コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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その9

 

 

「人間――というか生き物が能力に目覚める時って、強い思いや本能に根ざした能力になるコトが多い。

 だけど、能力舎――つまり建物が開拓能力に目覚める時って、何に由来すると思う?」

 

 リスハちゃんに問われて、私は嬬月荘を思い返す。

 あそこは、色々な魔術的なアレコレが複雑に絡み合って生まれた能力舎だったけど、その根幹に根ざしていたのは『孤独感』だった気がする。

 

 それを思うに、建物が能力舎(ステージ)へと変じる要因というのは……。

 

「建物に染み着いた人の意志?」

「存歌せーかい。全部が全部じゃないけどね」

 

 小さく拍手するリスハちゃんだけど、横で聞いていた綺興ちゃんは少し眉をしかめている。

 

「嬬月荘の話は聞いているけど……あそこは、孤独な人が集まりやすい環境だったってワケでしょ?

 でもここは元々オフィスビルだよね? 特定の感情が染み着くコトってあるの?」

「建物――いいえ、無機物に生き物の感情が染み着くコトは別に特別なコトじゃないのよ。

 手作りの道具とかに思いが籠もるなんて言うでしょ? あれも同じ。

 方向性が定まってたり、ゼロから作り出した時とかの方が染み着きやすいってだけで、何らかのキッカケでなんてコトのない感情が染み着くコトだってあるわ」

 

 そしてリスハちゃんは、この建物は後者のなんてコトのない感情が染み着いたモノじゃないかと、推測しているらしい。

 

「その上で、能力から場所を逆算」

「逆算?」

 

 よく分からず、私と綺興ちゃんが首を傾げると、リスハちゃんはピシっと私たちに指を差した。

 

「そう! 逆算!

 過去を再現するコト。それは過去をよく観察、監視しているから出来るコトなワケ」

「つまり、建物全体をよく観察している人の感情が染み着いていると?」

「綺興せーかい」

 

 ここまでくると、私にも絞り込めてくる。

 

「建物を見守っていた人……オーナーさん……じゃなくて管理人さんとか、警備員さんとか?」

「だとしたら、一番感情が染み着いているだろう場所はどこ?」

 

 リスハちゃんに聞かれて、私と綺興ちゃんは顔を見合わせた。

 

「警備員の詰め所とか、警備室とかそういうところ?」

 

 綺興ちゃんの問いにリスハちゃんはうなずいた。

 

「そう――ワタシはそこに核があるだろうと睨んでる」

「それ、どこにあるか分かる?」

 

 私が綺興ちゃんに訊ねると、綺興ちゃんはちょっと自信なさげに答える。

 

「地図を見た限り一階かな」

 

 だけど、それで十分。

 私はヨシと気合いを入れてうなずくと――

 

「よし、行こう」

 

 ――一階の警備室を目指して歩き出した。

 

 

 

 道中に邪魔はなく、私たちが警備室に入ると、それはそこにいた。

 

「…………」

 

 警備員のコスチュームを着たマネキン……と言えばいいのだろうか。

 

 そしてマネキン部分も異様な姿をしている。

 カメラを中心にした様々な記録媒体をボディペイントしているようにも見えるし、その手の記録媒体を人型にむりやり成型したようにも見える。

 

「ココ、カンケーシャ、イガイ、タイチイリ、キンシ」

 

 カメラのレンズのような双眸をこちらに向けて、マネキンが言う。

 

「あなた、しゃべれるの?」

「これは意志疎通可能なタイプかも」

「え? 二人には何が見えてるの?」

 

 どうやら、綺興ちゃんには視えないらしい。

 

「ここに警備員さんみたいな姿の、なんかお化けみたいのがいるんだけど」

「ごめん。視えない」

 

 だから、黙って一歩引いてるね――と、綺興ちゃんは告げて、言葉通り下がった。

 

「綺興ってある意味すごいわよね」

「うん。綺興ちゃんってある意味すごい」

 

 ここで一歩引くって、ふつうなかなか出来ないと思うんだよね。

 

「ねぇ、どうして私たちを閉じこめたの?」

「……マモル、タメ」

 

 守る?

 

「ソト、アブナイ、ヤサシイ、マモル」

「えーっと、外に危険があるから、中にいる人を外に出さないようにした――ってコトであってる?」

「アッテル」

 

 リスハちゃんの問いに、警備マネキンがうなずく。

 

「じゃあ何で過去の再現でみんなを困らせたり殺したりするの?」

 

 私が問うと、警備マネキンはちょっと困った様子を見せる。

 

「……トジコメル。コワガル。ダカラ、タノシイコト、ワラウ、ヤラセテアゲタ」

「ええっと、外に出さないようにするとみんな恐がり出すから、楽しんで貰うために過去から楽しそうなコトをしているのを再現した、と?」

「ウン、ソレ」

 

 リスハちゃんがうまいこと通訳してくれた言葉に、私もリスハちゃんも、そして綺興ちゃんも一斉に頭を抱えた。

 

「人間としての善悪が分からないのね。本人は良いコトをしているつもりだったんだろうけど……」

 

 過去にヤってた人たちは楽しかったかもしれないけど、それを無理矢理やらされる方はたまったもんじゃないんだけどなぁ……。

 

「なら、どうして攻撃を再現したり、人が死ぬようなコトを再現したの?」

「マモッテル。デモ、ミンナ、カベ、コワス。キズツケル。ハンゲキ、シタ」

「つまり銃や暴力の過去再現は、防衛本能によるモノなのかぁ……」

 

 ホラースポットで扉や窓が開かくなり、壊せなくなれば、そりゃあパニックにもなるってもんだけど……そういうのも、通じないんだろうなぁ……。

 

 それにしても、話を聞いている限り、どうしても違和感が拭えない。

 

「やっぱりおかしいな……」

「存歌?」

「ねぇ。あなたは、死んだ人をどこかく隠したりしてる?」

「ナニ、ソレ?」

 

 警備マネキンは首を傾げる。

 これまでのやりとりから、誤魔化すとか隠すとかはあまりできないだろうことは予想がつく。

 

 となると――

 

「やっぱりそうか」

 

 ――これが、所長さんの言っていた腑に落ちない理由の正体。

 

「この怪異には、人を隠す能力はない。だけどこの建物は人喰いと呼ばれている。食べカスもなく消化してしまう人喰いマンションだと認識されている。それはどうして?」

 

 この怪異が、人を閉じこめる理由。

 この怪異が、外を危ないと言う理由。

 この怪異が、人喰いと誤認されている理由。

 

「ちょっと待って、存歌……」

「それが正しかったら、探偵である先生より警察とかの案件なんじゃ……」

 

 どうやら、二人も私の言いたいことを理解したらしい。

 

 私と綺興ちゃんが見た、入り口でシャベルを振り回すおじさん。

 私が入り口で視た、打撃音と引きずるような音。

 

 もう答えは出たも同然だ。

 

「ねぇ……私たちここから出たいの。結界を解除できない?」

「ダメ、アブナイ」

「もうみんなにはここには来ないように言うから」

「マダ、アブナイ」

 

 うーん、(らち)があかないなぁ……。

 確かに外にいる人は危ないだろうけど、結構な人数いるし、大人の男性もいるから、相手が一人ならどうにかなりそうだと思うけど。

 

「ねぇ、ワタシたちのコト……ちゃんと守ってくれるのよね?」

「マモル」

 

 リスハちゃんはそれを訊ねたあとで、小さくうなずいた。

 

「存歌、綺興。みんなのところに戻りましょう。

 籠城ができるなら、先生たちが来るまで……なんなら、この子が外に出ても安全だと言ってくれるまで待てばいいのよ」

 

 うーん……それもそうかなぁ……。

 

「無理に壊したり封印したりする必要もなさそうだしさ。

 話も結構通じるみたいだし、また昼間に落ち着いた状況で、説得しに来ましょうよ」

「わたしもリスハに賛成かな。

 探偵さんも来るっていうなら、来るまで待とう」

 

 綺興ちゃんもそう言うなら、とりあえずは二階へ戻るしかないかぁ……。

 

 そうして二人が警備室を出て行く。

 私も二人に遅れて外に出ようとして、ふと思うことが湧いた。

 

 (きびす)を返して、警備マネキンに訊ねる。

 

「そういえばあなた――名前、欲しかったりする?」

「ホシイ」

「じゃあさ、ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「ワカッタ。キイタラ、ナマエ、クレル?」

「もちろん」

 

 ほかの人からすれば私の浅知恵かもしれないけれど……。

 

 この子の感覚が人間とズレているというのなら、保険っていうのは必要だと思うんだよね。

 

「あ。あなたって人間のコトは好きなの?」

「スキ。ダカラ、マモル」

「分かった。それなら先払いで名前を付けようか。

 お願いはその後に言うね。無理なら無理って言ってくれていいから。

 それと、無理な時でも、名前は素直に受け取ってくれてOK」

 

 人喰いなんかではなく、むしろ人を守っていたマンション。

 人喰(ヒトク)いならぬ、人恋(ヒトコイ)ってことで――

 

「あなたの名前は……」

 

 

 

 

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