ブロークン・ワールド   作:吾妻原昌孝

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お待たせしました。ブロークン・ワールド第2話です。


第2話「共有、行軍」

 (かがやく)峰留(ほうる)は、電車の通るべきだったトンネルを抜け、市街地にたどり着いた。

「何か、生活物資が必要だよねー。どっかアテはないかな」

「え、もしかして万b「いいかい、細かいことは気にしたら負けだ。そもそも、今のこの世界で法なんて機能していると思うかい?」・・・思いません」

「それに、罪悪感を抱くのなら、この世界が元に戻った時に、償えばいい」

 峰留(ほうる)は、わかりやすく窃盗を提案した。無論、これは法というものが意味をなさなくなったこの世界だからこそできることであり、我々がやると間違いなくお縄につくことになる。

「それも・・・そうですね」

 (かがやく)も、納得した。

 ちょうど、市の中心部の駅にたどり着いた時だった。

「えーと、ドリームまちは、南だったよね・・・?」

「そうですね。私も、よく使ってましたから」

 ドリームまちとは、市内最大規模のショッピングモールである。県内にもいくつか店舗を構えている。また、ドリームマートなるスーパーマーケットも存在している。豊富な品揃えに加え、いくつもの専門店を持つことから、人気なのだ。

 駅から、徒歩10分程度で到着できる、かなりお手軽な店だ。

「こんなにのんびりしてていいんですか・・・・?」

 (かがやく)が、疑問を呈した。

「それはどういうことかな?」

「いやだって、いつ何が起こるかわかんないじゃないですか」

「いーよいーよ、そんなの気にしなくて。どうせ、144人しか生き残ってないんだ。この辺に集中してるわけないでしょ」

 峰留(ほうる)は、楽観的な考えを口にした。

 しかし、その発言は、見事に裏切られることになる。

 

:::

 

 峰留(ほうる)は、昨日の死んだ自動ドアを蹴破って、ショッピングモール・ドリームまちに入店した。

 ドリームまちは、3階部分までが店となっており、4、5階と屋上が駐車場となっている。

 今回峰留(ほうる)が目当てにするのは、1階部分の食品売り場である。そこには、生鮮食品から加工食品、果てはお菓子付きプラモデルやお菓子付き玩具など、さまざまなものが揃っている。峰留(ほうる)は、できるだけ長持ちするもの、すなわちビスケットやインスタント食品を目的にしている。インスタント食品は、大抵お湯が必要となるが、それについては心配無用である。なぜなら、彼女の原子崩壊(メルトダウン)を活用すれば、水を熱してお湯にすることなど朝飯前だからである。

「よーし、じゃあ、これとこれとこれ。あー、これも食べてみたかったんだよねー!」

 そう言って、買い物かごに物資をポイポイと投げ込んでいく。

「あの、なんか私欲が聞こえたような気がするのは気のせいですか、峰留(ほうる)サン?」

「気のせいだよー」

 本当だろうか、というツッコミは心の奥にしまっておく。(かがやく)は、ここまでの歩みの中で、一つ答えを得ていた。

 人を殺しておいて、万引き程度でガタガタいうか? と。

 無論、真人間としてあってはならない思考である。しかし、この世界は、そもそも狂っていると言って過言ではない。朝目が覚めると多くの人間が消失し、空から女が降ってきて、挙げ句の果てに能力バトルの殺し合い。感覚が麻痺するなというのが無茶な話である。

 そして、(かがやく)は別の疑問を提示した。

「それにしても、どうして魚とかお肉とか、そういうのには手を出さないんですか?」

「それはねー、肉の場合、単純に焼くのがめんどくさい。で、両方に当てはまるんだけど、寄生虫とかウイルスとか、そういうのが怖い」

 (かがやく)は驚いた様子であった。

「え、でも、原子崩壊(メルトダウン)で殺してしまえば・・・」

「そう思うでしょ? でもね、あくまでこれは()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。ああいうのって、大体目に見えないくらいちっさいでしょ? だから、間違えて食材を消しちゃうかもしれない。実際にはやったことないからわかんないけどね。だからこそ、安全なインスタント食品を使うってわけ。それに、どうも冷房の機能が死んでるみたいだから、腐ってるやつにあたったら怖い」

「なるほそ」

 これは、(かがやく)の幼い頃からの言い間違いである。両親は、これを訂正することをしなかったため、定着してしまったのだ。同級生(主に(くもり))からは、「萌えだね」と言われている。

 恙無く、調達作業は終わった。誰の妨害もなかった。いや、あるとすればそれは奇跡的な確率であろう。70億人の中の、たった144人。しかも、極東の島国である。全ての大陸に分散していると考える方が普通である。

 そして、「せっかくだから生理用品なんかも調達しよう」という峰留(ほうる)の提案により、3階に上がることになった。エスカレーターやエレベーターは機能が死んでいるので、当然徒歩で上がった。

 1階と打って変わって、3階は異様な雰囲気に包まれていた。

「なんか、これ、空気が澱んでる・・・?」

「確かにそうだねー。気分が悪くなりそうだよ」

 両者の感性は、一致した。

 階段付近の書店の本棚を隠れ蓑に、スニーキング・ミッションを敢行した。

 果たして、書店には誰もいなかった。

 続いて、衣服専門店に向かう。衣服がそのまま遮蔽物になるうえ、試着室という立派な隠れ家がある。利用するならもってこいだ。

 そこに足を踏み入れた瞬間のことである。

「キュヒャヒャヒャ!」

 男が、ケノビのように降ってきたのだ。

「どっから湧いてきたんですかこの変態は!?」

「人種はモンゴロイド、しかも顔つき的に日本人!? どういう確率なのさこれ!?」

「分析してる場合ですか!?」

 戸惑いつつも、(かがやく)は爪を鋭利に伸ばし、男の頸動脈をためらうことなく切断した。

 だが、以前、髪の毛針(ヘアースピア)天贈(ギフト)の男を倒した時と違い、何かが流れ込んでくる感覚はなかった。

「・・・? どういうことなんでしょうか。何も流れてきません」

「それはおかしいな。こうしてここにいるってことは、コイツも天贈(ギフト)を持ってるはずなのに。まさか、ああしてラリってるのが・・・?」

 峰留(ほうる)は、違和感を覚えた。男は、口を開けて絶命したのだが、その中で何かが蠢いているように見えたのだ。

 それは、(かがやく)に向かって飛んできた。

「! (かがやく)ちゃん、危ないっッ!」

 そう叫び、峰留(ほうる)(かがやく)を突き飛ばす。と同時に、峰留(ほうる)の口内に、虫が入り込んだ。

 次の瞬間、峰留(ほうる)の目は虚になった。

「おーおー、端末の一つがやられたのは痛いが、いい女が手に入ったな」

 試着室の一つから、不良じみた青年が現れた。

「・・・あなたは?」

「まずは自分から名乗れよ。礼儀だぜ」

 質問を質問で返された形になるが、疑問は解消したい。呼び名がないのも不便だ。だから、素直に名乗ることにした。

吾野(あがの)(かがやく)

「スッゲー名前してんな。まーいい。俺は、無鈎条虫(むこうじょう)針金。相手を生かしたまま殺す天贈(ギフト)、その名も寄生蟲(パラサイトバグ)!」

「聞くからにヤバそうですね・・・」

「当たり前だろ? とりあえず、端末α、β、γ。この(かがやく)とかいうのを取り押さえろ」

 αとは、虫のような何かに寄生された峰留(ほうる)のことである。では、あとの二人は?

「ホヨッホヨッホヨッ」

「キリリリリリ」

 それぞれ、鼻が高く、ローマ人のような顔の濃さを持つ青年と、カレー屋の店主である。

「キュヒャヒャヒャ」

 そして、峰留(ほうる)。この中でいちばんの強敵は、峰留(ほうる)だ。理由は単純で、感情がストップをかけるのだ。他の二人とは違い、関わりを持っている。そこそこ距離は縮まっている。だからこそ、攻撃するのが躊躇われるのだ。

 実際、青年と店主は、ヘアースピアで顔面を滅多刺しにし、そのまま1階まで落とした。だが、峰留(ほうる)にはそれが出来なかったのだ。

──どうすれば・・・?

 しかし、ここで(かがやく)は、あることに気づく。

──あいつ、少しも動いてない・・・?

 そう、針金は、(かがやく)に近づくどころか、微動だにしていないのだ。

 峰留(ほうる)の攻撃を避けながら、思案する。唯一の救いは、峰留(ほうる)天贈(ギフト)を使ってこないところか。もし天贈(ギフト)を使われたなら、本作は今頃主人公死亡によって打ち切りとなっている。

──もしかして。

 (かがやく)は、あえて峰留(ほうる)を飛び越し、針金の前に降り立つ。

「な!?」

 そう驚愕する針金だったが、そんなことはお構いなく。峰留(ほうる)が自分の方に向かってくるが、少々の隙がある。

「とりあえず死ね。そうすれば解決するだろうから」

 そう言って(かがやく)は、針金の体を鋭利に伸ばした爪で切り裂いた。

 同時に、峰留(ほうる)は動きを止めた。

「・・・あれ? 私は何うぉえええ・・・」

 そして、正気を取り戻すと同時に、灰のようなものを思いっきり吐き出した。

「うわ汚いですね。これなんでしょう?」

「多分、あれだね。私の口の中に入ったやつ。こうしていられるってことは」

「ええ、私の中に流れてきたものと照らし合わせても、同じです。この寄生蟲(パラサイトバグ)、所有者が死ぬと、生み出された寄生虫は灰になってしまう。というふうに」

 峰留(ほうる)は、頭を抱えた。天贈(ギフト)についてではない。己の失態についてだ。

「いやー、(かがやく)ちゃんが助けてくれたから良かったけど、ほんとにやらかしたなー」

「気にしなくてもいいですよ。それより私、決めました」

「何を?」

「強くなります」

「そりゃまたどうして?」

「いつどこでどういう条件で、あなたが今回みたいになるのか解んないじゃないですか。そういう時に、絶対に元に戻せるように、です」

「そっか。じゃ、山の方にジムがあるはずだから、そこを拠点にしようか」

 峰留(ほうる)が提案した。

「そうですね。そこから情報を集めたり、物資補給に行ったりすればいいですもんね」

 二人は、ドリームまちを出て、市民球場の付近にある運動会館なるジムに向かった。

 そこには、多種多様なトレーニング器具が備わっていた。さらに、すぐそばにはグラウンドも広がっている。

 まさに、理想的な環境だ。

 二人はここを拠点とし、戦闘能力を上げることにした。




いかがでしたか?
今週は少しバタバタしてて、ほとんど今日の2、3時間だけで書き上げました。なので、かなりあっさり気味です。今後は、ちゃんとスケジュール管理もしたいと思っています。
今回の敵は、元々現豪(げんごう)頑念(がんねん)という名前で、天贈(ギフト)強制憑人(マインドシェア)という洗脳系の予定だったのですが、以前書き上げたものを読み返した時、マジで意味がわからない話だったので変えました。ただ、現豪(げんごう)頑念(がんねん)という人物は、どこかで出したいと思います。

さて、次回の「ブロークン・ワールド」は。
1ヶ月が過ぎ、護身術程度は覚えた(かがやく)たち。
そろそろ他の天贈(ギフト)を持つ者について調べようというときに、突如例を見ない大雨が降ってくる。当然それは人為的なものであった。
次回、第3話。「大雨、遊泳」に、ご期待ください。

感想、評価をお待ちしています。

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