お互いの紹介が済み、ヘスティアがアルバイトをしているという店から貰ったというジャガ丸くんをリヒターは食べていた。
ここしばらく何も食べていない空腹のリヒターにとって、黄金色の衣をまとい、香ばしい香りを放つ
初めはこのどう見ても厳しい生活をしている零細ファミリアのことを思い、断っていたが、ベルの純粋な言葉と無意識な上目遣いにやられてしまったのだ。
無自覚のお人好しで、人に好かれる人物ほど手に負えない人はいない、とリヒターは改めて思い知った。
サクッという見た目からの期待を裏切らない音が、口の中でする。
昨日以前に持ち帰ったもので、温かくはなかったが衣の食感はしっかりとし、すぐにホロッとした食感のじゃがいもとネットリとした滑らかなじゃがいもの食感、そして甘みが広がる。
噛む度にサクッ、ホロッ、ネットリと芋の食感の中に申し訳程度に入ってるひき肉。
だが、それが良いアクセントととなり、あくまでも主役はじゃがいもなのだと謙虚に、かつ重大に存在しており、そこにペッパーがさらに加わり、無骨なひき肉の味に締まりを出していた。
サクッサクッとすぐにひとつリヒターは平らげた。
(やっぱりジャガ丸くんは塩っぱい系の味の方が私は好きですね)
どこかの道化の金髪の美姫が可愛いくしゃみを溢したそうだ。
「クシュン」
「美味しかったかい?」
満足気にホッと息を吐いたリヒターにヘスティアが声をかける。
「はい、とても。このジャガ丸くんはヘスティア様がアルバイトしているお店のですよね?」
「そうさ、美味しいって言ってもらえてボクも嬉しいよ、リヒター君。たまにこうして売れ残りだったりを持って帰れるんだ。さて、もう少しゆっくりしてもらいたいところだけども、君に
「……」
早速のことだが、確かにやることは早く済ませてしまう方が合理的だと思い、リヒターは首を縦に振ろうとし、少し考える。
「ど、どうしたんだい?」
まさか、やっぱりファミリアに入らないんじゃないか、と主神のヘスティア、後ろで見ているベルも戦々恐々としているのに気づかず、彫刻のように整った容姿をもつリヒターは静かに考えていた。
「ヘスティア様、
「な、ど…どうしてだい?」
「ヘスティアファミリアは冒険系のファミリアですよね?」
「あぁ、神友のヘファイストスの勧めでね。その方が色々お金が掛からなくてね……」
「確かに冒険系のファミリアを作るのも維持するのにもギルドに支払うヴァリスはほぼありません。ですが、ファミリアのランクを上げるとギルドより
「「ミッション?」」
やはりきちんと理解していなかったヘスティアとベルは同じタイミングで声をあげた。
納得しつつもこれでファミリアとしてこれまで短い間かもしれないが、成立していた、できていたことにリヒターは思わず背筋が凍る。
「はい。強制任務です。ファミリアランクを上げると、そのファミリアの実力を維持、確認あるいは、能力の向上を促すために定期的にギルドが各
「へぇ……そうだったのかい」
「知りませんでした」
「……はい」
ヘスティアとベルは初めて知った、すごく勉強になる、というようにしみじみとリヒターの話を聞いた。
対するリヒターはこの調子だとまだまだ知らないことがありそうだと察したが必死に言葉を飲みこんだ。
「今のヘスティアファミリアにそう言った余裕はありません。仮に私が加入したとしても、団員二人のファミリアに強制任務が発令されることはほぼない、はずです」
「はずっていうのは?」
「……その、身から出た錆と申しましょうか、元第二級冒険者であることは、既にお二人にもお話ししました。私自身のレベルはオラリオ全体を見てもそれほど強いものではありません。その、それはそれとして自分から言うのも恥ずかしい話なのですが、それなりに強い方、と言うのとギルドや過去の知り合いにあまり大々的にまた冒険者になったことを知られたくない…と言いますか……。すみません。私の我儘ですので、ヘスティア様とベルに従います」
「それは、君が考えてボク達の為になると思ったことなんだね?」
「……はい」
「うん。それならそうしよう。いいかいベル君?」
「はい! その……今すぐに神様の眷属になれないだけで、僕達と一緒にいてくれるんですよね?」
「えぇ。それはもちろんです」
「そうですか!」と嬉しそうにしたベルをヘスティアとリヒターは温かく見守った。気がついて、赤くなったベルは「ぼ、僕寝室とか片付けてきます!」と言って駆け出していった。
「……リヒター君。君の、その…」
緩やかに首を縦に振ってリヒターは肯定する。
「ですが、今でもあの方の
「そうかい。……うん。今は聞かないよ。君ももうボクの
問い詰められる、この優しい女神であっても怪しまれる、そう考えていた。
しかし、そんな考えは浅かった。
まさしく超越した神格を前にリヒターは目を大きく見開き固まる。
そして徐にただ深く頭を下げ、ベルが戻ってくるまで、その下がった頭を優しくヘスティアは撫で続けた。
「今はヘスティア様の眷属になれませんが、私の【ステイタス】はもちろんお教えします。もう、私もここのファミリアの団員ですから」
尋ねるように、しかし大事そうに言葉を述べるリヒターは満足そうに優しい笑みで肯定した。
案内された寝室のベットに腰をかけると「お、終わったら教えてください」と慌ててベルはまたリビングの方へと戻っていった。
【ステイタス】は背に大きく刻まれているため、見るには上の服を脱がなくてはいけない。
年頃の純粋少年としては当然で可愛らしい反応、といったところだろう。
ベッドに横となり、その背をヘスティアに見せる。
「……な」
―――――――
Lv.3 リヒター
力:G 230 耐久:G 200 器用:A 800 俊敏:B 786 魔力:S 901
狩人: I 魔導:H
《魔法》
【ラクジツ】
・付与魔法。
・死/無 属性。
・力の吸収・分解・消失。
・力の再分配
詠唱式:【イルカルラ】
【】
【】
《スキル》
【権能請願】
・早熟する。
・祈りが続く限り効果持続。
・祈りの丈により効果向上。
・ステイタス限界値の撤廃。
・『精癒』『治癒』『神秘』『幸運』の発現。
・精神力の放出・固定化。
・精神力を消費することで任意のアビリティを上昇させる。
・上昇アビリティ、精神力消費量を含め、任意発動。
【
・■■■の発現。
・■ステイタス■■補正。
・■■■属■の■■。
・■■破棄。
・任意発動。
・■■■■■。
―――――――
(なんか、少し抵抗? みたいな何か弾力あるものを触るみたいな感じがしたけど……。いや、今はこの子の【ステイタス】だ。……うん。すごいな、基礎アビリティもだけど、魔法とスキルがすごい。魔法は元の主神の影響が強いのかなぁ? 短い詠唱で随分と効果が付与されるみたいだ。それにまだ二つ、魔法欄が空いている。スキルも、ってこれは…【ステイタス】の上限撤廃? それに
「……なるほど、ねぇ。リヒター君。君って本当に強いんだね……。驚きっぱなしだよ」
「ありがとうございますヘスティア様。それなりに前は頑張って冒険してましたから」
「何個か質問をしていいかな?」
「はい、もちろんです」
「ありがとう。君は自分に何個スキルが発現しているか聞かされているかい?」
下界の子供達は神に嘘をつくことができない。
ヘスティアに質問されたリヒターは納得し、聞かれるのが分かっていたような顔をして話し出す。
「二つです。そして二つ目が読めなかったんですね」
「! あぁ、全知零能だなんて誇張しすぎだよ。全く子供達には驚かされてばかりだ」
「ふふっ。読めなくても問題ない、と思います。今のところ何かデメリットになるような効果は経験していません」
「そうかい? それならいいんだけど。何かあったら直ぐにボクにでもベル君にでも言うんだぜ?」
「ありがとうございます」とリヒターが答えると、何やらワクワクと上擦った少年の声が聞こえてくる。
「あ、あの神様、リヒター…さんお、終わりましたか?」
「あぁ終わったよベル君。少し待ってくれ」
呼び捨てにすることが慣れてなく、結局ギリギリでさん、と付け足したベルにヘスティアが答え、リヒターに服を着させてから向き直る。
彼女の視線にはまたしっかりとした意志が宿っていた。
「リヒター君。【ステイタス】を本当にベル君に見せてもいんだね? 他のファミリアのことは知らないけど、ボクは君の【ステイタス】を知った。いや、【ステイタス】を更新するなら主神は君たちの【ステイタス】を知ってしまう。でも、同じファミリアの眷属達は違う。ある程度の共有はするだろう。でも隠したいモノもあるはずだ。【ステイタス】は君たちの想いがとても強く映し出される。見えるようにしただけの鏡みたいなものだ」
「構いません。ベルは団長ですし、女神様。私は、貴女を信じます。彼は貴女の始めての眷属なのでしょ?」
そうしてベルも寝室に入り、ヘスティアから渡されたリヒターの【ステイタス】が記された紙をマジマジと見つめ、プルプル震え、力も入りその紙は少しよれてしまっている。
「す……。すごい! うわぁ! 魔法だ! スキルだ! すごい! 本当にレベル
ガバッ! と紙から視線を外し、キラキラと輝く視線でベルはリヒターを見つめる。
その語気はどんどん強く、思わず気押されてしまう。
女性にかっこいい、とはどうなのかなど気にしてはいけない。
そこにはただ憧れたる英雄の片鱗を備えた人を目の前にした、その白髪の輝きにも負けない、純粋な少年しかいなかったのだから。
「あ、ありがとうございます」
未だ「うわぁ〜」だとか「すごいっ」だとか呆けているベルにヘスティアが付き添い、次第に一緒になって浮かれ始める。
リヒターのことをまるで自分のことのように喜び、褒めている。
そんな二人をベットに座ったままリヒターは眺めている。
とても暖かな場所だ、と思わず漏れ出た笑みに一欠片の罪悪感を心の内側で滲ませ、リヒターも二人へと近づく。
どうか、今は許して欲しい。
彼女もまた、ただ守ることのできなかった少女なのだから。
いつか、自分の口からきちんと話をしよう。
きっと聞いてくれる。
そんな確証はなくとも確信のある希望を胸に抱き、彼女の冒険は再始する。