コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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その8

 

「存歌!」

「……リスハ、ちゃん……?」

 

 声を掛けられ揺さぶられて私は身体を起こす。

 

「存歌の推理大当たり! やっぱりイレギュラーが起きると再現が終わるみたい!」

 

 だからリスハちゃんが乱入したことで演目が終わったわけだ。

 ……それはそれとして――

 

「そうだ、綺興ちゃんは?」

「大丈夫。無事よん

「良かったぁ」

 

 リスハちゃんが指差す方を見れば、綺興ちゃんも頭を振りながら起きあがるところだった。

 

「あれ? リスハ? なんで?」

「あー……えーっと……」

「リスハちゃんの持つ特殊能力的なやつ? それを使ってとっさに駆けつけてくれたみたい」

 

 我ながら他人を納得させるには足りなさすぎる――と思いながらの言葉だけど、綺興ちゃんはひとつうなずいた。

 

「そっか。まぁ深くはツッコミ入れないでおくね。

 ともあれ、助けてくれてありがと、リスハ」

「……どういたしまして!」

 

 理解力高い綺興ちゃんのお礼に、リスハちゃんは一瞬面をくらうも、すぐに満点の笑顔で応じる。

 

 二人ともかわいくてよし。

 

 さて、ほかの人たちは――っと。

 

「あれ? みんなちゃんと服を着てる?」

「それね! そうなの! ワタシが乱入したら急にみんな着替えたというか服が現れたというか。二人はなんかオクスリっぽい感じの影響残ってる?」

 

 言われて何となく、両手を見つめてグーパーしてみる。

 チクっとした瞬間から、テンションあがりながらもぼんやりしていって気持ちよい感じは特にない。

 

「後遺症とかも依存性の影響とかもない感じかな」

 

 それは綺興ちゃんも同様だった。

 ……というコトは、つまり……。

 

「なら、過去の再現は途中で中断すると、影響がある程度リセットされるっぽい……で合ってるかな?」

 

 私の言葉に、リスハちゃんもうなずく。

 

「合ってると思う。でも、全部じゃなくてある程度なの?」

「昼間の影響受けての筋肉痛は、残ってるんだよねぇ……」

「つまり、再現による肉体の損傷などはリセットされないってコトかな?」

「人が死ぬコトもある現象だから、そうかもしれない」

 

 あとは、最後まで再現が完走してしまった場合も、残る気がする。

 

 ともあれ、綺興ちゃんの参加していたオフ会のメンバーも無事っぽくて安心だ。

 

 立ち上がった綺興ちゃんが、みんなのところへ向かっている。

 

鷸府田(シギフダ)さん、皆さん! 大丈夫ですか?」

 

 私や綺興ちゃんと同じくらいの年の、結構なイケメンさんが鷸府田さんなんだろう。彼がこのオフ会の幹事なのかな?

 

「オレは……なんてコトを……」

 

 操られている間の記憶もあるのか愕然としている鷸府田さんやほかの人たちに、だけど綺興ちゃんは容赦なく現実を突きつけていく。

 

「鷸府田さん。皆さん、聞いてください。私たちはホラーや怪奇を好んでいながら、重大な点を間違っていました」

「間違っていた?」

 

 顔をあげ、首を傾げる鷸府田さん。

 ほかの人たちも思い思いの顔で、綺興ちゃんを見る。

 

「私たちは心のどこかで本物のホラーは存在しないと、そう思ってたというコトです。あるいは本物のホラーはあると信じながらも自分たちは被害を受けるワケがないと、そう思ってたとも言います」

 

 その言葉は……たぶん――だけど、綺興ちゃん自身の自戒のこもった言葉なんだと思う。

 

「この建物の中では、かつてこの建物の中で起きた出来事を、入ってきた人の身体を使って無理矢理再現させられるようです。

 皆さんが生きているのは、その再現内容に人死にのないモノだったから……この建物の中では銃撃戦や裏社会の人たちの殺し合いも行われた過去があるようですから、そちらを再現させられていたとしたら、皆さんは……」

 

 銃撃戦はともかく、殺し合いとかあったのかな?

 ツッコミを入れかけたところを、リスハちゃんに口を塞がれた。

 

「余計な茶々は入れないの。綺興はね、ちょっと深刻めに言うコトで、恐怖感と説得力を高めてるんだから。そういうテクニックなの」

「……ああ、なるほど……」

 

 え? それって詐欺じゃないの? 違う?

 

「嘘も方便」

「リスハちゃん、心読める?」

「アナタの顔に出てるだけなのよ、これが」

「…………」

 

 そう言われちゃうと反論できないなー!

 

 そんな感じでリスハちゃんとじゃれていると、鷸府田さんがこちらに気づいた。

 

「あの、美橋さん。あちらの二人は?」

「えーっと、黒ずくめの方は有栖原 リスハさん。怪異専門の探偵事務所で探偵助手をしているの。

 もう片方の賑やかなのは、音乃 存歌さん。同じ探偵事務所でアルバイトをしているわたしの友人です」

「え? 怪異探偵??」

 

 困惑した様子の鷸府田さんたちにうなずきながら、綺興ちゃんは続ける。

 

「わたしが皆さんとはぐれてしまったあと、呼んだんです。

 皆さんが行方を眩ましてしまった。そして本物の怪奇現象が起きているから、助けて欲しいと。

 どういうワケか入り口が開かず、窓も開かず、ガラスも割れない状況になっていましたし、自力で脱出は無理だと思いましたので」

「それだけで?」

「それだけも何も、その時点で異常事態なんです。面白がってないで逃げたり、状況の把握が大事なのに、皆さん聞き入れてくれなかったじゃないですか」

 

 ざわめくオフ会メンバー。

 ただ、誰も彼もがそれもそうだ――という顔をしている。

 

 それから、鷸府田さんは私とリスハちゃんに頭を下げてきた。

 

「ええっと、お二人とも助けにきてくれてありがとうございます。みんなを代表してお礼を言わせてください」

 

 それに対して、私は慌てて首を横にふり、手をパタパタする。

 

「頭を上げてください。正直、綺興ちゃんを助けてにきただけで、皆さんのコトは半分おまけですし」

「存歌、ぶっちゃけすぎ」

 

 思わず口にしてしまった言葉に、リスハちゃんから半眼を向けられた。それもそうだ。何を口走ってるんだ私……!

 

「それに、まだ解決はしてませんので、お礼を言われるのはまだ早いといいますか、何というか……」

 

 言いたかったのはこっちなのに、何で先に変なこと口走っちゃったかな自分!!

 

「解決、してない?」

「そうなの。それに怪異とは別の問題も浮上してきてるから、うちの所長へと連絡したわ」

 

 リスハちゃんが一歩前にでてうなずく。

 なんというか、これ――お前は黙ってろってリスハちゃんに言われてるような気がする。

 

「ヘタに動き回られるとまた過去の再現現象に巻き込まれると思うから、みんなはこの部屋で待機してて貰えるかしら?」

 

 リスハちゃんはお願いするように言ってるけど、不思議な威圧感がある。

 お前らはここで待機だ――という圧がすごい。

 

「わかった従おう。みんなもいいですよね」

 

 やや睨みあうような空気のあとで、鷸府田さんは両手を挙げてうなずいた。

 

 そして、鷸府田さんに問われたオフ会メンバーも全員が同意する。

 

「……って、あれ? 西帯(ニシオビ)さんは?」

「え?」

「あれ?」

「そういえば……?」

 

 まさかのこの状態で、メンバーが足らない事態発生である。

 

「なら綺興、ワタシたちに付き合って。その西帯って人の顔、わかるんでしょ?」

 

 リスハちゃんが綺興ちゃんにそう声を掛けると、綺興ちゃんは少しだけリスハちゃんを見つめ返す――というより睨み返すような感じになっててからうなずいた。

 

「……わかるわ。たぶん、わたしが二人を呼ぶ前に見た人影がそうだと思う」

 

 そういえば、綺興ちゃんがそんな話してたね。

 それにしても――今の一瞬のにらみ合いみたいな空気はなんだろう?

 

「よし、それじゃあ――存歌、綺興。行きましょう」

「うん」

「わかった」

 

 

 

 そうして三人で、オフ会メンバーの残る部屋を後にして、かなり離れてから――

 

 声を潜めながらリスハちゃんが、綺興ちゃんに話しかける。

 

「あのさ、綺興」

「もしかしなくとも、西帯さんの捜索は後回しするって話?」

「あ、やっぱ気づいてた?」

「なんとなく、ね」

「え? そうなの?」

 

 私が思わずそう声をあげると、二人からジト目を向けられるのであった。

 

 ……解せぬ。なんで?

 

「それで、リスハ。西帯さんを後回しにする理由はちゃんとあるの?」

 

 綺興ちゃんはたぶん言外に、理由がなきゃ許さないって言ってるんだと思う。言ってるんだよね?

 

「もちろん。ぶっちゃけ、この暗い建物の中、一人の人間を捜すくらいなら、根本を解決しちゃおうかなって」

「つまり?」

「この建物の怪異――開拓能力舎(フロンティアステージ)の核の在処。ワタシ気づいちゃったんだ」

 

 自信たっぷりにリスハちゃんはそう告げた。

 

 

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