憑依転生げとーさん、パン屋を開く 作:どこはかとなくやばい人
「すまない、まだやっているだろうか」
「はい、大丈夫で…………は?」
今日も今日とて閉店間際、やってきたのはこれまた筋骨隆々の大柄な男性。
サングラスをかけた大男は、髪型も相まってバラエティで様々な人物にビンタをぶちかましている例の人にしか見えない。
「久しぶりだな、傑。お前が一般社会に出る等と言い出した時はどうなることかと胃を痛めたが、上手くやっているようで何よりだ」
「……お久しぶりです、夜蛾先生」
夜蛾正道。
私たちの代の担任教師にして、現呪術高専東京校学長であり、1級呪術師の猛者。
後にも先にも、悟を拳骨一発で沈める、などという芸当をやってみせるのはこの人の他にいないだろう。
「仕事帰りでな。少しガッツリとしたものを食べたいんだが」
「……それなら、エビカツバーガーですかね」
「それにしよう。いくらだ?」
「120円です」
ありがたいことに、一度うちに遊びにきた美々子と菜々子の友人たちは、そのほとんどがこの店のリピーターと化してくれている。
今日はたまたまその友人たちが買い物に来てくれた為、カロリーを気にしない女子高生によってバーガー系や惣菜系、ガッツリしたタイプのパンはほぼ全滅。
彼女たちも部活帰りらしく、甘いものよりガッツリしたものを食べたかったとのことだが、なんともまぁタイミングが良いのか悪いのか。
「安いな」
「まぁ、お金は腐るほど持っていますから」
「すまない……」
皮肉のつもりはなかったのだが、元来の真面目な性格が災いしたのか、それとも私の性格の悪さを考慮したが故か、そう謝罪する学長。
悟と共に"二人で最強“を名乗っていた所、どうやらいつの間にか、私も上層部から目をつけられたらしく。
明らかに特級が出向く必要のない二級レベルの案件から、偶に来る私でも苦戦するレベルのガチ特級任務まで、数多くの仕事をこなした私の預金通帳には、それはもう凄まじい数の0が並んでいる。
「……本当にお腹空いてるんですね」
「…………ああ」
ぐー、と音を立てたのは、目の前に立つ強面男性の腹。
ここ百年現れなかった宿儺の器である虎杖悠仁、彼の出現に伴い秘匿死刑が執行されるはずだったが、その死刑に悟が待ったをかけた。
悟が暴れれば現状この世界に実現し得る範囲で止める手段はなく、上層部としてもこの意見を飲まざるを得なかったのだろう。
そんなフラストレーションの溜まった彼らの矛先が誰に向くのか、といえば、そう、我らが夜蛾学長。
特級案件でなければ―――いや、特級案件でもこの先生ならどうにかしてしまいそうだが、ともかくただの戦闘系任務でここまで疲労の色が濃くなることはまぁないだろうことから考えても、確定と言っていい。
「良ければ、ここで食べていってもらって構いませんよ。今日はもう閉店するつもりでしたし」
「それはお前に悪いだろう」
「もうパンは完売しましたし、これ以上開けておく意味もありませんから。……それと、学生時代お世話になった恩師に恩返しでも、とね」
悟と殴り合ってはグラウンドにクレーターを作り、新規で獲得した呪霊の術式実験のためにグラウンドにクレーターを作り、なんとなく暇だったからグラウンドにクレーターを作り。
その度に学長からはありがたいお話という名の説教にプラスして拳骨を貰っていたわけだが、それも今となればいい思い出だ。
そんな生徒からの嬉しい言葉に対し、学長は背中をブルリと震わせていた。
「……怖いことを言うな、傑。鳥肌が立ったぞ」
酷い、だが残当。
"私“でも恐らく同様の対応を取る。
「酷いですね、全く。……美々子と菜々子が帰ってくるまで私も暇なので、スペース提供する代わりに話相手にでもなっていただければ、と」
「それなら構わない。俺も、傑が今、どうやって過ごしているのかは少し――いや、かなり気になっていたからな」
具体的には、世間様に迷惑をかけていないかどうか――そう言いたげな視線を受け、苦笑する。
まぁ確かに、高専時代のみを切り取ってみれば私の評価はいいとこ"真面目系クズ"、普通に考えれば"やたらと強いクズ"、最悪の場合"ただのクズ”という評価に落ち着く。
そんな私を呪術界の外に放流したとなれば、それはもう夜蛾学長を始め、高専関係者の胃はそれなりにダメージを負ったことだろう。
「先生――あぁいや、今は学長でしたか。どうです、最近」
「なんで知って……あぁ、硝子か七海にでも聞いたのか。それで、どう、とは?」
「私や悟のような問題児はいるのか、と。少し気になりまして」
そう尋ねたところ、わかりやすく顔を歪ませる夜蛾学長。
特級被呪者乙骨憂太、宿儺の器虎杖悠仁、禪院が待ち望んでいた十種影法術使い・伏黒恵、上層部が気に入りそうな古い術式を持つ釘崎野薔薇。
百鬼夜行が起こらなかった為、秤、星の両者は停学こそ喰らっていないだろうが、それでも彼らの性格故大人しくしているとも考えづらい。
幸いにして、一部を除き私や悟のような人格破綻者一歩手前、ドブカスのような性格をしている人間ではないのが救いだろうか。
「……苦労されているようですね」
「まぁ、な。だが、それでもその問題児共を教え導くのが教育者としての仕事だ」
呪霊操術の夏油傑、反転術式を他者にかけられる家入硝子、無下限術式の五条悟と、明らかに異端な私たちの世代。
性格も控えめに言って終わっているこの世代を前に投げ出すことなく、最後まで先生として在り続けた夜蛾学長の功績は推して図るべきである。
「理解していますよ、それは。―――もし、何か今後学長の手に負えない出来事があれば、私に言ってください。恩もありますし、可能な限り応えましょう」
「いや、それには及ばない。傑、すでに呪術師を辞した今、お前は俺たちにとって守るべき一般市民に他ならん。例えお前が俺の数倍強かろうと、だ」
「……はぁ、相変わらずですね、その頭の硬さは。まぁ、一応は覚えておいてください。トレーニングは続けているので鈍ってはいないでしょうし」
「ああ。……そういえば、あの双子は元気か?」
呪術師の家系以外、非術師の一家に生まれた呪術師としての素養を持った人間は、その多くが家族に迫害される。
育児放棄、家庭内暴力、挙げ句の果てには我が子を殺す親もいる。
それを村ぐるみで行われていたのがあの双子であり、報告を受けた夜蛾学長もその事実にかなり憤っていた―――と、歌姫先輩が学長と同じぐらい鼻息荒く伝えてきたことが記憶にある。
「元気にしてますよ」
「そうか、それは良かった。お前の影響を受けていないかどうかは心配だがな。……ご馳走様、美味かった。高専時代から更に腕を上げたな」
そうこうしているうちにバーガーを食べ終えたようで、満足げな表情を見せる夜蛾学長。
術師から離れ、パン屋を開く―――そんな酔狂なことを言い出した私を止めるでもなく、上層部を説得してくれたこの人からその言葉を聞けて、本当に嬉しいという以外の言葉が見つからない。
「夏油様、ただいまー!」
「ただいま、夏油様……」
「ああ、おかえり、二人とも」
噂をすればなんとやら。
タイミングよく帰ってきた二人に対して夜蛾学長が向ける視線は、親愛の情が籠ったそれ。
怖がられながらも作成した呪骸を二人に渡すよう私に言いつけたり、買い物の際には代金を出したりと、学長は二人のことを孫の如く可愛がっている節がある。
成長し、人生経験を多少なりとも重ねた二人なら、今学長を見ても驚くことはないだろう。
「久しぶりだな、二人とも「夏油様、そこのおっさん誰ー?お客さん?」
「な、菜々子。お客様に失礼でしょ……」
「…………」
学長は、灰のように燃え尽きた。
出してるキャラはわりとてきとうですが、せめて一周分は、と自分を奮い立たせるために五条はちょっと意識的に避けてたりします。
追記:生きてます。一応続き書いてるんですが、レポート地獄をしばらく抜けられないのでもうちょいお待ちください。
追追記:多分日曜日に新しい話出せます。多分。きっと。恐らく。