コロッセオ第一の間で、
超能力によって起こされた人体発火によるその火は、檄の体を灰と化すまで弱まることはない。
第二の間ではカラドリウスのフォーボスの技、イルネスバンドルによって
さらに弱まったところを
第三の間で
三者三様の危機的状況にある
「先ほどから私の
「ああ。ちょいと厄介だったが、俺が相殺させてもらったぜ」
第一の間でケレスの前に現れたのは、水色の
「あんた達
「まともにやり合っちゃ、俺たちも危ないからな」
同じように第二の間ではオレンジ色の、第三の間では真紅の聖衣らしき鎧をまとった少年たちが、それぞれフォーボスとダイモスの前に立っている。
「なんだお前……聖闘士か?」
「しかし聖闘士は十二宮の乱で、壊滅に近い状態のはず……」
それぞれの場所でフォーボスとダイモスが、眼前の男たちに問う。
三人の謎の乱入者は、声をそろえるように自らの素性を明かす。
「「「俺たちは、人呼んで『
「俺はマリン聖衣の
「ランド聖衣の大地!」
「スカイ聖衣の翔!」
三人の男たちは自らを、聖闘士ではなく鋼鉄製の聖衣をまとって戦う戦士だと誇らしげに名乗った。
「「「なんだと……!?」」」
フォーボスとダイモス、ケレスの声が一致する。
それはそうだろう。
鋼鉄聖衣など、彼ら狂闘士が見たことも聞いたこともない聖衣の名前だ。
「俺たち鋼鉄聖闘士は、もしもの時にアテナと彼女を守護する聖闘士を補佐するため、城戸光政の命で生み出された人工の闘士なのさ」
翔が誇らしげに言う。
城戸光政、それはアテナである少女──城戸沙織の育ての親。
光政は自らが組織するグラード財団の科学力の粋を集め、人工的に聖衣を造り出すことに成功していたのだ。
そして翔たちもまた、機械の聖衣を扱うに相応しいだけの訓練を積んだ戦士。
すべては娘である沙織を想う、光政の親心によってもたらされた奇跡の邂逅かもしれない。
そんな彼ら鋼鉄聖闘士の使命は、この闘技場にて敵の隙を作り、聖闘士たちを救い出すこと。
「さあ、青銅聖闘士たちよ!」
「いつまで寝てるんだい!」
「俺たちが盾となっている内に!」
「「「狂闘士を倒し、アテナを救うんだ!!」」」
潮が、大地が、翔が、死地に立たされている檄、蛮、那智に声をかける。
潮はマリン聖衣に備わった念力を無効化する機能を使い、ケレスの念動力を打ち消し、檄の体を包んでいる火の勢いを鎮静化させた。
大地はランド聖衣のスピードを生かしてフォーボスをかく乱しながら、蛮の幽体が体に戻ってくるまでの時間を稼ぐ。
翔はスカイ聖衣の左腕にある装置を使い、ダイモスの小宇宙を吸収。那智への幻覚作用を薄めつつ、彼に声援を送り続ける。
「ぐっ……まさか、あの城戸光政の力を借りることになるとはな……」
全身に重度の火傷を負いながらも、檄は苦悶を押し殺して立ち上がった。
彼はすでに限界を迎えつつある体を奮起させ、眼前のケレスに対して拳を握りしめた。
ケレスは檄の決して諦めない姿勢を見て、アテナの聖闘士の真の強さを理解した気持ちになる。
「アフレイドイグニションを受けて尚も立ち上がるか……。ならばこのスタッビングタスクで、今度こそ息の根を止めてくれる!」
「させるかよ! ドラドスウエイブ!!」
ケレスの光速拳は、潮の着るマリン聖衣が放つ特殊な
その隙を見逃さない檄はケレスに接近、彼女の両腕をつかみ
「ハンギングベアー!」
「ぐあぁっ!?」
ケレスの技の
強力な敵を倒すには、まず相手の長所をつぶすこと。
それは檄が
「クロミュオンのケレスよ、ベアー檄が新たに身に着けた奥義、受けてみろ!」
檄の高ぶる小宇宙が、彼の背後にツキノワグマの姿を浮かび上がらせる。
「クレセントホールド!!」
「がはぁっ!!」
檄は、ケレスを抱きしめるような形で締め上げる。
まさにクマのごとき怪力による締め付けは、ケレスのまとう
口から血を吐き意識を失ったケレスは、そのままコロッセオの地に倒れる。
「女ながら恐ろしい相手だった。その力は、黄金聖闘士──
勝利をもぎ取った檄。
改めてケレスという強敵に対し、畏怖と賞賛の念を抱くのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
フォーボスのデステンプテーションに導かれるかのごとく、蛮の魂は肉体から遊離しつつある。
完全に無防備な蛮の代わりに今、ランド聖衣の大地は狂闘士を相手に圧倒的に不利な戦いを強いられていた。
「ふん、なにが鋼鉄聖闘士だ……。機械の聖衣が、神の戦士である狂闘士に敵うはずもあるまい……」
「無茶なことだってのは承知の上よ! それでも俺たちだって、地上の平和のために戦う戦士なんだ!」
蛮の思考はボヤけていたが、それでもその目には、自らの代わりに戦ってくれている男の姿が、ハッキリと映っていた。
それも大地は、十五歳の蛮よりさらに年若く見える。
自分よりも幼い子供に過酷な戦いを、いつまでも任せっきりにしている訳にはいかない。
(……そうだ、俺はアテナの聖闘士。地上を、そして大地のような子供を、俺たちのようなつらい目にあわせないため……戦わなければ!)
蛮の心はその想いを自覚すると共に、魂がデステンプテーションの強制力を打ち破り肉体に帰って来た。
「ぐぐっ……」
しかし、イルネスバンドルによる病の効果は未だ持続中。
蛮は果てしない倦怠感の中で、無理矢理に小宇宙を燃え上がらせる。
「な、なにぃ! ライオネットの体が……自らを燃やしているのか……!?」
驚きに目をむくフォーボス。
彼の言う通り、蛮は小宇宙で発生させた炎で自分自身の体を焼いていた。
「おろかな、自決に走ったか……」
「違う! 蛮は自分自身を炎で温めることで、お前の放った病原菌を殺菌しているんだ!」
大地は蛮の行動の意味を理解し、ランド聖衣のセンサーをオンにする。
センサーには確かに、炎によって蛮の体内からウイルスが駆逐されつつあることがモニターされていた。
「おのれ、ならばもう一度イルネスバンドルを食らわせてやる……!」
「大人しくそれを許すと思ってるのかい!?」
大地の体に装着されていたランド聖衣がはじけるように外れ、スケートボードを思わせるオブジェ形態へと組み直された。
大地はそれをフォーボスに向けて撃ちだす。
「行けぇー! ランドストライク!!」
「がっ!?」
ランド聖衣のオブジェは高速でフォーボスに体当たり。
衝撃で敵の体は自動車にはねられたようにふっとんだ。
大地が蛮に、このチャンスを逃すなと合図を送る。
「今だよ! 蛮!」
「おう! 俺の新技を受けろフォーボス。ライオネットバーン!!」
蛮は自分の体をさらに強力な炎で包み、そのままフォーボスに向けてタックルを放つ。
「うおぉぉーっ!?」
勢いよく突っ込んでくる火の玉と化した蛮に、フォーボスはイルネスバンドルを何度も投げつける。
がウイルスの塊は蛮の身にまとわれた炎によって昇華され、彼になんの影響も与えることは出来なかった。
そのまま蛮渾身の攻撃によってフォーボスの体は燃え上がる。
戦いを終えたあとに残るのは、消し炭のようになった、黒く焦げた敵の体のみだった。
「死を
戦いを終えた今、蛮は改めてフォーボスという敵の力に戦慄を覚えるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
那智は未だ、ダイモスの放った幻覚──ヴォルテールファンタズマの中で、フェニックス一輝の悪夢にうなされていた。
しかし那智への直接的な攻撃は中断している。
それは駆けつけたスカイ聖衣の翔が、ダイモスからの攻撃を妨害してくれているおかげだった。
「どうした、那智! アンタは俺たち鋼鉄聖闘士とは違って、本物の聖闘士だ! それがこんな所でへばっていては、
翔はスカイ聖衣の左腕にセットされたタービン状の機械を作動。
タービンは渦を巻くようにダイモスの邪悪な小宇宙を吸い取り、ヴォルテールファンタズマの威力を軽減している。
「ふん、無駄だ。ヴォルテールファンタズマが見せる幻覚は、ウルフの深層心理を映し出したもの。今更俺の小宇宙を吸い取ろうが、幻の効果は一切変わらん」
「だとしても……っ」
ダイモスの言葉通り、那智を
それでも翔は、懸命に那智を助けようとする。
「那智よ。アンタはフェニックスとの戦いに一度は破れたものの、そこから自力で這い上がって来た男じゃないか! こんな小悪党が見せる地獄なんて、屁でもないはずだろう!?」
スカイ聖衣のタービンが、バチバチと火花を上げ始めた。
ダイモスの小宇宙を吸い過ぎたせいで、装置の許容量を越えつつあるのだ。
スカイ聖衣の、翔の限界が近い。
「那智! 仲間の青銅聖闘士たちも、俺たち鋼鉄聖闘士も、お前の勝利を信じているんだ! ……さあ、今こそ立ち上がるんだ……ウルフよ!!」
「……そうだ、俺は……俺たちは、こんな所で立ち止まっている訳にはいかない……」
翔の熱い声援を受けて、那智の精神がヴォルテールファンタズマの恐怖を上回ろうとしている。
だがそれはなによりも、那智という男の精神力が恐怖にも屈しない、不屈のものである賜物だった。
そしてついに──ウルフ那智は目を覚ました。
幻に捕らわれていた瞳に生気が宿り、現実を見る力を取り戻した。
「……やったな、那智」
「ああ。助かったぜ、翔」
限界を超えたスカイ聖衣を抱え、翔は膝をついた。
そんな彼に、那智は感謝を告げる。
「むぅぅ……よもや我が幻から逃れる者がいたとは」
思わぬ乱入者の助けを得たといえ、那智が回復するとはダイモスの完全な誤算だった。
窮地に立たされた影響か、復活した那智の小宇宙は大きく高まっている。
「ダイモスよ、よくもいいようにやってくれたな。今度はこの技で返礼させてもらうぜ」
那智の双眼が、敵対するダイモスの姿をしっかりと捉える。
「おのれぇ! 幻覚が通じずとも、たかが青銅ごとき直接叩いて……」
「ハウリングビートクロー!!」
直接攻撃を仕掛けようと向かってくるダイモスを、那智は新たなる技で迎えうった。
あらゆるものを切断する、超振動の小宇宙の爪──それが那智が再度の修行の末に身に着けた奥義。
「……」
ダイモスは台詞の続きを言い終わることなく、狼の爪に両断され果てた。
こうして三人の青銅聖闘士たちは、鋼鉄聖闘士という新たなる仲間の手を借りて、辛くもピンチを切り抜けることが出来たのだった。
原作は漫画版ですが、漫画の方にアニオリの鋼鉄が出たらというIFです。