ブロークン・ワールド   作:吾妻原昌孝

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お待たせしました、第1話です。
今回は、もうそれっぽい伏線もバンバン入れていきます。


第1話「遭遇、会敵」

 目覚めは、気分が良かった。

 心地よい朝日が窓から注ぎ込む。

 吾野(あがの)(かがやく)は、あくびをした。

「ふぁ〜あ〜・・・っと」

 そして、ベッドから降り、寝巻きから部屋着に着替える。洗面所で顔を洗い、リビングルーム兼ダイニングルームに朝食をとりに行く。

「おっはよー・・・って、あれ?」

 だが、朝食は用意されていなかった。いや、それだけなら、すわ自分は何かやらかしたのかと心配するだけで済んだであろう。正確に描写すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「・・・ん〜?」

 家中を走り回り、全てのドアを開け、全ての部屋の中を見た。父親が隠していたエロ本も見つけてしまったが、そんなものはどうでも良い(見つけた瞬間に、ベランダに走り出て、マッチの火で燃やした。完全に黒くなったタイミングで水をぶっかけたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())。

「おっかしいな。誰もいないなんて、普段ありえないのに」

 そうぼやきつつ、簡単な朝食を作る。幸い、ご飯は冷凍してあったので、作るのは味噌汁と目玉焼きだけで良かった。

 20分ほどで、調理および解凍は終わった。

「いただきまーす」

 そう言って、そそくさと朝食を平らげ、

「ごちそーさまでした」

 と、食器を洗い、片付ける。

 そして、無言で家を出た。

 その瞬間、

 

ガ                                                                                     タッ

 

 と、()()()()()()()()()()()()()()

「・・・・・・・・・・・・は?」

 炫は、面食らった。そして、現実から逃避するために、ドアに入ろうとしたが、

「嘘でしょ・・・?」

 ちょうど、そこが切り離されていた。

「どーなってるのさこれ・・・。って、誰かいませんか───ッ!」

 焦りから、訳もわからずそう叫ぶと。

ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっと!」

 近くのマンションから、タキシードをまとった女性が落ちてきた。

「え、ちょ、え? 空から女の人が!?」

 戸惑う炫。

「いっつう・・・。ね、何が起こったの?」

「そ、それより! あ、あなたは誰!?」

「私は朋琳(ほうりん)峰留(ほうる)。タキシードは気にしないで」

 落ちてきた女性は、そう名乗った。その出立ちを見た炫は。

──もしかして。

「男装趣味!?」

 思わず口に出してしまった。

「悪いかい?」

「いいえ」

 むしろ、喜んでいた。サブカルチャーでしかお目にかかれなかった男装女子に会えて、内心興奮が抑えられないのだ。

 だが、そんな場合ではないのもまた事実。炫は深呼吸し、名乗る。

「えーっと、私は、吾野炫って言います」

「ふーん。じゃ、炫ちゃんと呼ぼう。おねーさんのことは、気軽に峰留サンと呼んでね」

「は、はぁ・・・」

 そのコミュ力の高さに、思わずたじろいでしまう炫であった。

 

「峰留サンは、何か知っていますか?」

 炫は、訊いた

 いつの間にか、世界の形は元に戻っていた。人間を除いて。

「んー? 知ってるって、何を?」

 悪戯っぽく、峰留は答える。

「この世界のことです。普段なら、この時間帯は、そこの交差点なんかに車がたくさん通りますし、小中高生も通学に利用するので、そこそこ人はいるはずなんです。でも、それが、今日に限って無い」

「うーん、確かに。私も、あのマンションの15階に住んでるからね。下々の様子を見ながらのティータイムは、最高に楽しいぜ」

「うわーお悪趣味ー」

「ふっふっふ」

 まるで悪党のような台詞を吐く。無論、それはおふざけの一環である。

「そうなんだよねー。この状況はいくらなんでもおかしい」

「どうしましょう・・・。今日は模試があるのに・・・」

 峰留は、目を丸くする。

「えー? そんなのサボっちゃいなよ。それに、こんな異常事態でもそんなことを気にできるのが意外かなー」

「だって、こうでもしなきゃ平静を保てないんですよ」

「ふーん、そんなもんか。ま、思春期ってやつだね。で、どうしよっか」

「どうする、と言いますと?」

「だから、他に生きてる・・・いや、違うな。()()人間を探すかってこと。流石に、この世界で二人っきり、なんてことはないと思うからね」

「ふむふむ」

 そう言うと、峰留は、マンションに足を向けた。

「え? どこに行くんです?」

 炫がそう訊くと、

「決まってるじゃないか。近いところから探すってのが、鉄板だと思うけどね」

「あー、それもそうですね」

 炫は納得し、峰留を追ってマンションに入った。

 

 マンションの608号室前にたどり着いた。

「誰かいませんかー! ちょっとー! いるなら返事してくださーい!」

 ガンガンとドアを蹴りながら、峰留は叫ぶ。完全に近所迷惑であるが、峰留いわく「非常時なのでモーマンタイ」だそうである。

 しかし、何度蹴っても返事は来なかった。1階から順に確かめており、ここで49部屋目である(このマンションは、1階は6部屋、2〜5階で7部屋づつ、6〜15階は8部屋づつの15階建なのだ)。

「ちっきしょう、ここもダメなのか・・・」

 諦めて、峰留は毒づいた。

「本当にいるんですかね・・・」

 炫は、すでに諦めモードに突入していた。

 そう言いながらも、峰留に付き合っているのは、なんだかんだ自分自身も気になるからであろう。

 二人は、701号室前に向かった。

「誰かいませんかー!」

 そう叫んで、ドアを蹴る。手はポケットに突っ込んでおり、見る人が見れば、顔が怖くなっているのもあり、ヤクザものと見られてもおかしくはないだろう。

 そして、ついに、50部屋目にして初めて、ドアの向こうから反応が返ってきた。

「いますよ。もしかして、生存者の方ですか」

 という声が、返ってきたのだ。

「よっしゃあ!」

 その喜びを全身で表現すべく、峰留は、ダイナミックなガッツポーズを披露した。

「でも、なんか変じゃないですか?」

 炫は、疑問を呈する。そう、声が震えていたのだ。いや、言葉は正確に使わなければなるまい。正確には、小説という媒体では伝わりにくいが(それでも、特殊タグという機能のおかげで、だいぶ意図を伝えやすくなっている。これが、電子という媒体の利点なのだ)、声にノイズが走っているのだ。

「そうだろうね。でも、虎穴に入らずんば虎子を得ず。当たって砕けろってやつだよ。というわけで、入ってもいいですかー?」

 峰留は、その疑問を受け流し、もう一度叫ぶ。

「いいですよ。どうぞお入りください」

 相手は、許可を出した。

「では遠慮なく。しっつれいしまーす!」

 と叫び、リビングルームに向かった。その後を、炫も追う。

 そして、リビングルームの扉を開けたその瞬間。

「馬鹿な奴らだ」

 シュタ─────ッ! と、二人の頭のわずか1mm横を、一本の針のようなものが通過した。

「は?」

「・・・なんか、嫌な予感がする」

 一瞬、針が通り過ぎた方向──北を見つめ、視線を南に戻すと、そこには、男がいた。

「当然、生き残るか。まぁ、小手調べだったからな」

「何言ってるんですか? ってか、死ぬところでしたよ下手したら!?」

 衝撃のあまり、思わず炫が抗議するが、

「お前は何を言っている? それより、学校で習わなかったのか? 初対面の人間には気をつけろってな」

 意に介した様子はない。

「不審者には気をつけろ、とは習いましたけど! どういうことなんですかこれは!」

 すると、男は、怪訝な顔をした。

「何? その反応から察するに、そうか、まだ覚醒(めざめ)ていないのか。ならばすまない、説明しておくべきだったか。この「崩れた」世界の法則を」

「世界の法則? なんだい、それ」

 峰留は、あくまで飄々とした調子を崩さずに言う。彼女自身はまだ22歳ではあるものの、ポーカーフェイスを友人と遊んでいるうちに身につけたのである。

──まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったけどねー、これ。カジノの真似事しててよかったー。

 無論、賭けていたのはラムネ(菓子のラムネ。ラモネェドとは無関係)とかクッキーとか、そういう他愛のないものであったことを記しておこう。

「そう、この「崩れた」世界の法則だ。我々生存者は、天贈(ギフト)を一つ持っている。それを、最後の一人になるまで奪い合うのさ」

「ギフト・・・? って、一体なんですか?」

 おずおずと、炫が口を開く。彼女にとって、この状況は、理解の範疇外にある。何が何だかさっぱりわからないのだ。

「ギフト・・・。確か、英語じゃ『贈り物』、ドイツ語じゃ『毒』、って意味だったはず。つまり、そういうもの、ってことかな?」

 峰留の推測に、

「御名答。天贈(ギフト)とは、我らに与えられた能力のことを指す。それらは千差万別でな、例えば俺なら、さっき見せたように髪の毛を飛ばすことができるのさ。もっとも、他の奴等については知らんがね」

 男は答えた。

「じゃあ、どこからそんな知識が来るわけ? まさか、広辞苑に載ってるとかじゃないよね?」

「もちろんだ、そんなわけあるか。・・・与えられるんだよ。この、「崩れた」世界の情報が、何かから、頭の中に!」

「なんてRPGな仕様なんですか・・・?」

 炫は、本当に理解できないという様子だった。いや、頭では理解できているのだ。だが、心がそれを拒んでいる。理解したら、何かが崩れてしまいそうで──。

「!」

 突如、何の前触れもなく、峰留が苦しみ出した。

「峰留サン!」

「あ、熱い・・・! 身体が、脳味噌が! なんだこれ、どうなってるのさ!」

「ほう、始まったか」

「始まったって、何がですか!」

「覚醒だよ。そこな女も、我々の世界に足を踏み入れた、というわけだ」 

 数秒すると、峰留は元に戻った。だが、目つきが少し違う。会った当初に比べて、わずか3°程、目尻が吊り上がっているのだ。

 すなわち、獣。

 アフリカのサバンナで、草食動物を狩る肉食動物の如き獰猛な眼。

「炫ちゃんは逃げて。逃げらんなくても、どっかに身を隠して」

「ふぇ・・・?」

「これから始まるのは、殺し合いだから」

 そう言うと、峰留は、男に向けて右手を翳した。

 すると。

 ピキィ─────ン、と、炫を取り囲むように、氷の壁ができた。

「こ、これは・・・?」

 炫は狼狽える。

「私の天贈みたい。名前は、原子崩壊(メルトダウン)。安心して、すぐ終わらせるから」

「ほう、ならば防いでみろ。我が天贈、髪の毛針(ヘアースピア)をッ!」

 男は、峰留に向けて、髪の毛を発射した。だが、弾切れになることはあり得ない。なぜなら、撃ったそばから、髪の毛が補充されるからである。

 それを、峰留は、

「・・・消えろ」

 自分に若干触れたタイミングで、次々に消失させた。いや、言葉は正確に使わねばなるまい。峰留は、髪の毛の針を、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄などの原子に分解してしまったのだ。

「す、すごい・・・!」

 炫は感心するが。

 内心、峰留は焦っていた。

 そう、防戦一方なのである。止まることを知らない髪の毛の攻撃。現在峰留は、戦闘に不慣れなこともあり、髪の毛を分解するだけで精一杯なのである。

──このままだと、ジリ貧ってやつか。キッツイなー、これを相手にするの。

 その焦りは、やがて表情にも現れてしまう。男からは見えていないが、炫にはバッチリ見えている。

──峰留サン、どうすれば・・・

 炫も、焦る。どうすれば、峰留を助けられるのか、悩む。

 そして、数秒後。

「─────ッ!」

 炫にも、先ほどの峰留のような苦しみが襲ってきたのだ。

「うっ、あ、熱い・・・! でも、力が、溢れて・・・!」

 それを、峰留は目撃した。

「炫ちゃんッ!? ・・・そっか、こっち側に来たのか。出会ってちょっとしか経ってないけど、複雑な気分だねー」

「ほう、その女も覚醒するか。ならば、まとめて殺すのみッ!」

 そう言って、男は、髪の毛を炫にむけて発射した。

「ッ、危ない!」

 峰留は、集中が解けてしまった。そして、反応するのにワンテンポ遅れてしまった。

 炫に、真っ直ぐに針が向かう。

 だが、その針が刺さることはなかった。

 なぜなら。

「何・・・? どう言うことだ、この髪の毛針は、人の肌、いや、動物細胞程度ならば容易く貫くはず・・・、まさかッ!?」

 そう、炫は、無意識のうちに、自分の細胞に、細胞壁を生成していたのである。

「峰留サンは休んでてください。疲れたでしょ?」

「うーん、まあね。今は、カロリーメイトとか食べたい感じ」

「それは後で。今は寝ててください」

「りょーかい」

 峰留は、素直に目を閉じた。

 さて。

「私の天贈は、細胞操作(セルゲーム)。これなら、あなたに勝てるはず。安心してください、命までは取らないと思います。保証はしませんけど」

 炫は、人が変わったかのように好戦的となった。

 そして、男が髪の毛針を発動する前に、男の喉に向けて左手の鋭い爪を伸ばし、突き刺した。

 それだけでも死んでしまいそうなものだが、炫は追い打ちをかける。喉から爪を引き抜くと、今度は、右腕を、男の鳩尾に向けて急速に伸ばした。今度は、左手でピースサインを作り、男の目を爪で潰した。最後に、全身の頸動脈を切断し、男は絶命した。

 と同時に、炫も、元の穏やかな性格に戻った。

「おー、綺麗に終わったねー」

 峰留は目を開け、男の死体を視界に入れると、

「・・・前言撤回。死体がグロいわ」

 とボヤいた。

 すると、炫の中に、何かが流れ込んでくる感覚がした。男の天贈、髪の毛針を獲得したのだ。

「え、どうしてあの人の天贈が・・・?」

 炫は、動揺していた。狼狽えていた、と言うべきかもしれない。戦闘中ならばともかく、現在の炫には、少しばかり受け入れ難い現実であろう。

「命を、頂いたんだよ。これが、この「崩れた」世界の法則だ」

 峰留は、そうフォローした。フォローになっていないかもしれないが、気休めには十分な一言である。

 

 二人は、これからのことを話し合った。

 その結果、次のことが決まった。

 一つ、最後の二人になるまでは決して殺し合わないこと。

 一つ、基本的にツーマンセルを崩さないこと。

 この「崩れた」世界においてそれは、甘すぎるとしか言いようがない。だが、これが、平時の炫と峰留のテンションなのだ。馬があったと言うやつであろう。

 こうして、炫と峰留の旅が始まった。本当はこの場を動かなくても良いのだが、なにぶん、知的好奇心を刺激されたのだ。世界を崩したのは何者か、そしてその目的は。それを解くには、足で探すことが大事だと、ミステリ小説で習ったのだ。

 

:::

 

 とある荒野

 

「ぬぅんッ!」

「おごあっ!?」

 男が、男を殺した。天贈を使わず、純粋な体術を駆使して。今回は、蹴りで相手の首の骨を折った。

「やはり、弱い。そうか、やはり、日本に行かねばならんか・・・」

 この男の名は、慚愧奝(ざんきおおき)黎明(れいめい)。いずれ、炫と相対することになるのだが、この時の彼に、それを知る由はなかった。




いかがでしたか?
原子崩壊(メルトダウン)、細胞操作(セルゲーム)。どこかで聞いたことがあると思いませんか? ありますよね?(圧)。
この二つの天贈(ギフト)の名前には、元ネタがあるんです。原子崩壊の方は、とある魔術の禁書目録の麦野沈利の能力、原子崩し(メルトダウナー)。細胞操作は、もう隠す気もないですが、ドラゴンボールでセルが行った、セルゲームです。
あと、今回炫にやられた男の名前は「時計針(とけいばり)身命(しんみょう)」で、45歳の自由業です。元々は、二人でノックアウトするつもりだったのですが、この形に落ち着きました。
黎明が倒した男の名は、マルクス・ロマネコンティ。万物開栓(グランドオープナー)という天贈を持っていましたが、その全容は不明です。まあ、きっと黎明が使ってくれるでしょう。

さて、次回の「ブロークン・ワールド」は。
トンネルを抜けて下った先のショッピングモールで、炫と峰留の前に、人を操る敵が現れます。
一方、黎明も、日本に向けて足を進めています。
二人は、この死闘をどのように乗り越えるのか?
そして、黎明のもつ天贈とは?
次回、第2話。「共有、行軍」に、ご期待ください。

感想と評価も、お待ちしております。
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