憑依転生げとーさん、パン屋を開く   作:どこはかとなくやばい人

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続きました


七海建人

「メロンパンを二つ」

「珍しいね。カスクートじゃなくていいのかい?」

「……今日は、少しばかり事情がありまして」

 

 私と比べて見劣りしない身長、体格をした金髪の男―――七海建人は、何処か申し訳なさそうな顔でそう告げる。

 

「……本当に、申し訳ありません。今回は完全に私のポカです」

「うん、まぁ。とりあえず、何があったか話してもらっていいかい?」

「灰原にバレました」

「あー……」

 

 灰原雄―――上層部によって仕組まれたであろう階級違いの案件に当たった際、私が到着して呪霊を祓う前に片腕を失い、呪術師の道を離れて補助監督に転向した男。

 術式の関係で片腕がなくともそこそこ戦えるので、半分七海の専属として働く傍ら、新米の術師に万が一がないよう、帳の中に着いて行って、イレギュラーがあれば手助けをする役割を担っている。

 

 そんな彼の性格を一言で表すのなら、素直。 

 仮にバレたとて、こちらから"誰にも言わないで欲しい“と要請すれば、彼が故意にそれを口することはないのだろう。だが―――いかんせん、過去に悟や硝子に誘導されて何かしらの秘密を吐く、という事例が尽きない為、この店の存在は秘密にしていたわけだが。

 

「灰原は暫く虎杖君―――あぁ、新入生の補助監督を伊地知君と交代制で務めるようで、暫くこの店に来れないから名物パンを買ってきてくれ、と」

「まぁ、別に構わないさ。元よりバレたところで致命的な問題はない。……まぁ、悟が通うようになれば少し面倒ごとが起こりそうだが」

「…………同意します」

 

 本当に、五条悟という男は何をしても面倒ごとが付き纏う。

 実力行使でどうにかなる案件なら個人で解決してくるからどうでもいいのだが、こと日常生活に関しては悪い方の話題に事欠かない。

 

 顔が良く、スタイルも良く、性格ドブカス。

 勝手に惚れられ、勝手に擦り寄られ、袖にされて勝手に憎悪を抱く女の多いこと多いこと。

 私の場合は胡散臭さが全面に押し出されている故か悟に比べてその手の面倒事の経験が浅い分、一人称の時みたくアドバイスをすることもできない。

 

 以前に美々子と菜々子、理子ちゃんに悟に面倒な女性の見分け方、対応の仕方を仕込んでもらうよう要請したことがあるのだが、一月かけて彼女らが出した答えは"無理"とのこと。

 

「いっそ、客寄せパンダとして利用するというのは」

「そもそもお金目的でやってるわけじゃないからね、私。……はい、メロンパン。二つで240円だよ」

 

 私のパン屋は、全てのパンが一律120円で販売されている。

 一際値段が高くなりがちなバーガー系のパンも、作るのにそれなりに手間のかかるスイーツ系のパンも、全て120円。

 材料もかなり拘って仕入れているため、売れれば売れるほど赤字を生み出すパンも存在するほど。

 

「丁度です。……最近、このパン屋の話題をよく耳にします。味が良く、値段も安い。コンビニのパンを購入するのが馬鹿らしくなる、と」

「それはありがたいことだ。私はまぁ、いかんせん見た目がアレだからね。悪評が立たないか心配していたんだ」

「これを機に一度、普通の服を着てみては」

「以前美々子と菜々子に"違和感が凄い“と言われてからそれっきりかな」

「……まぁ、確かに。プライベートでも着る服ほとんど変わりませんからね、貴方」

 

 幼稚園、小学校、中学校と普通にTシャツやジーンズを着て過ごしている時期もあるにはあったが、いかんせんこの五条袈裟を着て過ごす時間が濃密すぎて、私としてもこれを着ていないと鏡に映る自分の姿に違和感を感じるようになってしまった。

 悪評が立てば、学校での彼女らの立場に少なからず影響を及ぼしてしまうことだろう。

 そうなれば、彼女らを引き取ることを認めてくれた夜蛾学長や硝子に申し訳が立たない。

 

 最も、私の近所、そして双子の友人からの印象としては"変だけど良い人"という評価に落ち着いたようで、その心配は杞憂に終わったわけだが。

 

「ところで、話は変わりますが。なにやら新作のパンを準備しているとの噂を聞きました」

「ああ、うん。七海のその情報網が気になる所だけど……まぁ、事実だよ」

 

 このまま停滞を続けていても店が倒産するような事態にはならないだろうが、それでも日々研究を怠ったことはない。

 故にそれなりの頻度で新作パンを作り、その出来栄えによって限定品になるか、恒常入りを果たすか、はたまたお蔵入りになるか、という選択を繰り返している。

 

「……良かったら、試食してもらえないかい?七海の評価なら参考になるしね」

「是非」

 

 若干食い気味の七海に苦笑しつつ、奥から試作品のパンを引っ張り出してくる。

 個人的にはそれなりに良い出来栄えであり、限定で販売した後相当売れ行きが悪くない限りは恒常入り予定だったのだが、果たしてパン好きの七海はどんな評価を下してくれるのだろうか。

 

「これは、卵と……コロッケ?」

「近所の子に、コンビニのコロッケパンが大好きな子が居てね。最近値上げしたせいで購入を躊躇するようになった、と愚痴られたから試作してみたら、思ったよりもいい出来だったんだ」

「なるほど。……それでは、いただきます」

 

 無言でパンを頬張る七海。

 スカスカよりかは具が詰まっていた方が良いだろう、と詰められるだけ詰めたはいいが、そのせいでポロポロと零す羽目になるのでは、と心配していた。しかし、彼の様子を見る限りその心配はなさそうだ。

 

「……」

 

 ふと、しょうもないことを考えた。

 カウンターの前で無言でパンを頬張る金髪の偉丈夫と、それをニコニコと見守る五条袈裟を着た胡散臭い偉丈夫。

 側から見れば良くて通報、最悪卒倒物の光景だろうなぁ、と。

 

「……ふう、ごちそうさまでした」

「お粗末様。どうだった?」

「かなり美味しかったです。少なくとも、コンビニのそれとは比べ物にならないほどに」

「それは何より」

「限定品で終わらせるのは勿体無いほどの出来かと。是非、恒常入りを」

 

 以前にも七海に何度か試食を頼んだことがあるが、彼の評価はかなり的確。

 "十分美味しいが前のパンには少し劣る"と評価したフルーツサンドは売れ行き的に恒常入りまで至らなかったし、需要があるか私ですら半信半疑だったエビカツバーガーは彼に"間違いなく恒常入りを果たすことになる“と評され、実際後に文句なしの売上で恒常入りを果たした。

 

「了解、仕入れ先にもその旨を伝えておかないとね」

「はい。……ああ、忘れる所でした。此方をどうぞ」

 

 そう言った七海が突然手渡してきたのは、入手困難とされているスパイスの詰め合わせ。

 何故それを七海が、という困惑と共に、仕事柄数少ないネット通販の機会を狙うしかない、と半ば諦めていたそれが手中にあることへの喜びを隠せない。

 

「普段の試食のお礼です。任務で立ち寄った土地で買ったのですが、お気に召されたようで何よりです」

「ああ、ありがとう七海。……そうだ、この後、時間はあるかい?」

「……まぁ、暇ですが」

「良かったら、うちで夕食を食べていかないか?うちの双子も、君には懐いていたからね」

 

 以前の硝子に次ぎ、七海と灰原も双子には懐かれていた。

 堅物だが面倒見のいい性格が好作用――彼にとっては災いだったのかもしれないが――し、硝子と私が任務で駆り出されている間のお世話係を見事に拝命。

 美々子と菜々子の男に対するハードルが異常に高いのは、彼らのように容姿端麗な人間と常に接していたことに起因するのだろう。

 

「いえ、流石にそこまでしてもらうわけには」

「君さえ良ければ、私は大歓迎だ。なに、食卓についているのはある程度事情を知っている関係者のみ、場に酔ってポロッと零してしまったとしても問題にはならないさ」

 

 そも、一般人とサシで呑み、呪術師関連の話をしたところでせいぜい妄言と取られるのが関の山、外に出ることはまず間違いなくあり得ないのだが。

 

「……わかりました。それでは、ご相伴にあずかります」

「うん。……これでよし。さ、こっちだよ」

 

 closeの看板を店先に掛け、七海を私たちの生活スペースである建物の2階に案内する。

 呪術師を辞めて以降、店で多少話すことはあれど、生活スペースに招くことはない――そう結論付ける私を説得し、無理やり来客用の椅子、寝具一式を揃えさせた双子の考えが正しかったことが、今ここで証明された。

 

「肉と魚、どっちがいい?」

「……では、肉で」

「了解。この前、近所のお爺さんからいい肉を貰ったんだ。ステーキにでもしようか」

 

 まぁ、何よりも。

 久しぶりに、高専時代の後輩――友人と食卓を囲む、という事実に一番気分が高揚しているのは、恐らく"私"なのだろう。

 苦笑する私に訝しげな視線を送る七海を適当に誤魔化しながら、冷蔵庫の中から肉を取り出した。




一話書き上がったら即投稿、が私のスタイルなので、書き溜めが一切ありません。
そろそろレポート地獄が幕を開けそうなので、次回は6月中に出せればいいかなーって感じです。
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