別に暗躍はしない、とは言ってない。この世界は、加藤が暗躍しなくても死にかけて虫の息な状況。深海棲艦やら餓鬼たちがいる以上、安息は無いんだよね。
龍脈、ボロクソだし
「なぁ、恵子さん。加藤以外の艦娘、見当たらないんだが…そろそろひと月は経っただろう?」
甘粕はそう雑談をするような軽く皮肉めいた口調で、言葉を紡いだ。
恵子が所属、指揮する鎮守府は小さな規模の鎮守府だった。いわば、支店やら派遣所に当たる。しかし、この鎮守府は良い意味も悪い意味も噂される発症源とされていた。任務成績もよく、実力ある場所と評価されることもあれば、陸軍の贔屓元だとか外道の巣窟だとか言われている。
恵子含め、ここに所属する者たちは噂に間に受けることは無い。
ただ、甘粕の言う通りこの鎮守府には艦娘が加藤ことあきつ丸以外に、居ない。鎮守府に赴任してすぐに、最初に配属される艦娘とはまた別の艦娘が配属された、と書類上では残っている。だが、甘粕はその書類はもはや過去、と割り切れた確信があった。加藤が何かをした、ということになるのだ。
所属している黒田を一応捕まえ、詳細を聞こうにも帰ってきた言葉はなんとも冷たいもの。
「…あぁ、あの艦娘か」
どうやら記憶の隅で消えかけるほどの存在となっていた。
そうして、冒頭の言葉を掛けるが恵子は目を伏せ、言葉を濁した。そんな反応をするので手っ取り早く加藤に訊くのが早いと判断し、隣で上層部から押し付けられた書類を進める加藤へ同じように尋ねる。
加藤は書類から目を離さず、抑揚のない冷めた声を出し答えた。
「アレは処分した」
だろうな、と甘粕は納得した。
「一応、理由は聞かせてもらうぞ」
「アレは海軍の鼠、だった。ここはお前が入り浸っているからな…お前から、陸軍の有益な情報を得ようとしてきたのだろう。浅はか極まりない」
納得できる理由だ。
甘粕もこの鎮守府に入り浸るのは加藤をはじめ、惚れているとは言えど、加藤の女である恵子の監視、の意味合いもあった。そう言う動きをしているため、海軍の上層部は情報を得ようとハニートラップとして恵子の所属する鎮守府に艦娘を送ったのだった。もし失敗しても、トカゲのしっぽ切りという言葉に習い恵子を処分すればいいのだから。
「艦種は?」
「駆逐艦、重巡洋艦。いずれも、女として売れる体型だ」
「加藤」
「……恵子よ、アレはお前を落とし入れようとしていたのだぞ。その博愛、いずれ身を滅ぼしかねんがな」
丸くなった加藤を見ながら、コーヒーを啜り海軍の脅しの種を考えた。恵子を含め、三人の考えは一致している。どの道、送り込んだ艦娘を突き返しても、知らぬ存ぜぬで逃げられる…。それに、恵子と甘粕は内心、加藤と言う男は狡猾だ、むざむざと処分するつもりはないだろう。
黒田は一人、鎮守府の周囲を歩いていた。手には地図、背には必要な道具が詰められたリュックを背負っている。じっ、と地図を見つめては一度離し、周りの景色を見渡しナニカを探している。…そして、ようやくお目当ての物が見つけられたのか、スーツの胸ポケットに差していた黒いサングラスをかけた。
一点を見つめ、地図に書き込んでいく。黒田の視界には、地面からうねりが見えておりそれは一部の者たちにしか、観測できぬもの。
黒田はソレをぼんやりとしか見ることが出来ないため、特殊な素材で作られたサングラスでやっと濃くくっきりと見えるものだった。
加えて言うなら、本来なら黒田もはっきりと見える素質はあった。
だが、この世界の神秘が死んでいる状況であるため、うねりの濃さが薄くなり、消えてもおかしくはなかった。
そのうねりは、地脈および龍脈の道筋。
龍脈とは、大地に張り巡らせられる血管。地球は呼吸をする、その度に龍脈は息づき霊的なものを含め、あらゆる事象に関係していると言う。風水師は比較的、中国及び東洋秘術において晋の時代からの立派な職業で、地脈を観れる者たちであった。
黒田は定期的にこの鎮守府周辺を歩き、地脈の観測を続け、乱れがある場合の対処を素早く行えるように周到していた。
その一方で、もう一つ…ある橋渡し役を担っていた。
「…ぁ…ぁ」
「……来たか」
どこからか、か細く消えかけの声が聞こえる。黒田はじっとその場に立ち、声の主が現れるのを待った。
しばらくして、そこには虚ろな目をしてまるでプリントされたような笑みを浮かべる艦娘が現れた。この鎮守府が発足し、しばらくしてから上層部より直々に配属された重巡洋艦であった。重巡洋艦の艦娘は人間の女性よりも、ひときわ美しく愛されやすい美貌と体型に恵まれた体を持っていた。
艦娘がはじめてこの世界に現れた時からその容姿は、多くの上層部は艦娘を使った陰鬱な暗躍をし続けている。今でも、それは続いている。
黒田からしてみれば、劣勢な現状でどうして足の引っ張り合いをするのか、理解できなかった。
黒田自身、目の前の艦娘はあまりよく知らない。一度、恵子の目が外れた中で誘惑をされていたがやんわりと最初は断っていた。だが、断ってもあまりにもしつこく誘われとどうしようか、と思っていた矢先。
加藤は、この重巡洋艦と一緒に配属された駆逐艦にも蠱術を仕掛けたと爆弾発言されたのであった。
あまりの大胆さに、開いた口が塞がらないでいた。バレでもしたら最悪、恵子もろとも碌な末路にならないと言うのに、だ。
しかし、そんな恐ろしい加藤の策は天運を逃していなかったようで。
上層部はその蠱術を見抜けもしなかったのだ。いくら海の人間とは言えど、呪術に関する知識はあるし、対策はしてきていたはずだ。加藤はその事をとうに知っていた、しかし…加藤は、足の引っ張り合いを大いに利用したと言う。
悪循環に捉われ、自分しか信じられない舞台に立っている。上層部は、たとえ死を遂げても、そこまで詳しくは調査はしない。深海棲艦の脅威が前提となった世界で、強襲と奇襲を盾にすれば、いい隠れ蓑となったのだ。
それ以降、蠱術で蟲を孕んだ重巡洋艦と駆逐艦が戻ったと同時に、加藤からしばらくの期間、重巡洋艦たちの話を常に報告しろとの命令が、黒田に与えられた。
黒田は良い顔をしていない。それでも、恵子が失意に陥れられるくらいなら、と渋々引き受けたのである。
「…あ…ぁ」
「報告、じゃろう?話してみろ」
重巡洋艦はたどたどしく、黒田に【報告】をした。
現在上層部で行っている深海棲艦の実験、さらに艦娘から通された上層部の内情、個人情報など、またほかの鎮守府や基地の事細かな報告が紡がれた。
「…つまらんことばかりするのじゃな」
「あ…ぅ、が…」
重巡洋艦は嗚咽を一つ、起こした。すると、カサカサやギチギチと近くから何か、這いよるような足音に歯を軋ませるような音が聞こえた。
重巡洋艦は既に、貼られた笑みを浮かべている。
黒田は小さくため息をこぼすと、重巡洋艦に言葉を放った。
「戻れ。どうせ、もう会うこともあるまい」
「う…ぅ…ぁ…」
ふらふらとした足取りで、元来た道を戻る重巡洋艦。姿が見えなくなると、黒田は地図をしまい鎮守府へと向け、足を進ませた。
鎮守府や基地の間で、とある噂を耳にする。
なんでも、上層部の一部の人間が惨殺と変死体で発見されたと言う。死体の多くは無残にも身体がボロボロで、肉もつぶれ骨もむき出し、中身も食い荒らされていたとか。獣の仕業、と報告では上げられている。だが、獣でも人であっても、不可能な傷痕だった。
なんせ、小さく鋭い牙で何度も肉を食いちぎられ、トンネルを掘るような空き方だったと言うらしい。
また、その中には数人の艦娘の被害もあったと言う。
艦娘もまた、人と同様の損壊だったとか…。報告書に添付された写真には、死体の状況と部屋の被害、それと…あの重巡洋艦と駆逐艦の写真が添えられていた。
あとがきですが、修正した際に消失してしまいました
申し訳ございません
修正箇所
風水 比較的新しい職業→晋の時代からの立派な職業