邪武、市、テュシアの三人は、ついに残る第四の間へとやって来た。
ここを抜ければ、残すはアレスの待つ王座の間のみだ。
「し、しかし、ここに来るまでに三人もの
第一から第三の間で、敵である
彼らの
「やはり敵は戦の神であるアレスの配下。ただモンじゃないってことザンスね……」
市も、残してきた三人の安否が気にかかる様子。
そんな二人を、邪武は鼓舞するように声をかける。
「心配するな。アイツらも苦しい修行を乗り越えた、いっぱしの聖闘士だ。お嬢さんを助けるまでは、くたばったりなんてするもんか」
「そ、そうザンスね。なんせアタシたちはその苦しい修行を、二回も越えてきたんザンスから!」
「ええ、今は那智さんたちの勝利を信じましょう」
そして三人は、第四の間へと足を踏み入れた。
ホールの中央には、山羊のような雄々しい二本角を備えたヘルメット型の
「! お前は……!?」
「ほう、この第四の間までやって来るとは……アテナの聖闘士も存外にやるようだな」
邪武の声に男が反応する。
それは、
「お嬢さんを返しやがれ!」
「アテナはここにはおらん。王座でアレス様と共にいる」
「アレスはアテナをさらって、なにをしようというのです!?」
テュシアの問いに、男は淡々と答える。
「簡単なことよ。アテナの手によって、この世界を滅ぼすのだ」
「バカなことを言うんじゃないザンス! アテナが地上を滅ぼすわけがないザンしょ!!」
その時だった。
アレスと共にいるというアテナの小宇宙が、不自然なまでに大きく膨れ上がるのを、邪武たちは感じた。
「アテナの小宇宙は、アレス様の手によって暴走を始めている。荒れ狂うアテナの力が、この世界を破滅へと導くのだ」
「ふ、ふざけるな! 地上を守るアテナに、その地上を破壊させるだと!!」
子供の頃から敬愛するアテナ──城戸沙織の存在を弄ばれたとあって、邪武の怒りは爆発寸前だ。
「市、テュシア、お前らは先にお嬢さんを救いに行け。こいつは俺が倒す」
「聖域では俺の姿を見ただけで動けなくなった貴様が、一人で俺の相手をするだと? フッ、面白い」
山羊角の狂闘士は、邪武の挑戦を受けて立った。
市たちがホールを抜けるのを待って、邪武は因縁の男に名乗りを上げる。
「俺はアテナの戦士、
「……俺は第四の間を守る、炎を司る『バイコーンのキュドモス』!」
バイコーンとは二本の角を持つ馬型の魔物であり、一角獣──ユニコーンと対を成す存在だ。
純潔を司るユニコーンに対し、バイコーンは不純を司る。
地上の平和を守るアテナの聖闘士──邪武と、戦神アレスに仕え地上の破滅を狙うキュドモスは、まさに伝承の生き写しとも言えよう。
互いに小宇宙を高め合う二人の背後に、それぞれ一角獣と二角獣のオーラが浮かぶ。
先に仕掛けたのはキュドモスだ。
「バーニングホーリーバイト!!」
炎が、蛇のように尾を引いて邪武に迫る。
邪武はこれをジャンプで交わし、お返しにとキュドモスに蹴りを放った。
しかしキュドモスは、この蹴りを避けもせず、受けきって平然としている。
「なにぃ!?」
無傷の敵に驚く邪武。
その背後から、回避したはずの炎──バーニングホーリーバイトが反転して迫って来た。
「ぐあっ!」
死角からの炎の一撃は、まさに
邪武は即座に小宇宙を使って炎を打ち消した。
しかし噛みつかれた部位のアンダースーツは焼け落ち、焦げた素肌がのぞいている。
「次はこちらの番だ! ユニコーンギャロップ!!」
邪武の秘技。ペガサス星矢の流星拳にも似た技で、秒間百発以上の蹴りがキュドモスに叩きこまれた。
だが、邪武の必殺の一撃もキュドモスには通じない。
「くっ、なんという奴だ……」
「これがアテナの聖闘士とは……聖闘士の質も落ちたものよ」
「なにぃ……まるで聖闘士のことを知っているような物言いじゃないか」
邪武はここで、ふとあることに気づいた。
「そういえば、お前はなぜああもすんなりと、お嬢さんのいる部屋へ来れたんだ。いくら黄金聖闘士がいないとはいえ、十二宮は結界に守られているんだぞ……?」
キュドモスは、フッとあざける様な笑みを浮かべ、邪武の問いに答える。
「十二宮など勝手知ったるものよ。なぜなら俺は……元々、聖域に属していた人間なのだからな」
「……どういう意味だ」
「言葉通りさ。俺はかつて、アテナの聖闘士となるべく聖域で修行をしていた。
しかし、俺の力が余りにも強すぎたせいで、恐れを抱いた聖域の人間は俺を追放した。
聖闘士の資格をはく奪してな……!」
「!!」
「俺のような圧倒的パワーを持った人間こそ、破壊の究極を身に着けた聖闘士となるのに相応しい人間のはずだ。それを理解しないアテナも、聖域も、この地上諸共すべて破壊してやる!!」
邪武はキュドモスの言葉に衝撃を受けた。
彼は自分の先輩でありながら、破壊衝動に飲まれ守るべきアテナと地上を危険にさらしたという事実に。
「まずはその手始めとして、聖闘士であるユニコーン、貴様を倒す!」
「ふざけやがって……アテナと地上の平和を守るのが聖闘士の使命だ! 貴様のような奴、聖闘士になる資格は無え!!」
あまりにも自分勝手な理屈を述べるキュドモスに対し、邪武の怒りが爆発する。
さらに小宇宙を高め、数倍の速度で放たれたユニコーンギャロップの蹴りが、流星のごとくキュドモスに向かって行く。
「うおぉぉーっ!!」
「ぐっ……!」
邪武の蹴りはキュドモスの胸目がけ、一転に集中して放たれた。
力を集めたことでその威力は何十倍にも強まり、これにはたまらずキュドモスも防御の構えをとる。
そして、ガードごとキュドモスの体を後ずさらせることに成功した。
「怒りによって小宇宙を増幅させたか……。このキュドモスに攻撃を与えたこと、褒めてやろう」
言うとキュドモスは、弓を絞るように両腕を後ろに引くと、一気に解き放つ。
それは右と左の二本の腕による光速の拳だった。
「褒美にこの技をくれてやる。アンリミテッドストライク!!」
「ぐああーっ!!」
二つの光速拳は怒りのユニコーンギャロップの速度を優に上回り、邪武の体を聖衣ごとズタズタに引き裂いた。
一角獣座の聖衣を粉々に破壊され地面に倒れ伏す邪武は、苦悶の呻きと共に言葉をもらす。
「な、なんという速さだ……噂に聞く、
光速拳によって、邪武は全身の原子を砕かれ満身創痍。
もはや反撃どころか、立つこともままならない。
そんな半死半生の人間すら見逃すまいと、キュドモスは最後のとどめを刺さんと邪武の眼前に立った。
「さらばだユニコーン。貴様のあとは、先を行く二人をも始末してくれよう」
キュドモスの両腕に、バイコーンの二本角を思わせる、鋭くとがった棒状のエネルギーが集中する。
「受けよ! クロスステインスラスト!!」
二角馬の刺突が、邪武の命を引き裂こうと襲い掛かった。
・アンリミテッドストライク
岡田先生のエピGっぽい技名をイメージして付けました。
キュドモスの元聖闘士という設定もエピGからの着想です。
・クロスステインスラスト
これはオメガのゲームにある、カプリコーンホーンスラストが元。
アレスの配下四人は、伝承のアレースの聖獣をモチーフとしています。
が、元ネタはイノシシ、オオカミとあとはキツツキとニワトリで
キツツキは使いづらくカラドリウスに。
ニワトリはオリヒロインのテュシアに使って、邪武の相手はやっぱり
ユニコーンと対をなすバイコーンにしたかったのでこの配置となりました。