聖闘士星矢 外伝:戦神アレス編   作:ほろろぎ

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第一話 復活の戦神の巻

 地上の愛と正義を守る希望の闘士──聖闘士(セイント)

 その最高位である黄金聖闘士(ゴールドセイント)の中でも一二を争う実力者、「双子座(ジェミニ)のサガ」が(つか)えるべき女神「アテナ」に(けん)を向けた。

 サガはアテナを守る青銅聖闘士(ブロンズセイント)に討たれ、この騒動は幕を閉じるが……黄金聖闘士はその数を半数近くまで減らしてしまうこととなる。

 

 聖闘士の(つど)うギリシャの聖地──聖域(サンクチュアリ)

 その最深部の部屋に、地上を守るため降誕した女神アテナこと城戸沙織はいた。

 

 彼女は此度(こたび)の戦いで大きく数を減らした聖闘士たちを案じ、またそのことで動揺する人々を安心させるため、日本に帰らずギリシャに(とど)まっていたのだ。

 

 サガの乱において命の危機に瀕していた沙織だったが、戦いが終わった今は無事な体を取り戻している。

 その反面、彼女のために戦った五人の青銅聖闘士たちは皆酷く傷つき、今は遠く離れた日本にいた。

 

 彼ら青銅は、城戸家が誇る巨大財閥「グラード財団」の病院で、手厚い看護を受けている。

 やがて訪れる聖戦から、城戸沙織──女神アテナを守る使命を果たすため、今はその身を休めているのだ。

 

「星矢、紫龍、氷河、瞬、一輝……どうか、どうか一日でも早く、無事に目を覚まして……」

 

 私室で沙織は、自らのために戦った五人の男たちのことを想い、彼らの回復を祈っていた。

 その時、彼女の部屋の扉が(ひか)えめにノックされる。

 

「どうしました?」

「アテナ、ムウ様がお呼びです」

 

 沙織の身の回りの世話をする侍女の一人が、彼女を訪ねてきたのだ。

 沙織を呼んだ男──それは生き残った黄金聖闘士の一人。

 

 沙織は一人の少女から女神としての(めん)へ気持ちを切り替えると、自分を待つムウの元へ向かった。

 

「お呼び立てして申し訳ありません、アテナ」

 

 黄金聖闘士、牡羊座(アリエス)のムウは慇懃(いんぎん)に沙織を迎える。

 

「構いませんよ、ムウ。それで、一体どうしたというのです?」

「実は……悪いお知らせをしなければなりません」

「悪い知らせとは?」

「先刻、『アレス』復活の報がここ聖域に伝えられました」

 

 アレス──それは「戦の神」と称され、恐れられる邪神の一柱。

 かつてこの地上がまだ混沌の時代に、アレスは自らの軍を率いてアテナと戦ったことがあった。

 アレスの軍団員──「狂闘士(バーサーカー)」は恐ろしい力を持ち、アテナの聖闘士はことごとく倒されていった。

 

 黄金聖闘士の奮闘によってどうにかアレスを冥界に追いやったアテナだったが、その戦神が今、再びこの地上に蘇ったというのだ。

 

「それは確かなことのですか?」

「五老峰の老師からのお言葉です、間違いないかと」

 

 静かな声で問うアテナに対し、ムウも淡々と答える。

 しかし彼の頬には、一筋の汗が伝っていた。

 

「アレス復活の影響で、戦神を見張る役目を持っていた一族も、みな死に絶えたと……」

「そうですか……」

 

 邪神の見張り役。その危険な任務を担ってくれていた、今は亡き同胞への追悼を込めて、アテナは目を閉じる。

 そんな彼女に、ムウはさらに危機的な状況を伝えなければならなかった。

 

「それだけではありません。復活した狂闘士たちは、世界中の軍事施設を襲い始めているのです」

「軍事施設、それはなぜ……?」

「おそらく奴らの目的は、その先にある各地の……『核施設』であると思われます」

「!」

 

 なんということだろう。

 あろうことか敵は、原子力施設を破壊し、世界を核の炎で燃やし尽くそうとしているのだ。

 

 ムウは焦る心を静め、アテナに対して指示を仰ぐ。

 

「いかがいたしましょう、アテナ」

「このまま事態を静観する訳にはいきません。すべての黄金聖闘士はただちに各地へ飛び、狂闘士を討伐するのです」

 

 事態は一刻を争う。

 早急な打開を求めたアテナは、聖闘士の中でも最強の実力を誇る黄金聖闘士に、その対処を命じる。

 

 こうして女神から直接の任務を帯びたムウたち黄金聖闘士は、急ぎ世界の各地へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 黄金聖闘士がギリシャを立ってしばらく。

 それ(・・)は突如現れた。

 

「……何者です」

 

 聖域の最深部、教皇の間に座すアテナ沙織が、虚空に向かって言葉を発した。

 同じ所で彼女を護衛していた数人の白銀聖闘士(シルバーセイント)たちが、疑問符を浮かべ沙織の様子をうかがう。

 

「──ほう、完璧に気配を絶っていたつもりだが……」

 

 その声は沙織の視線の先の、なにも無い空間から発せられた。

 白銀聖闘士たちの間に緊張感が走る。

 

「な、何者だぁーッ!?」

「姿を現せー!」

 

 警戒の声を荒げる白銀に答えるように、それはゆっくりと形を成していく。

 声の主は、「銀と赤に彩られたフルメタルの鎧」を身にまとった、一人の男……。

 目深にかぶられたヘルメットには、山羊のような雄々しい二本の角がそびえ立っている。

 

「私は戦神アレス様が配下の一人。アテナ、あなたを御迎えにあがった」

 

 狂闘士。

 それも並の戦士とは一線を画する「小宇宙(コスモ)」を、白銀聖闘士たちは感じ取った。

 

「お、おのれぇ! よくもノコノコと!」

「アテナの身には指一本触れさせんぞ!」

 

 力の差を感じても……自らの女神を守るため、聖闘士は謎の狂闘士に挑みかかる。

 

「邪魔だ!」

「「「ぐわぁぁぁーっ!!」」」

 

 しかし狂闘士の放った攻撃的小宇宙の一撃によって、すべての白銀聖闘士はあえなく吹き飛ばされてしまった。

 教皇の間に気絶した白銀たちの傷ついた体と、静寂が残される。

 

「フッ、これがアテナを守る希望の闘士とはな……」

 

 果敢に戦った戦士たちの有様を、狂闘士の男は嘲笑(あざわら)った。

 

 静かな教皇の間の扉が、けたたましい音を立てて開かれる。

 やって来たのは、城戸沙織と縁の深い五人の男たち。

 

「邪武、那智、蛮、市、檄……」

 

 沙織が静かな声で、五人の名をつぶやく。

 

「お嬢様、ご無事ですか!」

「一体なにごとザンス!?」

 

 邪武や市が、口々に騒ぎ立てた。

 そして目の前に立つ不審な鎧の男が敵だと分かると、五人はそれぞれ戦闘態勢をとる。

 

「こうも易々(やすやす)と、お嬢様のいる教皇の間へたどり着くとは……お前なにもんだ!?」

「この小宇宙の貧弱さ……青銅か。貴様らのような小僧共に名乗る、安い名は持ち合わせておらん」

「な、なんだとぉ……!」

 

 邪武の問いには答えず、小馬鹿にするような二本角の狂闘士。

 その態度に怒った邪武は、男に殴りかかろうとするが

 

「──動くな」

 

 男の発したたった一声で、邪武はその場に()い付けられたように動けなくなってしまう。

 それはこの場に来た残り四人の青銅も同じであった。

 みな金縛りにあったように、指一本動かすことが出来ない。

 それは男が声と共に放った、強大な小宇宙に威圧されたからに他ならない。

 

「このまま、そこで転がる白銀共のようにしてくれるわ──!」

 

 狂闘士の拳に小宇宙が集まっていく。

 鋭く研ぎ澄まされた刃のようなエネルギーが、邪武らに放たれんとしたその時

 

「お待ちなさい」

 

 凛とした声で動きを止めたのは、狂闘士の方だった。

 邪武たちへの攻撃を制止したアテナは、そのまま男の前に立つ。

 

「わかりました。あなたと共に、アレスの元に行きましょう」

「お、お嬢さん……!?」

 

 五人を庇い、アテナは自ら進んで敵地へ乗り込むことを宣言する。

 邪武らは必死に止めるが、彼女が要請を断れば五人の男たちは、狂闘士によってズタボロの(しかばね)にされてしまうだろう。

 それにアテナは、アレスに対して今回の侵略行為を止めてくれるよう、直接訴えるつもりなのだ。

 

 沙織は邪武たちと共に来ていた、彼らの背後で事の成り行きを見守っていた、執事の辰巳へ視線を向ける。

 

「辰巳、後のことは任せましたよ……」

「お、お嬢様ぁーっ!!」

 

 辰巳もまた狂闘士の気配に圧倒され、成すすべなく沙織が連れていかれるのを見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「クソッ! みすみすアテナがさらわれるのを、黙って見ているしかなかったとは……!」

 

 敵が去ったあとの教皇の間で、檄は自分への怒りと共に壁を殴りつけた。

 

「恐るべきはあの二本角の男だ。狂闘士とは、あれほどの小宇宙を持っているのか……」

「ただの雑兵ではあるまい。おそらく奴はアレスの配下の中でも、俺たちで言う所の黄金聖闘士クラスの実力者と見た」

 

 男の強力な小宇宙を目の当たりにして戦慄する蛮に、那智が答えるように言う。

 

「しかし、このまま手をこまねいている訳にはいかないザンスよ」

「そうだ! お前らさっさとお嬢様をお助けに上がらんか!!」

 

 市の言葉に辰巳も同乗する。

 が、それに邪武が待ったをかけた。

 

「俺たちだってアテナを助けたいのは山々だ! しかし、アレスの居城がどこにあるか分からないんじゃ、動きようがないだろ」

 

 静まり返る教皇の間にまた一つ、五人と異なる小宇宙が現れる気配を、青銅聖闘士たちは感じとった。

 一同に緊張が走る。

 

「うっ! また狂闘士の襲撃か!?」

「いや……この小宇宙に攻撃的な気配は感じられない。もっと穏やかな……」

 

 檄の言葉を蛮は否定する。

 果たして彼らの前に姿を見せたのは、一人の可憐な少女だった。

 

 青い瞳と濡れ羽色の黒髪を持つ、十四、五歳ほどの女の子。

 城戸沙織とはまた別の美しさを持った少女に、五人の男たちは思わず見惚れてしまう。

 

「き、君は……」

 

 邪武は我に返ったように呟いた。

 少女はニコリとほほ笑みを浮かべ、自らの素性を明かす。

 

「私の名は『テュシア』。あなたたちアテナの聖闘士の仲間……『気闘士(サプレッサー)』の戦士です」

「サプレッサー……?」

「知ってるか?」

「いや……」

 

 五人の青銅は、気闘士などという戦士の名は聞いたことが無いと、互いに顔を見合わせる。

 それもそのはず。

 気闘士とは五老峰の老師と同じく、ある特別な役目を任された、聖域でもごく一部にしか知られていない隠れた存在なのだ。

 その正体がテュシアの口から語られる。

 

「私たち気闘士は、冥界にいるアレスを監視する任をおった者。もっとも、一族で生き残ったのは、もう私一人だけだけれど……」

 

 少女は悲し気に瞳を伏せた。

 が、すぐに目を開くと、男たちを鼓舞するように声を上げる。

 

「私ならアレスの居城の場所が分かります。悪神を討つため……青銅聖闘士の皆さん、どうか私と共に来てください!」

 

 古の時代より代々アレスの挙動を監視していたテュシアの一族なら、当然その居場所を知っていてもおかしくはない。

 彼女の存在で、聖闘士たちに光明が見えてきた。

 

「奴らの根城が分かるなら、俺たちでアテナを救い出せるかもしれん……!」

「こうしちゃいられないザンス! 急いでその居城とやらに行かないとザンスよ!」

「し、しかしああは言ったが……お前たち青銅の実力で、狂闘士とやらは倒せるものなのか?」

 

 戦意が上がり沸き立つ那智や市たちに、こともあろうに冷や水を浴びせるような発言をしたのは辰巳。

 しかし辰巳も、命が懸かっているのが敬愛する城戸沙織とあっては、下手な行動は許せないのだった。

 

「見くびってもらっちゃ困るぜ。俺たちだって立派なアテナの聖闘士なんだ」

 

 目の当たりにした狂闘士に恐れを抱き始めていた蛮だったが、アテナ救出の目途がたった今、もはやその時の感情は彼岸の彼方だった。

 

「そうだ。なんたって俺たちは、聖闘士になるための苦しい修行を二度(・・)も乗り越えてきたんだからな!」

「それに白銀聖闘士のお兄さんたちは、全員あの狂闘士にやられちゃったしねぇ」

 

 檄の言葉に市も続く。

 那智と邪武もこれにうなづいた。

 

 確かに黄金聖闘士までもが不在の今、聖域で戦える力を持つのは、もはやこの場に残された五人の青銅聖闘士しかいない。

 

「お話はまとまったようですね。では行きましょう、アレスの居城──『コロッセオ』へ!」

「「「「「おう!!」」」」」

「あっ、おい! 待たんかお前たち!!」

 

 呼び止める辰巳の声を無視して、五人の青銅聖闘士はテュシアを先頭に、敵が待ち受ける根城へと駆けていくのだった。

 

 

 

 

 

 一人残された辰巳はというと……

 

「ええい! やはりあいつらだけに任せておくのは心配だ! 急いでグラード財団へ連絡を取らねば」

 

 この一報が、のちに戦いの行方を左右することになるのを、まだ誰も知らない。




やられ役の白銀は最初シャイナさんを考えてたんですが、こんな役をネームドキャラにさせるのもなぁと思い、名前などの詳細は省くことにしました。

この頃魔鈴さんは星矢の姉さんを探してるはずだけど、シャイナさんはどこにいたんでしょうね?(すっとぼけ)
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