コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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その後 1

 

 

「ところで、そろそろ覚悟をした方が良いと思うぞお嬢さん」

「覚悟?」

 

 県警のイケメンさんにそう言われて、私は首を傾げる。

 

「今は犯人に立ち向かうコトとか、みんなを守ろうだとか、そういう感情で興奮しているからな。

 アドレナリンはわかるかな? 興奮物質というやつだ。あれが脳内で大量に分泌されると、痛み止めとして機能するコトもある」

 

 …………。

 

 わかった。

 わかってしまった。

 このイケメンさんが言う覚悟の意味が。

 

「見たところ銃創だけでなく殴打のあともあるな。

 病院にいくまで、アドレナリン分泌が続いてくれると良いのだが」

 

 ギギギギギと壊れたブリキのおもちゃのように私は首を所長さんに向ける。

 その意味は「ヘルプミー」である。

 

 そして所長さんは――申し訳なさそうに、私から目を逸らした。

 

「どうにかなりません?」

 

 首をイケメンさんの方に戻して問うが――

 

「これは警察官として無法者に暴行を受けた経験のあるわたしの個人的な見解なのだがね」

「はい」

「どうにもならない。名誉の負傷だと思って泣きわめけばいいのではないかな?」

「そういうのクソバイスっていいませんかね!?」

 

 こうして、わたしは救急車に乗って、なんか一段落したなぁ……と思った辺りから急激に痛みを感じ始めた。

 

 そして運ばれながら激痛で泣き叫んだ。

 

 もうちょっとがんばれよアドレナリンはさぁ……!!

 

 ……まぁ痛み以外にも泣いている理由はあったんだけど、まぁ痛かったからってことにしておいて欲しい。

 怖かったとか、心細かったとか、不安だったとか、そういう感情――あんだけおじさんたちに啖呵切ってたのに、救急車乗ったらそういうのが急に溢れ出したとか、格好悪いし。

 

 

 

 ・

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 ともあれ、なんのかんので、シガタキくんたちツアーメンバーは全員無事。大なり小なりの怪我はみんなしてたけど、後遺症になるようなモノはなし。

 

 私も似たようなモンなので、事件そのものはめでたしめだたし……かな?

 あ、一人だけ行方を眩ましていた西帯さんとやらも無事に見つかりました。

 

 

 

 ツアー参加者たちの怪我や恐怖心なんかがそれなりに落ち着きだした頃――

 

「この度はうちの明城を助けていただきありがとうございました」

 

 明城シガタキくんが、所属事務所の偉い人と一緒に、郷篥探偵事務所にやってきて頭を下げていた。

 

「いえ、私も出遅れてしまい――こちらの助手とバイトがほとんど解決したようなものですので」

「助手とバイトのお嬢さん方がいたおかげで助かった以上は、この事務所のおかげです。所長であるあなたに頭を下げない理由はありません」

 

 横でこの光景を見ていた感想としては、所長さんって感謝され慣れてなさそう。

 

 ともあれ、先日の事件のライブ放送はネットに流出して色々と使われてしまっているので仕方ない面があるが、それ以外の相談がしたいと言うのが本題のようだ。

 

「こちらとしては、私や彼女が関わったコトや、一部のオカルト現象について伏せてくれるのであれば、ツアーの動画は公開してくれてかまわないのですが……」

「それに関しては、警察からまるっとNGくらいましたので……」

「なんといいいますか……その、ご愁傷様です?」

 

 あのツアーで撮影したのが全部使えないのは大変だ。

 

「まぁ命あってのモノダネともいいますから、お気になさらず」

 

 明城シガタキくんこと鷸府田(シギフダ)さんが苦笑する。

 

「実際、彼の言う通りです。

 視聴者ゲストまで読んでみなさん死んでしまっていたら大事でしたから」

 

 視聴者ゲストもみんな怪我したり何なりしてるのは結構大事だとは思うのだけれど――こういう時に口を挟まない分別くらいは私にだってあります。

 

 でもリスハちゃんは、口を挟む方向にした模様。

 あるいは、そういうのを気にしてないだけかもしれない。

 

「ねぇセンセ。不気味だけどオカルト現象で危ないコトが起きない保証がある場所なら、紹介してあげられない?」

「どういうコトだ?」

「すでにオカルト現象解決済みの廃墟とかなら、紹介していいんじゃないかなって」

「…………」

 

 リスハちゃんの言葉に、所長さんが黙り込む。

 なんなら、私もちょっと補足してみたりもして。

 

「説得済みの核のいる場所なら、なんなら事前に相談して危なくない程度のオカルト現象を引き起こしてもらえたりしません?」

「それは却下だな。動画を見て突入する無法者が致命的なコトをやらかしかねん」

 

 即答されてしまった……。

 

「だがまぁ二人が言う通り、紹介できる場所はあります。

 もっというと、事前に相談してくれれば、危険の有無くらいは確認しますよ。

 現地への出張が必要だとしっかりと支払ってもらいますが、そうでない相談だけなら、無料で。内容によっては少々頂くかもですが」

 

 写真ごしにオカルト現象を引き起こすような存在もいるらしい。

 そういうの、事前にわかるようなものでもないらしいから、かなり怖そう。

 

「それは助かります。その際は是非。

 明城シガタキのオカルトネタはうちの事務所でもかなり人気なので、協力していただけるのは助かります」

 

 そう言って名刺交換を始める所長さんと向こうの偉い人。

 

 その横で鷸府田さんはジーッと私を見ている。

 

「えーっと、鷸府田さん? 私がどうかしました?

 

 思わずそう問うと、彼はしまったという顔をしてから、バツが悪そうに答えた。

 

「すみません。

 その……あなたや探偵さんが、銃弾を受け止めたりしていたのがどうしても気になっていて……」

「あー……」

 

 私が困ったように所長さんへと視線を向けると、所長さんは一つうなずいて、代わりに答えてくれる。

 

「他言無用でお願いします」

 

 そう前置いてから、所長さんはそれを告げた。

 

「いわゆる異能ですね。昨今では、開拓能力(フロンティアスキル)と称されるコトが多いモノです。

 オカルト現象と対抗するためのオカルト能力といったところでしょうか。超能力のようなモノだと思って頂いてかまいません。

 その使い手のコトを開拓能力者(フロンティアアクター)などと呼ぶコトもあります」

「……僕にも使えますか?」

「わかりません。この力は未知なる道へと一歩踏み出す勇気と覚悟の具現だとされてはいますが、誰も彼もが目覚めるモノでもありません。

 先天性でないのなら、臨死体験でもしない限りは目覚めないと、言われたりもしていますので」

「そうですか……」

 

 残念そうにしているけれど、あんまり諦めた感じじゃないような……。

 

「あの、それじゃあ――そっちの助手さんが途中で消えたのは……」

「あれは彼女の開拓能力で作った分身のようなモノです。

 強烈なダメージを受けてしまった為に、維持できなくなったのでしょう」

「そういうコトですか」

 

 鷸府田さんはそれで納得してくれた。

 まぁ所長さんの説明も大筋間違ってないからいいのかな。

 

「鷸府田くん……あまり踏み込んだコトは聞かない方がいい」

「そうでしたね……すみません。ちょっと失礼でした」

「構わないさ。そういう出来事に直面したんだ。気にするなという方が難しい」

 

 所長さんにそう言われて鷸府田さんは小さく息を吐き、それから真っ直ぐ所長さんを見た。

 

「あの、失礼ついでに伺いたいのですけど」

「なにかな?」

「暇なとき、こちらに遊びに来てもいいですか?

 オカルトに関するいろんな話を伺いたいんですが……」

「仕事の邪魔をされても困るし、出かけているコトは多いから来ても無駄足になるかもしれませんよ?」

 

 そう答えた所長さんに、鷸府田さんはちょっと残念そうな顔をする。

 それを見たからか、リスハちゃんは私にだけニンマリとした笑みを向けてから、鷸府田さんに向き直った。

 

 ……なんだろう。イヤな予感がしなくもない。

 

「この建物の隣にある古びたバーっぽい喫茶店『夢アジサシ』。

 うちの所長のランチは決まってそこだし、小腹が空いた時におやつを食べにいく時もあるから、ちょくちょく通ってみればいいんじゃないかしら。

 存歌も、うちと掛け持ちでそっちでもバイトしているしねぇ」

「なるほど」

 

 嬉しそうにうなずく鷸府田さん。

 そんなにオカルト好きなのか。

 

 ともあれ、そんな感じのやりとり終えて、二人は挨拶をして去っていった。

 

 二人の気配が完全に事務所から消えたあと、わたしはおもむろに所長へ告げた。

 

「オカルト好きな人につきまとわれそうで、所長さんも大変ですね」

 

 すると、所長さんとリスハさんは、とてもソックリの何とも言えない微妙な表情を私に向ける。

 

 ……え? 何その顔。どういう反応?

 

「大変なのは君の方だと思うが?」

「やっぱりこうなったかー」

 

 色々と食い下がってみたものの、その表情と言葉の意味を、二人は終ぞ教えてはくれないのでした。

 

 ほんと、なんなの?

 

 

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