憑依転生げとーさん、パン屋を開く   作:どこはかとなくやばい人

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アルバイター

「ごめんなさい傑さん、遅れました!」

「いや、構わないさ。ゆっくり着替えておいで」 

 

 普段はきっちり中に入っているカッターシャツが珍しく外に出ている様子を見るに、相当焦って来たのだろう。

 どうせ私一人でも店は回せるわけだし、時間はそう厳守しなくても構わない、と社会人失格な文言を伝えたものの、生来真面目な彼は遅刻という現象をどうにも許容できないタチらしい。

 

「……あ、焼きそばパン」

「ふふ、安心するといい。君の分は別に移してあるからね」

「あ、ありがとうございます!」

「どういたしまして」

 

 焼きそばパン。不良がいじめられっ子に買って来させるパンの定番とも言えるこれを彼が気に入ったのはなんとも皮肉的と言うか、なんというか。

 すでに無くなったソレの置き場を悲しげな視線で見つめる彼にそう告げれば一転、安堵の笑みを浮かべる。

 

「いらっしゃいませー!」

「あら、順平ちゃん。今日も頑張ってるわねえ」

 

 "偶然"彼───吉野順平のいじめ現場に出会した私は、いじめっこ共を文字通り蹴散らしてそのまま保護。

 いじめを黙認するクソ担任、力がない以上仕方のないことかもしれないが、いじめを黙認していた同級生という最悪の環境に彼を放っていくわけにもいかず、諸般の呪術的事情を時にぶん殴り、時に飲み込み、時に夜蛾学長にぶん投げることで解決し、そのまま彼の母ごと私のパン屋の近くに移送。

 

 現在はこの付近の高校に通う学生として、順風満帆とまでは行かないまでも、少しの友人と楽しそうに過ごしている───とは、美々子談である。

 

「……? どうかしました?」

「いや、随分と順平もこの辺りに馴染んだものだ、とね。最初の頃は酷かったからねえ」

「お、思い出させないでくださいよ……」

 

 今でこそ屈強なマダム達に鍛えられて一端のアルバイターとなった順平だが、初期は本当に酷いものだった。

 今までの人生が人生だった故、私と凪さん以外を対象とする軽度の人間不信に、それに伴いその接客はとても合格水準にあるとは言えないもの。

 それでも私、美々子に菜々子、マダム達と接し続けた結果、一度店内で大泣きすると言うイベントを挟んだ後にゆっくりと改善されていった。

 

 その後常連客の接客を終え、店内に私と順平以外の人間が居なくなる。

 

「……僕、今でも偶に思うんですよ。これが夢幻の類なんじゃないか、って」

「……」

「ちょっと前まで、周りに絶望すらしないで、ただひたすらに無関心で。このまま何処かで破滅するんだろうなぁ、なんてことを考えてたんです」

 

 まぁ、それも無理はない。

 実際"私"というイレギュラーが生存していなければ、間違いなく順平は原作通りの流れを辿っていただろう。

 

「でも、今は本当に楽しいんです。友達も出来ましたし、悠仁───趣味について語れる友達も出来ました」

「…………悠仁?」

「虎杖悠仁って子です。お知り合いでしたか?」

「……いや、私の勘違いだね。話の腰を折ってすまない」

 

 世界の修正力、というやつなのだろうか。

 いじめ現場に居合わせた後の呪術的事情を順平は一切知り得ておらず、無論高専関係者と知り合うような機会も私が知る限りではなかったはずだが。

 まぁ、虎杖悠仁のような人間であれば順平に悪影響を与えることはないだろうし、問題はないのだが。

 

「ともかく、本当にありがとうございます!っ、てことを言いたかったんです」

「それは……私も、順平がいることで色々と助けられているからね。此方こそ、だよ」

 

 価値観の違いこそあれど、双子と同い年の順平は彼女らのように、私の息子であるかのように接することが出来、私としても新鮮な体験をさせてもらっている───なんて言えば、凪さんに怒られるのだろうか。

 ……いや、彼女なら笑い飛ばすか。なんなら"本当に順平の父親になってみるか"という冗談付きで。

 

「ほら、裏で着替えておいで。今日はもう閉店だ」

「え? まだ営業時間じゃ……」

「さっき、私は"順平が居ることで色々と助けられている"と言っただろう? その最もわかりやすい実例がこれさ」

 

 やはりまぁ、なんというか。

 五条袈裟を着た筋骨隆々の大男が一人で店番をしているパン屋に初見で入店するのは、なかなかハードルが高いことなのだろう。

 普段、私が一人で居る時、常連以外の客はなかなか入ってこないのだが、順平が居ると、多いとまでは言えないものの、それなりに新規の客も入ってくる。

 

 言い方が少し悪くなるが、どこにでも居る平凡な男子高校生のような──というか、呪術的なことを除けば実際そうなのだが、そんな順平の存在が私の威圧感を少し、ほんの少し、中和してくれるのかもしれない。

 

「……あ、パン、全部売り切れてる」

「そういうことだよ。ほら、早く着替えておいで。さもないと、私が君に余分な給料を支払う羽目になってしまうからね」

「す、すみません! 着替えてきます!」

「なんて冗談───聞いてないね、あれ」 

 

 大慌てで更衣室に駆け込む順平を尻目に、普段よりも少しだけ色をつけた給料の入った袋を用意する。

 恐らく、いつも通り恐縮して、受け取ってもらうまでに一悶着あるのだろうな、と。

 息子、ないし弟のように思う彼とのそんなやりとりを想像する私の口元は、きっと、だらしなく緩んでしまっているのだろう。




大学生、暇って聞いてたんだけどな……。
アンケート置いてるので、答えていただけるとありがたいです。
追記:アンケートの投票、ありがとうございました。結果をもとに諸々をもう一度検討しなおします。
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