まったくもって話が、筆が進まないでござる
この話を終わらせて帝都物語でまた少し二次やりたい、加賀さんな恵子さんやりたい
横浜において、有名な区画が存在する。横浜中華街、がその一つだ。
中華街は一本道からその路地に至るまで、中国料理に露天、さらには雑貨までそろえられている。入り口は大きな赤い門が待ち構え、人を多く呼び寄せていた。土日、祝日よりもまだ少しばかり空いているが、人が多く行きかっている。
雑踏が鳴りやまぬ中、カラカラ、と車輪が回る音が聞こえた。ひと一人分、成人男性が乗るにはちょうどいいくらいの車いすの車輪が、鳴っている。座いすに腰掛けるは、色白の肌でやんわりと赤みがかった高い鼻、目元は大きめの黒いサングラスをかけた壮年の男性。体つきもがっしりとし、鍛えているということが一目瞭然であった。
車いすの押手には一人の少女、いや艦娘がいた。
ブロンド髪で二つ縛り、幼げな顔立ちで愛らしく好かれやすいといえる。ドイツ軍艦のアドミラル・ヒッパー三番艦、プリンツ・オイゲン。
「わぁ、ここが日本のヨコハマ?人いっぱいだね」
きょろきょろと、物珍しいのかプリンツは好奇心に任せ、あたりを見渡している。珍しい場所、光景に目を輝かせる子供の様といえる。男、ドルジェフはプリンツのはしゃぎように笑みを浮かべ、ほほえましいという感情を沸かせた。
「ユージーン、ヨコハマは初めてだったか?」
「うん!あ、イチゴがいっぱいついてる…ダディ、アレって何?」
「イチゴ飴、だな。ここヨコハマの名物の一つだ」
「見た目チャーミングね!」
あたり一面、彼女プリンツにとって珍しい光景、モノ、文化が広がっている。ドルジェフは新たな発見を目の当たりにするプリンツを静かに見守る。そのドルジェフは、ふとかつてこの日本で起こしたある出来事を思い出す。
戦後、高度経済成長の中ある学生運動の中で暗躍した日々だ。
ドルジェフには奇怪な能力を持っていた。魔眼、と呼ばれる邪視。彼の目を見たものは超能力、サイコキネシスによって体を捻じ曲げられるてしまう。また、その魔眼は強力でかの魔人加藤保憲でさえ撤退を余儀なくさせられるほど。唯一の打破は、醜き鬼女の姿、女性の秘部を見ることであるとされる。
この魔眼を封じるため、老齢の目方恵子は自らの乳房を片方落とし、自らの体を痛めつけ、さらには髪を乱れさせる徹底ぶり。
ドルジェフはかつて敗れた老齢の女性、目方恵子を思い出す。
ここまで徹底的に自らの魔眼に対策し、殺しに来た人間それも女性は見たことがなかった。恐ろしくもあり、自らを討つためにあのような痛々しく哀れな姿にならざるを得ないことに同情していたのも事実。
「ダディ…気分悪いの?」
「すまない、少し人酔いしただけだ。ユージーン、私のことは気にせず楽しみなさい」
「でも…っ!」
ふと、プリンツが厳しい顔を取る。あたりを見渡し、ある一点をじっと見つめ始める…ドルジェフも同じように、プリンツの向く方向へ視線を向けた。そこには人の波があったが、皆して悲痛な顔と恐ろしいものを見た、とばかりな様子だ。
ズシン、ズシン、と重いナニカがこちらに向かってきている。人の波の背後にうっすらと見える、大きなソレ…。
到底獣とはいいがたいが、獣と言わざるを得ない。
まず目に行くのはその頭部、なんと人の顔をしているではないか。ざんばらと無造作に髪が伸び獅子のたてがみのよう。次に目に行くのは全身の肌を余すことなく青色で、臨月を迎えんと血管が浮き出た、妊婦さながらな腹部。
強大な胴体から伸びる四肢の先は、コンクリートブロックすら紙のように容易く切れてしまうほどの鋭い爪。
加えて、化け物が口元から垂れるよだれはコンクリートに落ちるたび、白い湯気を立たせ陥没している。毒の成分が混じった唾液だ。現代における化け物、と言えば深海棲艦だろう…だが、目の前のソレは違う。
──本当の化け物、人が心から恐れる存在。
かつて、満州の陰に潜み人々の欲望を成長の糧とし肥大し続け成長した化け物。
道教には錬丹道と呼ばれる不老不死の薬、丹(たん)を作る術が存在する。この術を極め、さらには己の体を理解し、呼吸法を得てようやっと仙人たちは不老不死に近づく。だが、その中で最も敵視しなければならない魔物こそが、この化け物だ。
尸(し)、道教の観点から豆や穀物、植物に寄生し滋養を吸い取り枯らす虫と似たような存在が人の体内、大地にも宿るという考えを持っていた。
頭部、脳に寄生し精神疾患を含め首から上の病気、脳に異常をきたさせる化け物を、青古(せいこ)と呼ぶ。ほかにも心臓に寄生する尸を白姑(はくこ)、脾臓(古くなった赤血球を壊し新しい血液を溜め、抗体を作る臓器)や足に宿るとされる血尸(けっし)だ。
目の前に表れた化けものは青古、満州で暴れた尸と同じであった。
「…聞いたことがあるぞ、満州襲撃の際にソ連軍が目撃した存在があった。それは…この化け物と同じ、声と姿…間違いない、こいつは」
ドルジェフは目の前に迫る青古を恐ろしげに見ながら、そうつぶやく。逃げようにも足は不随し、動くこともない。プリンツと車いすがあってこそ、こうやって外に出ることができたのだ。
ドルジェフはどうにか気を持ち直し、車いすを操作するが…。青古の巨体によって地震が起こり、振動も大きいため操作どころか、転倒しないように気を配らせるのがやっとであった。プリンツはすでに艦装を身にまとい砲台の照準を青古に向けている。正直に言えば、プリンツ一人でどうにかできるほどの存在ではない。
だが、プリンツはドルジェフだけでも助ける、という確固たる強い意志で震える足から目をそらし、照準を向けた。
「ユージーン!逃げるのが先決だ、君では太刀打ちできん!!」
「でも、私が足止めしないと…ダディやみんなが!」
瞬間、青古は人の言葉では言い表せないほど、形容しがたい声、咆哮を上げた。その巨体を動かし、ズンズンと驚異的なスピードでプリンツとドルジェフがいる正面へと迫りくる。巨体が力強く地面をけり上げるたび、コンクリートはえぐれ、周囲の建物は青古の巨体と接触し、簡単に破壊されていく。
ガラガラと崩れる建物も合わさり、地震は大きくなり立っていられない。
プリンツは砲台を下げ、すぐさまドルジェフのもとへと向かう。だが、足場が絶え間なく揺れ続けているため、もつれバランスを崩してしまう。
振り返れば、もう青古は来ていた。ダラリ、とよだれが地面へと絶え間なく落ちる。
白い煙が立ち上り、その恐怖をあおった。
プリンツは目の前の化け物、状況、この先を描いてしまい顔を青くした。自分がとった選択で、このような呆気なさを迎えることに絶望。さらに一番の後悔は慕っていた父親のドルジェフを簡単に殺させてしまうことに対してだった。
「あ、あ…ダディ、ごめん、ごめんなさ、ごめんなさい!私が、私がぁあ!!」
「ユージーン、これも運命だ…」
「こんな運命いや!!死にたくないよ…ダディも死なせたくない、私も死にたくない!!」
狂乱と化し、プリンツは砲台を青古へ向け照準を構え…発砲。人のみで扱う程度に抑えられた砲台とは言えど、威力は人体すら簡単に吹き飛ばす。砲弾が連続的に青古に着弾し、青古は悲鳴じみた声を上げる。
…膨れ上がった腹部はいくつも黒いシミを作るが、それだけだ。破れることすらないまま、黒煙が上がるだけ。
黒煙の隙間からギョロリ、と二つの目がプリンツたちを見下ろしていた。
さっき、それも人とは比べ物にならない。人すらも生ぬるい、ドルジェフはかつての魔人と同じような殺気を身に浴びた。
ドルジェフはこの場で死を悟った。
震える身体を振り絞り、車いすから離れプリンツを抱きしめる。涙で目を腫らし、鼻水まみれ…その顔は恐怖に染まり切っていた。もはや、ドルジェフが抱きしめている事すら理解できないほど、プリンツは発狂している。
ゴゥウン、と背後から強大な砲撃音が響く。頭上からも数基ほど戦闘機に似た音すらも聞こえてきた。
「艦娘一名、民間人一名発見!すぐさま救助部隊先行!艦娘含め自衛隊攻撃部隊、援護せよ!」
男、それも青年に近い声がする。
二人は思考を停止しているものの、つんざくような発声器の持ち主の声に感想を抱く。
振り返ると、そこには長い黒髪をなびかせ長身の女性が仁王立ち。隣には女性と同じくらいの身長の茶髪で髪の短い女性。他にも、彼女ら以外の数名の女性と背後には装備に身を固めた自衛隊員たちもいる。
彼女たちの背にはプリンツ同様、戦艦を模した艦装が装備されている。砲口からは黒煙が上がり、あの砲撃音が彼女たちからであると、理解できた。
艦娘、戦艦長門型長門と二番艦陸奥。
「長門、陸奥そのまま砲撃をし続けろ!二人の救助完了まで絶対に絶やすな!砲弾が足りなくなったら合図出せ!第二陣を出す!」
「別に倒しても構わんだろう…と言いたいところだが、承知!」
「提督、第二陣も前に出してほしいかな?!あの化け物、絶対にヤバいわよ!」
「ちくしょう!!聞きたくなかったなぁー!!?
わりぃがそれは聞けない!民間人救助が先だ…なんで青古が出てくるんだよ!終わりすぎだろ、日本!」
「泣き言は死んだら言いなさいよ!長門、陸奥!!出し惜しみしないで!」
絶え間なく怒声が響き、この横浜基地所属の提督たちが迎え撃つ。一番に泣き言を言いながらも自身の艦隊に指示を出す提督、最上斎宮(もがみ いつき)も駆けつけていた。長門と陸奥、彼女らの提督は最上であり。最上に続くように辛らつな言葉を吐き捨てながら、声を上げる駆逐艦叢雲。彼女も最上の秘書艦であった。
長門と陸奥、それに数名の艦娘たちは絶やすことなく砲撃を青古に浴びせる。
砲撃音が横浜中華街の真ん中に反響。崩落した中華街は煙を上げ、さらに崩れみるみるとかつての面影を失っていく。
救助部隊がプリンツとドルジェフを抱えだし、戦線を離脱。救助に成功したが、青古は殺気を収めるどころか、みるみると肥大していく。ギョロリ、と周囲に目をやっており、ナニカを探している。最上はそのしぐさを見逃すことはなかった。
「誰を探してる?」
「砲弾が…!まずい、弾幕が薄れ」
弾幕が薄れた瞬間、青古は咆哮を上げ巨体を身をよじる。周囲によだれがまき散らされ、白い煙と陥没がいくつも現れた。形容しがたい声に、最上含め提督と艦娘は苦虫をつぶしたような顔を浮かべるが、視線はそらさなかった。
自衛隊攻撃部隊も戦車を操縦し、咆哮を青古に向ける。
瞬間、戦車の体を震わすほどの威力ある砲弾が青古へ向け発砲。青古の体をわずかに押し出すだけに留まってしまう。腹部は、依然破れていない。
「くっそ…マジかよ。アレってば、聞いたところ最新型の砲弾だぞ?」
「提督…」
「…やっぱり、孫思邈(そんしばく)が記したとおり、…華光を含んだ攻撃じゃなきゃ無理っていうのかよ」
青古を睨み続ける最上の声は、ひどく絶望を表していた。
「…いや、まだあるだろう。青古を殺す方法が」
ドルジェフは静かに、確かに聞こえるように最上に向かい言葉を紡ぐ。
「あるさ、でもこの状況下でソレを出来る奴と能力なんざないんだよ。ミスター、悪いがここは俺たちで」
「…私は魔眼を持っている。それも、生まれ持って強力、さらに言えば…君の知識なら知っているだろう?」
ドルジェフはサングラスを少しばかりずらす、その瞳は妖しさを誘う灰色に輝いている。最上ははた、とその目と言動を聞き入れ記憶のタンスを漁りだす。
しばらく、ほんの数秒のちに最上はある記憶、出来事を思い出した。
戦後、高度経済成長を終え学生運動が多感な時期。そこに裏で日本で暗躍しある学生運動の中で紛れた魔眼の超能力者が居た。
セルゲイ・ドルジェフ。その人、であった。
「あんた、まさか…セルゲイ・ドルジェフ…!」
「私の目は至近距離、あの巨体だと眼前が望ましい」
「バカ言ってんなよ、ミスターあんたの魔眼がどれだけ強いのかは知っているさ。だが、今は民間人…安全なところでガタガタ震えて終わるのを待ってほしいね」
「勝てないだろう、魔眼であってもな。ただ、退ける…一時的に助かる」
ドルジェフの真剣な言葉に耳を傾けながらも、提督たちはお互いに目を合わせる。しばらくの沈黙が続いたが、…決心がついたのか一呼吸を置く。
そして、自衛隊に向け二人を安全な場所まで避難させるよう、指示した。
ドルジェフは提督たちの決断に驚き抗議するが、提督たちは決意を固めた様子。その顔はひどく冷めており、この状況下含め、自分たちが辿る未来に落胆していたのだ。
先に口を開いたのは、最上であった。
「出来ねぇな。おっさんさぁ…俺だって、いやこの周りにいる提督っていうのはマジの民間人あがりよ?いきなり海軍の馬鹿どもに軍人にさせられ、こんな修羅場に放り込まれたんだ。
俺は、末端の学者だったんだよ」
「あぁ、最上君の言う通り…毎日、心にもねぇ一部の駆逐艦どもから罵声や嫌味、いじめなんざ食らってるさ。ついでとばかりに、指揮系統も一から独学だよ。普通はこんな状況下でもちょっとくらいは授業するもんなんだが、いきなり戦場放り込むんだわ。
あのバカ海軍ども、死ねばいいのに」
「でもね、私どもは腐ってもお人よしの日本国民。腹くくって命張って、民間人だろうと何だろうと、助けるんですよ。
本当は武器構えて銃弾ばら撒いたほうがいいでしょうけど…。
艦娘を指揮するのは私たち提督の役割。覆せないんですよ…大人しく、ガタガタ震えて待っていてくださいな」
どの提督も、目の前の化け物である青古に対し覚悟を決めていた。死ぬかもしれない、いや死ぬという現実から目を逸らさない彼らに、ドルジェフは理解出来なかった。あの時も、将門の巫女であった恵子と対峙するときもそのような感情を抱いた。年老いた身で何ができる、と馬鹿にしながら。
どうして、そこまでするのか…彼は一生理解できないだろう。
一緒に救助されたプリンツはようやく落ち着きを取り戻し、彼らの言葉、その姿に憧れを抱いていた。
彼女は目の前にいる提督たちを知らぬ、存ぜぬの初対面。
それでも、民間人上がりで弱者に当たるはずの彼らの覚悟を持った生きざまが、プリンツにとってひどく眩しい輝きであった。
ぶっちゃけドルジェフって加藤さえも手に負えないんだよね
恵子さん居なかったら詰んでたぞ
恵子さん満身創痍になるけど…