憑依転生げとーさん、パン屋を開く   作:どこはかとなくやばい人

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細かい設定を考えれば考えるほど極悪非道な方向に寄っていく不思議
そう言った展開にする気は全くないので、今後も細かいところはふわふわした感じで進みます。ご了承を。



伏黒甚爾

「1番安いやつ」

「この店は一律120円だって、何度説明すれば理解してもらえるのかな」

「……ちっ、めんどくせえな」

「アンタだけ特別料金で買うパン全部10万円にしてやろうか」

 

 呪術師───それこそ、特級任務をもこなして見せるレベルの術師である目の前の人間には、本来こんなセリフなど脅しにはなり得ないのだが。

 得た金を全てギャンブルに注ぎ込み、挙句その全てをスってみせる。そんな芸当を成し遂げるこの男、伏黒甚爾には、どうやら立派に脅しの言葉としての機能を果たしてくれたらしい。

 

「わーったよ。そんならアレだ、一番カロリー高いやつ持ってこい」

「なんで君は、もっとこう……食を楽しもう、と言う気は無いのかい?」

「飯なんざ腹に入ればなんでも同じだろうが。んなとこに金かけて拘り持つ方が馬鹿らしいっての」

 

 三度の飯より競馬競艇パチンコスロット。

 料理に時間をかける暇があるのならその辺の雑草で栄養補給をし、任務をこなし、金を貯め、ギャンブルに使う方がよっぽど生産的である───と。

 この世に存在するすべての料理人、及び食材の生産者に真っ向から喧嘩を売るこの発言は、当然ながら目の前の男のものである。

 

 こんなのでも、常連の女子高生たちからはそれなりにウケが良い。本当に、世の中というのはよくわからないものである。

 ワイルドな風貌がいい、だとか、ぶっきらぼうに扱われる感じがたまらない、だとか……。挙げ句の果てに私とのカップリング、所謂BL本のサンプルを作成して、それを直接手渡す猛者まで存在するというのだから……もう、なんというか、ね。

 

「それで」

「あ?」

「なんでわざわざこの店に来たんだい。即席で食べられる物なら、高専にいくらでも備蓄があるだろう」

「……元ご主人サマの顔色を窺いに、な」

「気持ち悪いことを言わないでくれるかな。風邪を引いたらどうしてくれる」

 

 過去。

 術師殺しをしていた伏黒甚爾は、当然ながら捕縛後、秘匿死刑が執行される予定であった。

 それを"私"が庇ったのは、まぁ、単にエゴでしかないのだろう。

 伏黒恵にとっての肉親となるこの人物をむざむざ死なせて良いものか。助けられる命が目の前にあるのなら、何をしてでも救うべきではないのだろうか。

 そんな善性と言うには烏滸がましい何かによって、"私"は彼の秘匿死刑執行の中止を上に納得させた。

 無論、相応の処置をとった上で、の話ではあるが。

 

 理屈に関しては、"人材不足の中、特級クラスを死なせるには惜しい"、“呪具等で拘束してしまえば叛逆の可能性も消える"とでも言えば、どうとでもなった。

 理屈に納得した、と言うよりかは、最終的に私の側に立った五条・九十九両特級を加えた特級術師三人を敵に回すことを恐れた、とかそんなところなのだろうが、まぁ通りさえすればそこはどうでもいい。

 

「酷えな」

「事実だろう。君が私に対し、感謝の念を抱いているとはとても思えない」

「……少しは信じてくれてもいいんじゃねえか。流石の俺も傷つくぞ」

「そう言う発言は、多少なりとも演技力を身につけてからするべきだと思うけどね」

 

 機嫌の悪そうな、何方かと言うと苛立ちを感じているであろう顔立ちをする伏黒。

 だが、それは高専時代に飽きるほど見たそれ。ギャンブルに行くことができず、苛立ちを感じている時の顔つきだ。決して私の発言が何か影響を与えているわけではない。

 

「恵のやつ、成長してますますアイツに似てきやがった」

「いいことじゃないか。君に似てしまっては母君も浮かばれない」

「にしても、任務帰りに給料袋奪って強制的に貯金させてくるのはどうなんだよ。アイツは俺の母親かっての」

「抵抗すればいいじゃないか。君なら労せず引き剥がせるだろう」

 

 その後急に歯切れが悪くなった伏黒を問い詰めてみれば、どうやら恵の雰囲気が己の妻に酷似しているらしく、なぜか逆らうことができないらしい。

 とりあえず一通り爆笑し終えた私は、不機嫌そうに此方を睨む男の処理に取り掛かる。

 

「いや、失礼したね。まさか君が……ふ、くくっ」

「殺すぞ」

「無理だよ、物理的に。……仕方がない、今日のところは代金を無料にしてあげようじゃないか」

「あ?」

「なに、これも困窮している友人に対する親切心だ。気にすることはないさ」

「キッショ」

 

 その後、無言で掴み合いへと移行するのにさほど時間は掛からなかった。

 職を辞した身だが、一応は私もフィジカル強者の元特級。とはいえ、それなりに抵抗はできたものの、流石に呪術界随一のゴリラには敵わない。

 ジリジリと押され始めたところで、パッと手を離し身を躱す。

 

「うおっ……と」

「……なんで倒れないんだよ、コイツは」

 

 尤も、身体を躱す、という行動は全くの無意味に終わったわけだが。

 流石はフィジカルギフテッド、常人なら間違いなく前のめりになる───そも常人はゴリラの如き怪力を持たないのだが───ところを、少し前のめりになったのみで踏み止まる。

 

「───そんで、よ」

「ん、どうしたんだい?」

「この店で一番カロリーが高いパン、早く持ってこいよ」

 

 そんなことを宣う彼に、なるべく自然な風を装いながら。

 

「君のそのご自慢の視力は猿以下なのかい? 一度、店内を見渡してみなよ」

「…………」

「今日は既に、パンは全て売り切れている。残念だったね、またのご来店を心よりお待ちしております」

 

 高専時代の知り合いに普段向けている、新興宗教の教祖染みた笑顔は封印し。

 人好きのする微笑みを携えた私に、彼は中指を天に突き立て、一言。

 

「死ね」

 

 ラウンド2、開幕。

 




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