベルを鳴らしながら入店してきたのは、今どき珍しい着物を着た女……女だと、思う。おそらくは。

 現代においてTシャツなどカジュアルな洋服が普及して久しく、日常的に和装をする人間は大きく減った。無論和装は日常を過ごす上で優れた衣服であることには違いないが、それにしてもやはり着用者の絶対数が少なすぎる。元々彼女の顔立ちが整っていることもあり、そんな格好で街中を歩けば注目を集めること間違いなしだろう。

 

「おい、貴様。この店で一番美味い食べ物はどれだ」

「……うーん、一番自信があるのはメロンパンだけど」

「ならそれを一つ寄越せ」

 

 乱暴にカウンターに小銭を放り投げ、受け取ったメロンパンをその場で食べ始める女。一口食べて暫く口の中で味わっているのか百面相を繰り返したのち、ようやく飲み込んだ。そうして、こちらに向き直る。

 

「……負けた」

「は?」

「今の私に、この味は出せない。クッ、流石は宿儺様が認めた料理人か……!」

「ええ……」

 

 女……というか、裏梅はそんなことを呟きながら滂沱の涙を流す。はっきり言っていい迷惑である。徐に買った商品を食べ始めたかと思えばポツリと小声で独り言を喋りながら涙を流す。なんだこれは、新手の営業妨害か? 呪霊もとうとう武力行使ではなく経済的ダメージを与えてくる方向にシフトしたのか?

 

「おい、貴様」

「……とりあえず、床拭いてもらえる?」

「む……」

 

 はい、とタオルを渡せば、素直に拭き始める裏梅。この辺はまだ多少良識があるのか……いや、ここが宿儺お気に入りのパン屋だから、だろうな。辺りを気にせず建物を吹っ飛ばしまくる輩に良識なんてあるわけがない。ちなみに、これは呪霊だけではなく人間にも当てはまる。そう、つまりそういうことだ。

 

 私の場合は吹っ飛ばしているのは呪霊だから、私本人の良識には関係ない。呪霊が暴れて壊滅する建物を見て、常に心を痛めているとも。

 しかし、悟は別だ。自分の意思で吹っ飛ばしているのだから。

 

「……私を、弟子にしてほしい」

「弟子?」

「ああ。宿儺様が認めた貴様の料理の真髄を、余す所なく盗ませてもらおうか」

「いやだよ、普通に」

「……!?!?」

 

 いや、普通に。いきなり情緒不安定全開を見せつけられて挙げ句の果てに弟子入りなど、本当に認められるとでも思っていたのだろうか。

 バカな──などと溢しているが、バカはお前だと言ってやりたい。はずみで店の周りを氷漬けにされては敵わないので言わないが。

 

「私の時代では、弟子を取ることはある種職人にとっての誉であったはず……」

「もう隠さないね君。時代は移ろい変わるものだ。思考のアップデートをしないとね」

 

 頭をトントンと叩き、煽るような口調で話す。

 

「黙れ時代遅れの袈裟男が」

「おかっぱ着物の古物には言われたくないかなぁ」

「なんだその前髪は、過去の時代ですらそのような髪の毛をしている人間はいなかったぞ?」

「君こそなんだいその白髪。年寄りのようじゃないか……いや、実際に婆さんなのか。これは失礼」

「……」

「……」

 

 和やかな会話が進む。私も裏梅も比較的温厚な術師だ、と言うことの証明だ。短気な術師ならすでにここら一帯は吹き飛ばされている。

 さて。どう収めたものか。正直戦えばまず間違いなく勝てはする、が、代償として色々なものを失うことになる。よって、荒事はなし。……うーん。あんまりやりたくはないけど。

 

「……条件を飲んでくれるのなら、弟子に取ってあげてもいいよ」

「条件、とはなんだ」

「縛り。今後、君は、君に害意を持たない人間に対し危害を加えることができない。これが守れるのなら──」

「なんだ、そんなことか。構わん、結んでやる」

「は?」

 

 宿儺と言い、裏梅といい。何故こうも、自身にとって不都合であろう内容が多分に含まれる縛りを簡単に結ぶのだろうか。それを、彼女に尋ねてみると。

 

「宿儺様に至高の料理を振る舞うために決まっている。他に理由は要らん」

「……はは、いいね。やはり君たちは面白い」

 

 その後。瞬間冷凍や諸々を冷やす作業の時間短縮、普通に高い調理技術から裏梅がかなりの有能アルバイターという事実が発覚し、順平が少し凹んだり。それを見た裏梅が順平を強引に弟子に取り、調理技術を仕込み始めるのだが。それはまた、別の話である。




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