今回は、もうそれっぽい伏線もバンバン入れていきます。
目覚めは、気分が良かった。
心地よい朝日が窓から注ぎ込む。
「ふぁ〜あ〜・・・っと」
そして、ベッドから降り、寝巻きから部屋着に着替える。洗面所で顔を洗い、リビングルーム兼ダイニングルームに朝食をとりに行く。
「おっはよー・・・って、あれ?」
だが、朝食は用意されていなかった。いや、それだけなら、すわ自分は何かやらかしたのかと心配するだけで済んだであろう。正確に描写すると、
「・・・ん〜?」
家中を走り回り、全てのドアを開け、全ての部屋の中を見た。父親が隠していたエロ本も見つけてしまったが、そんなものはどうでも良い(見つけた瞬間に、ベランダに走り出て、マッチの火で燃やした。完全に黒くなったタイミングで水をぶっかけたが、
「おっかしいな。誰もいないなんて、普段ありえないのに」
そうぼやきつつ、簡単な朝食を作る。幸い、ご飯は冷凍してあったので、作るのは味噌汁と目玉焼きだけで良かった。
20分ほどで、調理および解凍は終わった。
「いただきまーす」
そう言って、そそくさと朝食を平らげ、
「ごちそーさまでした」
と、食器を洗い、片付ける。
そして、無言で家を出た。
その瞬間、
ガ タッ
と、
「・・・・・・・・・・・・は?」
炫は、面食らった。そして、現実から逃避するために、ドアに入ろうとしたが、
「嘘でしょ・・・?」
ちょうど、そこが切り離されていた。
「どーなってるのさこれ・・・。って、誰かいませんか───ッ!」
焦りから、訳もわからずそう叫ぶと。
「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっと!」
近くのマンションから、タキシードをまとった女性が落ちてきた。
「え、ちょ、え? 空から女の人が!?」
戸惑う炫。
「いっつう・・・。ね、何が起こったの?」
「そ、それより! あ、あなたは誰!?」
「私は
落ちてきた女性は、そう名乗った。その出立ちを見た炫は。
──もしかして。
「男装趣味!?」
思わず口に出してしまった。
「悪いかい?」
「いいえ」
むしろ、喜んでいた。サブカルチャーでしかお目にかかれなかった男装女子に会えて、内心興奮が抑えられないのだ。
だが、そんな場合ではないのもまた事実。炫は深呼吸し、名乗る。
「えーっと、私は、吾野炫って言います」
「ふーん。じゃ、炫ちゃんと呼ぼう。おねーさんのことは、気軽に峰留サンと呼んでね」
「は、はぁ・・・」
そのコミュ力の高さに、思わずたじろいでしまう炫であった。
「峰留サンは、何か知っていますか?」
炫は、訊いた
いつの間にか、世界の形は元に戻っていた。人間を除いて。
「んー? 知ってるって、何を?」
悪戯っぽく、峰留は答える。
「この世界のことです。普段なら、この時間帯は、そこの交差点なんかに車がたくさん通りますし、小中高生も通学に利用するので、そこそこ人はいるはずなんです。でも、それが、今日に限って無い」
「うーん、確かに。私も、あのマンションの15階に住んでるからね。下々の様子を見ながらのティータイムは、最高に楽しいぜ」
「うわーお悪趣味ー」
「ふっふっふ」
まるで悪党のような台詞を吐く。無論、それはおふざけの一環である。
「そうなんだよねー。この状況はいくらなんでもおかしい」
「どうしましょう・・・。今日は模試があるのに・・・」
峰留は、目を丸くする。
「えー? そんなのサボっちゃいなよ。それに、こんな異常事態でもそんなことを気にできるのが意外かなー」
「だって、こうでもしなきゃ平静を保てないんですよ」
「ふーん、そんなもんか。ま、思春期ってやつだね。で、どうしよっか」
「どうする、と言いますと?」
「だから、他に生きてる・・・いや、違うな。
「ふむふむ」
そう言うと、峰留は、マンションに足を向けた。
「え? どこに行くんです?」
炫がそう訊くと、
「決まってるじゃないか。近いところから探すってのが、鉄板だと思うけどね」
「あー、それもそうですね」
炫は納得し、峰留を追ってマンションに入った。
マンションの608号室前にたどり着いた。
「誰かいませんかー! ちょっとー! いるなら返事してくださーい!」
ガンガンとドアを蹴りながら、峰留は叫ぶ。完全に近所迷惑であるが、峰留いわく「非常時なのでモーマンタイ」だそうである。
しかし、何度蹴っても返事は来なかった。1階から順に確かめており、ここで49部屋目である(このマンションは、1階は6部屋、2〜5階で7部屋づつ、6〜15階は8部屋づつの15階建なのだ)。
「ちっきしょう、ここもダメなのか・・・」
諦めて、峰留は毒づいた。
「本当にいるんですかね・・・」
炫は、すでに諦めモードに突入していた。
そう言いながらも、峰留に付き合っているのは、なんだかんだ自分自身も気になるからであろう。
二人は、701号室前に向かった。
「誰かいませんかー!」
そう叫んで、ドアを蹴る。手はポケットに突っ込んでおり、見る人が見れば、顔が怖くなっているのもあり、ヤクザものと見られてもおかしくはないだろう。
そして、ついに、50部屋目にして初めて、ドアの向こうから反応が返ってきた。
「いますよ。もしかして、生存者の方ですか」
という声が、返ってきたのだ。
「よっしゃあ!」
その喜びを全身で表現すべく、峰留は、ダイナミックなガッツポーズを披露した。
「でも、なんか変じゃないですか?」
炫は、疑問を呈する。そう、声が震えていたのだ。いや、言葉は正確に使わなければなるまい。正確には、小説という媒体では伝わりにくいが(それでも、特殊タグという機能のおかげで、だいぶ意図を伝えやすくなっている。これが、電子という媒体の利点なのだ)、声にノイズが走っているのだ。
「そうだろうね。でも、虎穴に入らずんば虎子を得ず。当たって砕けろってやつだよ。というわけで、入ってもいいですかー?」
峰留は、その疑問を受け流し、もう一度叫ぶ。
「いいですよ。どうぞお入りください」
相手は、許可を出した。
「では遠慮なく。しっつれいしまーす!」
と叫び、リビングルームに向かった。その後を、炫も追う。
そして、リビングルームの扉を開けたその瞬間。
「馬鹿な奴らだ」
シュタ─────ッ! と、二人の頭のわずか1mm横を、一本の針のようなものが通過した。
「は?」
「・・・なんか、嫌な予感がする」
一瞬、針が通り過ぎた方向──北を見つめ、視線を南に戻すと、そこには、男がいた。
「当然、生き残るか。まぁ、小手調べだったからな」
「何言ってるんですか? ってか、死ぬところでしたよ下手したら!?」
衝撃のあまり、思わず炫が抗議するが、
「お前は何を言っている? それより、学校で習わなかったのか? 初対面の人間には気をつけろってな」
意に介した様子はない。
「不審者には気をつけろ、とは習いましたけど! どういうことなんですかこれは!」
すると、男は、怪訝な顔をした。
「何? その反応から察するに、そうか、まだ
「世界の法則? なんだい、それ」
峰留は、あくまで飄々とした調子を崩さずに言う。彼女自身はまだ22歳ではあるものの、ポーカーフェイスを友人と遊んでいるうちに身につけたのである。
──まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったけどねー、これ。カジノの真似事しててよかったー。
無論、賭けていたのはラムネ(菓子のラムネ。ラモネェドとは無関係)とかクッキーとか、そういう他愛のないものであったことを記しておこう。
「そう、この「崩れた」世界の法則だ。我々生存者は、
「ギフト・・・? って、一体なんですか?」
おずおずと、炫が口を開く。彼女にとって、この状況は、理解の範疇外にある。何が何だかさっぱりわからないのだ。
「ギフト・・・。確か、英語じゃ『贈り物』、ドイツ語じゃ『毒』、って意味だったはず。つまり、そういうもの、ってことかな?」
峰留の推測に、
「御名答。
男は答えた。
「じゃあ、どこからそんな知識が来るわけ? まさか、広辞苑に載ってるとかじゃないよね?」
「もちろんだ、そんなわけあるか。・・・与えられるんだよ。この、「崩れた」世界の情報が、何かから、頭の中に!」
「なんてRPGな仕様なんですか・・・?」
炫は、本当に理解できないという様子だった。いや、頭では理解できているのだ。だが、心がそれを拒んでいる。理解したら、何かが崩れてしまいそうで──。
「!」
突如、何の前触れもなく、峰留が苦しみ出した。
「峰留サン!」
「あ、熱い・・・! 身体が、脳味噌が! なんだこれ、どうなってるのさ!」
「ほう、始まったか」
「始まったって、何がですか!」
「覚醒だよ。そこな女も、我々の世界に足を踏み入れた、というわけだ」
数秒すると、峰留は元に戻った。だが、目つきが少し違う。会った当初に比べて、わずか3°程、目尻が吊り上がっているのだ。
すなわち、獣。
アフリカのサバンナで、草食動物を狩る肉食動物の如き獰猛な眼。
「炫ちゃんは逃げて。逃げらんなくても、どっかに身を隠して」
「ふぇ・・・?」
「これから始まるのは、殺し合いだから」
そう言うと、峰留は、男に向けて右手を翳した。
すると。
ピキィ─────ン、と、炫を取り囲むように、氷の壁ができた。
「こ、これは・・・?」
炫は狼狽える。
「私の天贈みたい。名前は、
「ほう、ならば防いでみろ。我が天贈、
男は、峰留に向けて、髪の毛を発射した。だが、弾切れになることはあり得ない。なぜなら、撃ったそばから、髪の毛が補充されるからである。
それを、峰留は、
「・・・消えろ」
自分に若干触れたタイミングで、次々に消失させた。いや、言葉は正確に使わねばなるまい。峰留は、髪の毛の針を、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄などの原子に分解してしまったのだ。
「す、すごい・・・!」
炫は感心するが。
内心、峰留は焦っていた。
そう、防戦一方なのである。止まることを知らない髪の毛の攻撃。現在峰留は、戦闘に不慣れなこともあり、髪の毛を分解するだけで精一杯なのである。
──このままだと、ジリ貧ってやつか。キッツイなー、これを相手にするの。
その焦りは、やがて表情にも現れてしまう。男からは見えていないが、炫にはバッチリ見えている。
──峰留サン、どうすれば・・・
炫も、焦る。どうすれば、峰留を助けられるのか、悩む。
そして、数秒後。
「─────ッ!」
炫にも、先ほどの峰留のような苦しみが襲ってきたのだ。
「うっ、あ、熱い・・・! でも、力が、溢れて・・・!」
それを、峰留は目撃した。
「炫ちゃんッ!? ・・・そっか、こっち側に来たのか。出会ってちょっとしか経ってないけど、複雑な気分だねー」
「ほう、その女も覚醒するか。ならば、まとめて殺すのみッ!」
そう言って、男は、髪の毛を炫にむけて発射した。
「ッ、危ない!」
峰留は、集中が解けてしまった。そして、反応するのにワンテンポ遅れてしまった。
炫に、真っ直ぐに針が向かう。
だが、その針が刺さることはなかった。
なぜなら。
「何・・・? どう言うことだ、この髪の毛針は、人の肌、いや、動物細胞程度ならば容易く貫くはず・・・、まさかッ!?」
そう、炫は、無意識のうちに、自分の細胞に、細胞壁を生成していたのである。
「峰留サンは休んでてください。疲れたでしょ?」
「うーん、まあね。今は、カロリーメイトとか食べたい感じ」
「それは後で。今は寝ててください」
「りょーかい」
峰留は、素直に目を閉じた。
さて。
「私の天贈は、
炫は、人が変わったかのように好戦的となった。
そして、男が髪の毛針を発動する前に、男の喉に向けて左手の鋭い爪を伸ばし、突き刺した。
それだけでも死んでしまいそうなものだが、炫は追い打ちをかける。喉から爪を引き抜くと、今度は、右腕を、男の鳩尾に向けて急速に伸ばした。今度は、左手でピースサインを作り、男の目を爪で潰した。最後に、全身の頸動脈を切断し、男は絶命した。
と同時に、炫も、元の穏やかな性格に戻った。
「おー、綺麗に終わったねー」
峰留は目を開け、男の死体を視界に入れると、
「・・・前言撤回。死体がグロいわ」
とボヤいた。
すると、炫の中に、何かが流れ込んでくる感覚がした。男の天贈、髪の毛針を獲得したのだ。
「え、どうしてあの人の天贈が・・・?」
炫は、動揺していた。狼狽えていた、と言うべきかもしれない。戦闘中ならばともかく、現在の炫には、少しばかり受け入れ難い現実であろう。
「命を、頂いたんだよ。これが、この「崩れた」世界の法則だ」
峰留は、そうフォローした。フォローになっていないかもしれないが、気休めには十分な一言である。
二人は、これからのことを話し合った。
その結果、次のことが決まった。
一つ、最後の二人になるまでは決して殺し合わないこと。
一つ、基本的にツーマンセルを崩さないこと。
この「崩れた」世界においてそれは、甘すぎるとしか言いようがない。だが、これが、平時の炫と峰留のテンションなのだ。馬があったと言うやつであろう。
こうして、炫と峰留の旅が始まった。本当はこの場を動かなくても良いのだが、なにぶん、知的好奇心を刺激されたのだ。世界を崩したのは何者か、そしてその目的は。それを解くには、足で探すことが大事だと、ミステリ小説で習ったのだ。
:::
とある荒野
「ぬぅんッ!」
「おごあっ!?」
男が、男を殺した。天贈を使わず、純粋な体術を駆使して。今回は、蹴りで相手の首の骨を折った。
「やはり、弱い。そうか、やはり、日本に行かねばならんか・・・」
この男の名は、
いかがでしたか?
原子崩壊(メルトダウン)、細胞操作(セルゲーム)。どこかで聞いたことがあると思いませんか? ありますよね?(圧)。
この二つの天贈(ギフト)の名前には、元ネタがあるんです。原子崩壊の方は、とある魔術の禁書目録の麦野沈利の能力、原子崩し(メルトダウナー)。細胞操作は、もう隠す気もないですが、ドラゴンボールでセルが行った、セルゲームです。
あと、今回炫にやられた男の名前は「時計針(とけいばり)身命(しんみょう)」で、45歳の自由業です。元々は、二人でノックアウトするつもりだったのですが、この形に落ち着きました。
黎明が倒した男の名は、マルクス・ロマネコンティ。万物開栓(グランドオープナー)という天贈を持っていましたが、その全容は不明です。まあ、きっと黎明が使ってくれるでしょう。
さて、次回の「ブロークン・ワールド」は。
トンネルを抜けて下った先のショッピングモールで、炫と峰留の前に、人を操る敵が現れます。
一方、黎明も、日本に向けて足を進めています。
二人は、この死闘をどのように乗り越えるのか?
そして、黎明のもつ天贈とは?
次回、第2話。「共有、行軍」に、ご期待ください。
感想と評価も、お待ちしております。