憑依転生げとーさん、パン屋を開く   作:どこはかとなくやばい人

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ネタがない
追記
伊地知さんの名前間違えてました。誠にごめんなさい。




伊地知潔高

「お久しぶりです、夏油さん……」

「やあ、久しぶりだね、伊地知」

 

 高専時代から更に悪化したように見える、今にも死にそうなほど覇気のない顔つき。

 これでも補助監督としては中々の敏腕。情報処理、入手能力や書類作成能力に関していえば東京、京都含め、高専所属の補助監督の中では一、二を争うレベル。世間一般の会社に就職すれば即戦力間違いなしの、優秀な人材であるのだが。

 

「相変わらず、苦労人気質は変わっていないようだね」

「……まぁ、はい」

 

 悟は、その立場故に信用できる人間が限られる。伊地知自身、気が弱そうなタイプに見えてその実一本芯の通った人物であり、加茂や禪院から何を言われようが屈することはない。

 呪具でも使えば話は変わるが、そこまで言い出せば現存する補助監督の中に抵抗できるものなど存在しないだろう。強いて、灰原に少し可能性があるぐらいだろうか。

 

「……もしかして、だけど」

「は、はい」

「まさか、また一週間保存食とエナドリ、水しか飲んでない……みたいな食生活を送っているわけじゃないよね?」

「ひえっ」

 

 おかしいな。

 今の私は間違いなく笑みを浮かべているはず。にも拘らず、伊地知は怯えたような声をあげ、顔を引き攣らせて一歩後ずさった。

 笑顔の起源は威嚇にある、とはよく言われるものの、こと私が浮かべているそれに関しては当て嵌まらないはずなのだが。

 

「どうしたんだい、伊地知?」

「い、いえ。何でもありません」

「……まぁ、悟の専属なんて事をやっていれば、健康面が多少疎かになるのもやむなし、か」

 

 特級術師である悟は、それはもう凄まじく多忙な日々を送っていることだろう。本来なら、高専の教師をやる暇なんかない程に。

 私が術師を辞してパン屋を開き、九十九由基は行方知れず。乙骨憂太は恐らく海外に派遣されている為、国内に残るまともに動ける特級術師は悟一人。

 

 夜蛾学長や東堂葵、秤金次等相手次第では特級を撃破できる可能性のある駒は多数存在するものの、上位の特級呪霊───自然呪霊を相手に、彼らが勝利を収めることができるか、と問われると、簡単に首を縦に振ることはできない。

 

「……すまないな、伊地知。ああ言っておきながら、私の勝手で君の負担を増やしてしまっているようだ」

「夏油さん……」

「まぁ、その勝手をしたことは特に後悔はしていないし、今更呪術界に戻るつもりもないんだが」

「夏油さん……」

 

 吐瀉物をドブで煮て、更にその上からもう一度吐瀉物をぶっかけて100年ぐらい発酵させたかのようなドブカス共に私に手出しする勇気があるとはとても思えないが、まぁそれはそれ。

 下手に首を突っ込んで上層部に目をつけられれば、美々子や菜々子、順平の身に危害が加えられる可能性もある。

 

「ほら、これ」

「これは……サンドイッチ?」

「無料でいいよ。ほら、さっきまでのお詫びだ」

「い、いえ、お金は払います。使う暇もないので余ってますし……夏油さんに借りを作ると後が怖い」

「君もか、伊地知……」

 

 硝子や他の術師、補助監督と比べ、伊地知潔高という人間は非術師に寄った感性を持っている。

 当然呪術界にいるだけはあり、相応にイかれてはいるのだが。

 それでも性格がドブカスだったり、未成年飲酒、喫煙を決め込んでいたり、他人の死に対してなんの感情も浮かんでこない、など。術師特有の"価値観"を所持していないという点で、やはり非術師に寄った感性を持つ、という解釈は間違いではないと考える。

 

 そんな彼が、私に借りを作ることを怖がった。

 それ即ち、一般の基準でも、私に借りを作ることは避けるべきだ、と言うことが証明されたことに他ならない。

 

「……美味しい」

「それは良かった……って、なんで泣く」

「い、いえ……。最後にまともな味の固形物を口に入れたのが、恐らく半年ぐらい前のことなので、少し感動が……」

「伊地知、君……」

 

 補助監督、という職が人手不足かと問われれば、別段そうではないというのが答えになる。

 対呪詛師はともかく、対呪霊であれば帳を下ろして後方待機の為、命の危険はほとんどない。

 窓の協力もあり、絶対数こそそれほど多くはないものの、普通にしていれば週休2日──非術師と同じ生活を送るのも、まぁ不可能ではないだろう。

 

 では何故、伊地知がこうなっているのか。それは単に、五条悟という人間の敵の多さである。

 その立場の弱さが故、懐柔されたり、操り人形にされたりすることの多い補助監督。

 五条悟を憎む人間は呪術界に数多存在し、不特定の補助監督に頼っていてはいつ裏切られるのかわかったものじゃない。

 

「伊地知。本気で辛くなる前に、悟に一度話をしてみたらどうだい? 悟は確かにドブカスのような性格に加えてクソガキレベルの精神構造をしているが、それでも日本語が通じないわけじゃあない」

「……いえ。今は、この働き方にも慣れました。五条さんの敵の多さは理解していますし、私なんかよりも──って、夏油さん? 何を?」

「何って、110番」

 

 冷静に考えて、〜365連勤休憩不定期 パワハラと上層部からの圧を添えて〜などという地獄みたいな勤務体系に慣れてしまっては、色々とまずいだろう。人間として。

 私の特級時代ですら週一ペースで休みはあったのだから、一般的な補助監督はそれ以上にマシな勤務形態をしているはず──しているはず。

 

 後ろでわあわあ騒ぐ伊地知も、しっかりと呪術師らしく何処かイカれていたのだ、という、当たり前の事実を再認識すると共に。

 可愛い後輩が過労で死する前に、一発悟をぶん殴った方が良いのではないか、と、人生設計を一度見直す機会になった1日であった。

 




パッと書けそうな人がほとんど残ってないので、更新は月一ペースぐらいになります。
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