聖闘士星矢 外伝:戦神アレス編   作:ほろろぎ

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第二話 燃える戦猪の巻

 突如として現代に復活した戦神アレスは、配下の狂闘士(バーサーカー)を使い世界を危機に陥れた。

 ただ一人で、アレスの待つコロッセオへ向かった女神アテナこと城戸沙織。

 彼女を追って、邪武、那智、市、蛮、檄の五人の青銅聖闘士(ブロンズセイント)もまた、気闘士(サプレッサー)のテュシアの先導で悪神の根城を目指すのだった。

 

 

 

 

 

「皆さん、あそこです」

 

 テュシアの声が示すのは、戦神アレスが居を構える住処──「コロッセオ」。

 それは意外にも、聖闘士の住まう聖域(サンクチュアリ)からほど近い、ギリシャの果ての深い森の中にあった。

 

「まさか聖域の近くにこんな物があったとは……」

「いえ、この城はアレス復活の際に、地の底から出現したものです」

 

 名前の通り、古びた闘技場を思わせるコロッセオの外観を見あげる檄。

 彼の言葉に、テュシアは捕捉のような説明をした。

 

 コロッセオの外門は大きく開け放たれていた。

 まるで、彼ら聖闘士がやって来るのを待ち構えるかのように。

 

 六人は緊張の面持ちで、コロッセオの入り口を見つめる。

 城の中からは、鳥肌が立つような邪悪な小宇宙(コスモ)が流れ出ていた。

 

「……さぁ、行くぜ!」

「おう!」

「はい!」

 

 怖気づきそうになる気持ちを奮い立たせ、邪武が号令をかける。

 男たちも覚悟を決め、六人は敵陣への入り口をくぐった。

 

「そういえばテュシア、君も戦うのか?」

「ええ。アレスが復活したこんな時のため、訓練はつんできました」

 

 コロッセオの通路を慎重に歩きながら、那智が少女に問う。

 テュシアの体は華奢(きゃしゃ)な女の子のそれで、とても聖闘士のような戦いが出来るとは思えないが……。

 そんな考えを見透かすかのように、少女が言葉を続ける。

 

「確かに、私の体は肉弾戦には適していません」

「……思考を読んだのか……?」

「ごめんなさい。私は肉体の力より、超能力の方が得意なんです」

 

 聖闘士の中には、強い小宇宙を利用したサイキック能力が使える者がいる。

 黄金聖闘士の牡羊座(アリエス)のムウがそれだ。

 テュシアもまた、小宇宙を肉体の力ではなく、サイキッカーとしての道で発展させてきたのだ。

 

「なるほど、どうりでアタシらみたいに聖衣(クロス)を着ていないわけザンス」

「鎧なら持っていますよ? もっとも私のは、聖衣とは少し違うものですけど」

 

 市たち聖闘士はみな、事前に防具である星座を(かたど)った鎧──聖衣を身に着けていた。

 対してテュシアがまとうのは布の衣服のみ。

 聖衣を持ち運ぶための「パンドラの箱(ボックス)」すら背負っていない。

 敵地に乗り込むというのには、余りに無防備過ぎる格好だった。

 

 しかし当の少女は平然としている。

 それはテュシアが身を守るべき防具が、いつも身近にある(・・・・・・・・)状況にいるからに他ならなかった。

 

 ふいに邪武が、思っていことを口にする。

 

「ところで君は日本人じゃないよな? 髪は黒いが、その青い瞳の色は」

「ええ。私はトラキア人の末裔のギリシャ人です。この髪は染めているの。私、日本に興味があって」

 

 テュシアは男たちのまとう聖衣に視線を向けながら、言葉を続ける。

 

「聖衣は星座をモチーフにして造られたものでしょう? 私の鎧は星座じゃなく、『ニワトリ』がモチーフになってるんです」

「ニワトリ? そりゃまた珍妙なモチーフザンスね」

「あら、そんなに変なものかしら? ニワトリはあなたたちの国、日本では神様の御使いと言われてるんでしょう?」

 

 少女の言うように日本神話では、ニワトリは天照(アマテラス)の使いと記されている。

 それは天の岩戸に閉じこもった天照を、常世(とこよ)長鳴鳥(ながなきどり)と呼ばれるニワトリが、その鳴き声で外の世界に誘い出したことに由来していた。

 

「だから私、自分の力のルーツに関係している日本のことを、色々と調べました。日本語も頑張って覚えたんですよ?」

「ああ、確かにうまく喋れてる」

 

 と蛮。

 テュシアはふと、寂しげな表情を浮かべる。

 

「でも私たち気闘士の一族は、アレス監視のためギリシャからは動けない身の上。日本に憧れはあっても、実際に行ったことは一度もないの……」

 

 だからせめて、憧れの日本に暮らす人々のように髪を黒く染めているのだと。

 

「なら、この戦いが終わったら一緒に日本に行こうぜ。俺たちが案内するよ」

「まあ! いいんですか!?」

 

 邪武の申し出に、一転して少女はパッと表情を明るくした。

 

『フッ。敵地に乗り込んでおいて、のんびりお喋りとは……まるでピクニック気分よな』

「!」

 

 突如、この場に六人以外の、第三者の声が響いた。

 一同はすぐさま、声のした方へ駆ける。

 果たしてそこは、大きく開けた広間(ホール)のような場所であった。

 

 広間に出た六人の前には、彼らを待ち構えるように一人の闘士がたたずんでいた。

 大柄なその身には、銀と赤のフルメタルの鎧──狂闘衣(イーラ)が装着されている。

 

「よく来たな、聖闘士たちよ。私はアレス様が配下の一人、火を(つかさど)る『クロミュオンのケレス』!」

「配下の一人だと!? 狂闘士は今、世界中に散っているはずでは!?」

「今各地で暴れまわっているのは、ただの雑兵にすぎん。私こそが軍団の主戦力の、四人の内の一人なのだ」

「むぅ……ではまさか、雑兵を暴れさせているのは、黄金聖闘士たちを引きつけておくためだったのか」

「その通り。おかげで楽に、アテナをここまで連れてこられたというもの」

 

 構える青銅聖闘士たちを、その中の一人である檄が止めた。

 

「みんな、ここは俺に任せて、先に進んでくれ」

「し、しかし……」

「奴も言っていたように、狂闘士はまだ三人も残っている。いちいち全員で戦っていては、時間がもったいない」

「た、確かに、今もアテナがどのような目に合わされているか……」

 

 ズイッと前に進み出た檄が、小宇宙を高め戦闘の体勢をとる。

 

「さあ、お前たちは先に!」

「わかった! ここは任せたぞ!」

「死ぬんじゃないザンスよ!」

「うむ、お前たちもな」

 

 後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、邪武たち五人は檄を残し次の間へと向かう。

 

「バカめ! 黙って行かせると思うか!」

「邪魔はさせんぞ!」

 

 五人を追いかけようとするケレスの前に、檄が立ちはだかった。

 その背に、守護星座である大熊のオーラを立ち昇らせながら。

 

「お前の相手はこの俺、大熊星座の(ベアー)檄だ!」

「たかが青銅聖闘士の分際で、この私と戦うつもりか」

「ああ。たとえアンタが()だとしても、な」

 

 そう、クロミュオンのケレスとは「女性の闘士」だったのだ。

 しかし、その体格は並の男より勝る。

 狂闘衣の下には、鍛え抜かれた鋼のような筋肉が隠されていた。

 

 だが、檄に臆するところはない。

 彼もまた、青銅聖闘士の中では一、二を誇る肉体の持ち主なのだ。

 

「それに俺たちはみな、黄金聖衣を巡って争った銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)のあと、もう一度それぞれの師の元で再び、地獄のような苦しい修行を重ねてきたんだ」

「面白い。ならば貴様の力、見せてみるがいい」

「女相手に力を振るうのは気が引けるが……敵である以上は容赦しないぜ!」

 

 そう言うと檄は、ダッシュでケレスに接近する。

 

「くらえ! ハンギングベアー!!」

 

 両腕を突き出しケレスを捕らえようとする檄だったが、彼女の体はスルリとその腕を避けていった。

 

「なにぃ!?」

「フッ、バカめ。悠長にそんな技にかかると思っていたのか?」

 

 攻撃が空ぶった檄の体に、今度はケレスの反撃が向かう。

 

「技というのは、こういうものを言うのだ。ラントバウルドードスラーン!!」

「ぐおぉぉー!?」

 

 高速の拳のラッシュ。

 檄は全身を殴打され、トラックにはね飛ばされたように吹っ飛んだ。

 

 うつぶせに倒れたままの檄に対し、勝負はついたとケレスは背を向ける。

 

「アテナの聖闘士といっても、しょせんはこの程度か」

「……ま、待ちな」

 

 よろめきながらも、檄は立ち上がった。

 

 ケレスの攻撃は、確かに強烈なものであった。

 しかし檄が受けたダメージのほとんどは、聖衣の力で無効化されている。

 彼ら青銅五人の聖衣もまた、サガの乱ののちにムウの手によって、簡易的にだが修復を施されていたのだ。

 

「ならば、もう一度食らうがいい!」

 

 ケレスは再び高速拳、ラントバウルドードスラーンを放つ。

 しかし今度の攻撃を、檄は倒れることなく、その身で全て受けきってみせたのだ。

 

 目を見開くのは、ケレスの番となった。

 

「なにぃ!?」

「フッ、なにを驚いている。聖闘士に一度見た技は、二度とは通じないんだぜ?」

 

 それだけではない。

 かつて戦った同じ聖闘士の男の技を、檄は思い出していた。

 

「お前の拳など、星矢のペガサス流星拳に及ばない」

「私の技が、青銅の力にも及ばんだと……?」

「そうだ。お前の(けん)は限りなく光速に近いが、初戦は音速の(こぶし)。マッハの域を出なければ、俺は倒せんぞ」

「……いいだろう。では見せてやる、光速の拳をな!」

 

 瞬間、ケレスの肩の辺りが、キラリと光を放つように輝いた。

 

「スタッビングタスク!!」

 

 バガッ! という破砕音と共に、檄の左肩に激痛が走る。

 

「な、なにぃ……ムウに修復してもらったはずの聖衣が砕けただと……!?」

 

 ケレスの光速拳を受けた大熊星座の聖衣。

 その肩アーマーが、まるで粘土細工のように脆くも、粉々に吹き飛んでいた。

 

「貴様の言うように、私は力には自信があるが、スピードにはやや劣る。だがこの技は、すべての力を一転に集中するゆえに、光速となるのだ」

「むぅ……確かに今の拳は、まったく見切れなかった」

 

 檄は冷や汗と共につぶやく。

 五分五分かと思われた力関係が、一転して覆されてしまった。

 

「そら、もう一発! 二発! 三発!」

「うおぉーっ!?」

 

 連続して光速拳、スタッビングタスクを放つケレス。

 攻撃は大熊星座の聖衣の上半身を完膚なきまでに砕き、檄の体もまた猪の(タスク)にえぐられたように、その身をズタボロにされてしまった。

 

 ドサリと地面に倒れ伏す檄を見やるケレス。

 檄はもはや虫の息だ。

 しかし

 

「う、ぬぅ……」

「まだ立つか。見上げた根性よな」

「お、俺だってアテナの聖闘士……地上の平和のため、こんな所でやられるわけには、いかん……」

 

 全身に裂傷と打撲傷を負いながら、なおも檄は戦う姿勢を見せる。

 体を傷だらけにされようと、その目に宿る闘志は微塵の揺らぎもない。

 

 ケレスはそんな檄を見て、フッと笑みを見せた。

 それは嘲笑などではない。

 一人の戦う男への、賞賛の笑みだった。

 

「どうやら生半可な攻撃では、お前は倒れんようだ。ならば、火のクロミュオン最大の技で葬ってくれよう」

 

 ケレスの小宇宙がより一層、高まっていく。

 それはまさに、黄金聖闘士に匹敵するレベルの強大さだった。

 

「受けよベアー! アフレイドイグニション!!」

「ぬおぉぉ!?」

 

 突如、檄の体が火に包まれた。

 彼のまとう衣服が燃えているのではない。

 檄の体そのもの(・・・・・)が着火剤となり、燃焼しているのだ。

 

「アフレイドイグニションは、私のサイコキネシスによって引き起こされた『人体発火現象』。たとえ水の中に飛び込もうと、消せるものではない」

 

 檄の身を守るはずの大熊星座の聖衣はもはや形も無く、火の勢いは彼の体すべてを飲み込んで広がっていった。

 肌は(ただ)れ落ち、眼球さえも焼かれかねない。

 ケレスの言葉通り、これこそが彼女の最大にして最強の技なのだ。

 もはや檄に残された命の時間はあとわずか……。

 その時であった。

 

 ケレスの精神感応(テレパス)の網に、この地に近付いてくる何者かの気配がかかった。

 コロッセオの先を行く邪武たち青銅聖闘士でも、テュシアのものでもない。

 

 正体を探ろうとするケレスだったが、その行動は不発に終わる。

 まるで気配の主が妨害しているかのような手ごたえを、彼女は感じた。

 

「むぅ……なんなのだ、この不可思議な気配は一体……」

 

 謎の来訪者。

 それは果たして、檄の窮地を救う希望の光となるのだろうか……。




・イーラ
 ラテン語で怒り。

・ラントバウルドードスラーン
 オランダ語でラントバウルは農民。ドード・スラーンは殴殺の意味。
 クロミュオンの猪が農民を殺し被害を与えた、という伝承から。

ケレスは元の伝承の通り、元は女盗賊だったという過去を設定したけど、本編で生かす機会はなさそう…。
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