第1話「
ヘスティア様に手を引かれ、先導されながら私はおぼつかない足取りで歩いていた。
「本当はもう少しベル君と二人っきりでも良かったんだけどね。放って置けなくてね」
私たちは今、ヘスティアファミリアの
ヘスティア様と出会った時には既に日は傾き始めた頃で、差し込んできていたあの方の瞳の色のような茜の光はなりをひそめ、あたりは次第と薄暗くなってきていた。
「そろそろ、ボク達の
「ベル、くん?」
「あぁ、うん。ボクの一人目の眷属さ」
私が行き倒れていた場所と
どうやらヘスティア様はとてもその少年のことを愛しているらしい。
彼女の望むそんな暖かな場所に私が入り込んでもいいのか、と少し気持ちを翳らせると、すぐに彼女は気がついたのか彼女も少し表情を曇らせ言葉を続ける。
「ボクは無名の神だ。だからファミリアに入りたいって子はなかなかいなくて、ベル君ばかりに負担をかけてしまってね。ベル君はとてもいい子だよ。でもあの子の主神としてその善意に甘え続けるのは違う。それに、君は多分あの子に恋することはない」
「根拠はないけど、女神の勘だぜ?」と彼女は私にどうだ、と言わんばかりの顔で言ってくる。
そんなふうに基本的にはヘスティア様が話をして、私が時々言葉を返すたわいもない時間がポツポツと過ぎていく。
しばらく歩いていくと、握られていた手が離され、彼女はテッテと小走りに走っていく。
目で彼女を追うと、一段二段と軽く段差を上ってから振り返って、大きく両手を広げていた。
「さぁ! 着いたぜここがボク達の、そして今日から君の帰ってくる
周囲の建物は崩壊し、その建物の屋根もガラスも割れている。
しかし、その建物の周囲だけではかろうじて瓦礫が散乱することなく、片づけや整理をしているのが伺える廃教会があった。
見覚えのある元教会に目を見開いていると、ヘスティア様は何か違うふうに捉えたようで、少し汗を滲ませながらアワアワと慌てて挙動不審に話をしていく。
「あ、いや……。中、というか地下はもう少しちゃんとしてるんだぜ?」
「ささ、入って入って」と上った僅かの階段を降りて、私の手を掴んだヘスティア様は駆け足で中へと入っていく。
キィという木製の扉の音がなり、中に入ればやはり内装も外観にふさわしく、と言うべきか荒れていた。
神父が使うであろう台も木が腐ったのか、傾き倒れている。唯一無事なのは教会の一番奥にあるとりわけ大きく綺麗なステンドグラスだけかもしれない。
ここが、
ここが彼女達ヘスティアファミリアの
「ベル君! 今帰ったぜ」
「あ、神様! よかった……。遅かったから僕、心配してたんですよ? て、あれ?」
「すまないね。アルバイト自体はいつも通りに終わったんだけど、帰り際にちょっとした出会いがあってね」
「出会い?」
「ベル君!!」
「うわっ? は、はい!!」
「ついにボク達のファミリアに二人目の団員が加わることになったよ!」
「二人目……。え? えぇ〜〜!?」
ムフフン、としたり顔のヘスティア様は自慢げに胸を揺ら、じゃなくて張ってベル・クラネルにそれは楽しそうに話した。
「あわ、あわわわ。ど、どうしましょう。歓迎に何かした方がいいですか!?」
「はっ確かに!」
暖かな雰囲気で、二人にしておくといつまでもこんな優しい日常が続いてしまいそうで、久々に笑みが溢れそうになったが、その少年のいでたち。真っ白な髪に赤い瞳。
何も関係のない人物が見れば、アルミラージや兎と例えるような少年に私は、目が奪われ、ガラガラと思考が乱され、崩れた。
頭の残った冷静な部分で、今日は随分と
なんて思考を飛ばして、この元教会を、静寂を愛したあの美しく、あまりに強く、誇り高い【才禍の怪物】を思い浮かべてしまう。
「——アル……」
「アル? この子の名前はベル君だぜ? 話したろ? えーと……」
「神様名前聞いてなかったんですか?」
「し、仕方がないだろ! ちょっと特別な出会い方をしたんだから……」
留められず、漏れ出てしまった
「……リヒターです。一応。元第二級冒険者でし、た。 お力になれることは、それなりですが、あると思います」
「「え?」」
そう私が自己紹介をすると、ベル・クラネルとヘスティア様は二人で手を繋ぎながら目が溢れてしまうのではないか、と思うほどに見開き驚いていた。
情報を処理するのに時間がかかるようで二人はしばし見つめあって、何も言葉を発することはなかった。
しばらくすると、ベル・クラネルが「すみません。少し待ってください」と言い、ヘスティア様を抱え、部屋の角へと行ってしまった。
「か、神様? だ、第二級冒険者ってランク
「あ、あぁ確かそうだったはずだぜ」
「知ってたんですか!?」
「そんなわけないだろ!」
「ど、どんな経緯で知り合ったんですか!」
「いや、そ……それは」
と小声で大きな声という器用な会話を繰り広げていた。
どんな経緯、というのでヘスティア様が言葉を濁らせてしまったのは、私が知られたくないかもしれない、という配慮からだろう。
「私、がこの辺りで行き倒れていたんです」
「リヒター君!?」
「いいえ、ヘスティア様。こういった話はしっかり、としなくてはいけません」
「……本当に、本当に僕達のファミリアに入ってくれるんですか?」
「本…当です」
無言で空気が張り詰める。
しばらくするとベル・クラネルが私に手を差し出してきた。
「ベル・クラネルです。ベルって呼んでください。リヒターさん」
その差し出された暖かな手をとって、握り、私も答える。
「よろしく。ベル。私…も呼び捨て、でいいよ」
……私は、私の物語に新しい一頁を始めてもいいのだろうか。