コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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その7

 

 ロビーの奥へと静かに移動しながら、ふと思う。

 

「もしかして、過去の再現って外にも出せる?」

 

 だとすると、あの怖い人の説明がつくかもしれない。

 

「たまたま外にいた人が影響を受けて、過去の危ない人を再現してるだけだったりするのかな?」

 

 小さくそう口に出して見ると、なんだか納得できる気がしてきたけれど――綺興ちゃんが私の方を叩いて首を横に振る。

 

「もうちょっと冷静になろう存歌」

「え?」

「仮にそうだったとしても、あのおじさんがシャベルを持って外にいた理由が説明つかないでしょ?」

 

 まぁそれもそうか。

 それなら、えーっと……。

 

「綺興ちゃんと同じホラースポット好き?」

「暗くてよく見えなかったけど、なんか違うっぽい感じしなかった?」

「……うーん」

 

 思い返してみると、確かになんか地元の人って感じだったかもしれない。

 

「でもだとすると、本当にあの人がなんだったのかって話になるんだけど」

 

 綺興ちゃんがうーん……と唸るけれど、逆に私の頭の中には仮説のようなものが組み立てられはじめていた。

 

 所長さんが口にした、『不可解なコトがある』という言葉。

 そして、この怪異が、人喰いマンションと呼ばれるのは不思議であるという所長さんの疑問。

 

 銃声が視えたのも、入り口付近にあった打撃音や引きずる音、そして先ほどのシャベルを握った男性。

 

 こうなってくると、どうして入り口の男性が建物に入ってこれなかったのかが不思議になってくる。

 

 安全マージンを思うと……これ、上の階に行った方がいいかもなぁ……。

 

 怪異はルールさえ把握しちゃえば何とかかわせそうだけど、建物の周りをうろついてるらしい男性は……。

 

「……綺興ちゃん、二階に行こう。

 うまく説明できないけど、一階よりは安全な気がする」

「わかった」

 

 綺興ちゃんは異を唱えたり聞き返したりしないから、ちょっとびっくり。

 

「え?」

「え? って何よ、もう」

「いやいきなりこういうコト言うと聞き返すモンじゃない?」

「じゃあ理由を教えてくれる?」

「……カン?」

「まぁそれならそれで信じるけど」

「信じてくれるんだ」

「信じちゃダメなの?」

「全然OK! 話がはやくて助かる!」

 

 そうして私と綺興ちゃんは一緒に階段へと向かう。 

 

 綺興ちゃんと自分を守らないと。

 その為には、怖がってないで前に進まないと。

 

「闇に正しく恐怖して――偽りの光を見定め、正しい光に手を伸ばせ……」

 

 ヨシ――と小さく気合いを入れて、私は階段を上っていく。

 そうして階段を上りながら、過去を再現する現象について考える。

 

 ある程度のルールが分かれば回避もできるから、考えを巡らせるのは大事だと思う。

 

 私が受けていた影響が解除されたのは、所長さんが部屋に入ってきた時だ。

 じゃあ、私が影響を受けた時の始まりはどうだった?

 

 該当の部屋の前は、所長さんと二人で通り過ぎた。

 だけど、影響を受けたのは私だけ。

 

 再現現象にいたのは、女一人と、男二人。

 ……もしかして、私があの部屋の前で一人のなったから発動した?

 

 あの場に、所長さんのほかにもう一人男性がいたら、三人まとめて影響を受けた可能性とかない?

 

 ……そう考えると、ある程度の再現しやすさというか、キャスト人数のバランスみたいな条件が揃っている場合に発動する――が正しい気がする。

 解除されたのは、そのバランスが崩れたから……とか?

 

 そんなことを考えているうちに、階段を上りきって二階にたどり着く。

 

「さて、階段から少し離れたいけど、綺興ちゃんは平気?」

「大丈夫。怖いけど、ちょっとわくわくもしてるし」

「相変わらずだねぇ」

 

 そんなやりとりをしつつ、私たちは廊下へと出た。

 

「完全に安全なところはないだろうけど、落ち着いて作戦会議みたいなコトできる場所は欲しいよね」

「だね」

 

 そうして、私たちは二階の廊下を歩いていると……どこからともなくお盛んな声が聞こえてきた。

 

「こんな危ない場所なのに……」

「いやでも、これは、もしかしたら――」

 

 呆れた感じの綺興ちゃんだけど、私はちょっとした不安がわく。

 綺興ちゃんのオフ会メンバーの可能性があるなー……って。

 

「そういう出来事を再現させられてる誰か……かもしれない」

「え?」

 

 綺興ちゃんは私の顔を一度見たあと、慌てて声の方へと行こうとしたので、とっさに彼女の手首を掴んだ。

 

「存歌?」

「待って、勝手に行かないで」

「でもッ!」

 

 冷静になって、自分がこっち側になると分かる。

 所長さんをすごい困らせちゃったなぁ……。

 さっきの私も同じことしたんだよねぇ……。

 

 どうすれば綺興ちゃんを落ち着けられるのか、少し逡巡して――私はすぐに笑顔を向けて告げた。

 

「一緒に行こ?」

「あ……うん」

 

 これが正しい選択なのかは分からない。

 だけど、綺興ちゃんだけを先に行かせるわけにはいかないから。

 

 理想は所長さんが助けに来てくれるまで時間を稼ぐことだけど、どうにもそうは言ってられない感じ。

 

 私は、ハンドバッグを上から軽く叩いて、イザとなったらよろしく――と、リスハちゃんに伝える。

 

 小さく息を吐き、私は綺興ちゃんを促して一緒に歩き出す。

 

「あ、そうだ。これは一応言っておこう。まだ推測を域をでないというか……たぶん、なんだけど、ここのルールの一部。

 この建物の過去の出来事を再現しようとするチカラは、イレギュラーに弱いんじゃないかなって」

 

 そして思いついたことを、綺興ちゃんに語るていで、リスハちゃんに聞かせることにした。

 

「イレギュラー?」

「何となくだけど、あれ舞台演劇っぽい感じがするんだ。

 だから、再現したい過去の登場人物と、性別が同じだったり、似たような背丈だったりすると、影響を受けやすくなる」

「それが台無しになるような状況になると、解除されちゃう、と」

「たぶんね」

 

 確証が、あるわけではないんだけれど。

 二人で廊下を歩き、声が漏れ出てくる部屋の前にたどり着く。

 

「この部屋だ」

 

 中から狂ったような矯正が響く。

 一人二人ではなく、複数の男女が入り交じるいわゆる乱交ってやつだろう。

 

 再現させられた方はたまったもんじゃないだろうけど……まぁこれから助けてあげるので、犬にかまれたと思ってヤった記憶は忘却してほしい。

 

「いくよ、存歌」

「うん」

 

 小さく深呼吸をして、綺興ちゃんがドアノブに手を掛けた時、私の首元にチクリと何かが刺さった感触がした。

 

「痛っ」

「存歌? ……っ痛ぅ……!?」

 

 私の声を聞いて振り返った綺興ちゃんも首筋を押さえる。

 だけど、周囲には何もいない。何もない。

 

「こ、これ……まさか……」

「再現? 何かの……?」

 

 やばい。身体が言うことを聞かなくなってきた。

 

「あ、あり、か……これ、やばいかも……なんかふわふわしてきた……からだ、かってにうごいちゃう……」

「わ……わたしも、なんかへんにテンションが、あがってきた……ような……」

 

 まだ喋れる。だけど、お互いに呂律が回らなくなってきている。

 誰かに肩を抱かれる。そのまま、部屋の中へと連れ込まれる。

 

 ……透明人間に導かれて、変なクスリを打たれて……。

 

 いや待て。これ、どう考えてもクスリをキメながらの、アレ?

 

 ど、どうしよう……。

 うあ、なんか、まともにモノが考え、られなくなってきたような……。

 

 あは。

 あはははは。

 

 これ、やばいって。なんか楽しくなってる。

 ぜったいやばいのに、このままだと、部屋の中の人たちと、やばいことになるのに。

 

 横をみると、綺興ちゃんの表情もおかしくなっている。正気を失っているような、何かに期待しているような、無駄に楽しそうな。

 

 たぶん私も似たような顔をしているんだろう。

 

 あはははははは。これ、ほんとやばいって……。

 

「存歌ッ、綺興ッ!!」

 

 本気で思考がおかしくなりそうなタイミングで、リスハちゃんが実体化して飛び出してきた。

 

 次の瞬間、私も、綺興ちゃんも、部屋の中で狂ったような過去を再現させられてた人たちも、糸の切れた人形のようにその場で倒れるのだった。

 

 

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