今では帝都物語のように攻めた話、出なさそう。自分が見てないだけで、出てるかもしれないけども
「…おい、甘粕よ」
石原莞爾は眉間を深くゆがませ、目の前の少女を見下ろす。周りに居る陸軍将校たちは視線をずらし、少女を見ないようにしている…表情はどこかしら、死んだ魚のように絶望とした顔である。ここに居る者たちの多くは、少女の正体を知っている…かつての部下、同期であった者たちばかり。
中には平岡、と言う成年軍人の姿も。彼は少女を見ながら、ドブ川に足を浸けたとばかりの仏頂面である。
平岡こと平岡公威(ひらおか きみたけ)、三島由紀夫の本名である。
「はいはい、なんだよ。石原さんや」
「…こいつが、あの?加藤だと??」
「だぁからそう言ってるじゃねぇか。加藤保憲、帝都絶対ぶちコロがす魔人の加藤保憲だよ。ついでにエロ魔人」
ゲシ、と甘粕のすねめがけ蹴りを入れる少女…あきつ丸こと、加藤は容赦はなかった。
よっぽど、最後の言葉が気に障ったらしい。
甘粕はと言えば、すねを思いっきり蹴られ痛みのあまり悶絶。だが、飄々とした態度を取るとは言えど、彼も根っからの軍人である、耐えきってみせた。
「ぐ…じじ、つだろ…!」
「…」
わずかに眉間をゆがませ蹴り続ける加藤に、甘粕に助け舟が入った。
恵子と黒田である。
「加藤、お止めなさい」
「おい加藤、将校殿のご前だぞ。今のおぬしにそこまでの権限はあるまい、止めんか」
「……ち」
しぶしぶと蹴りを止め、石原を見つめる加藤。その視線はひどく鋭い、石原は背中に冷たい汗が噴き出る感覚を覚えた。目の前の少女は、その姿を象った不気味な存在で、恐ろしいほどに手を出せない、と。
「で、わしらをどうしろと言うんだ。あくまで貴様は海軍所属、もはや昔のようではないぞ」
「海軍をこき下ろすものを持っている。それで取引しようではないか」
見てみろ、と石原に向け紙束を差し出す。石原は不信感を募らせながらも紙束を受け取り、パラパラとめくる…めくっていくうちに、苦虫を噛んだように苦悶を見せ始めた。
「…確か、なのか?」
「証拠はある」
更に加藤はUSBメモリと、一枚の写真を石原へと渡す。軍人たちの中から一人、一台のノートパソコンを持ってくるとすぐに起動させ始め、USBメモリを差し込み記録を拝聴。平岡もその記録を覗きこんだ。
そこに記録らされていたのは、ある重要機密に等しい報告書。それの資料と写真。
「おい、これって」
「…海軍め、何をしでかした!」
「これが本当なら、陛下は」
陛下、と言う言葉が出てきた。もはや、軍部だけの問題にはなりえないほどの大きな事態が、行われていた。
恵子と黒田は陸軍の驚きように動揺していた。海軍は何をしているのか、その一部があのパソコンの中で記録されている…。加藤が手に入れた情報が嘘の可能性はあるが、この男は嘘を付かず、かといって真実を自ら語ることはほとんどない。
黒田は、恐る恐る加藤にあのパソコンの中に何が入ってるかを聞いた。正直、黒田の脳はこの真実を知るのが、酷く恐ろしい行為だと警告していた。
加藤はしばらく間を置き、ゆっくりと口を開く。
「尸解仙(しかいせん)だ…」
「まて、アレは禁忌の術だぞ。お恵さんから聞いた、おぬしは成功したってな。だが、ワシでも解る、それ相応の実力があったからできたんだとな」
「俺を信じるか」
黒田はある事実に行きついていた。それがどうしても、受け入れられないほどに脳が、意思が拒絶している。
「黒田さま、どうしたのです。何か、解ってしまったのですか?」
恵子は黒田の両手を握り、どうにか落ち着かせようとする。だが、黒田は落ち着くどころかますます興奮気味、口を震わせ言葉を紡ぎ続ける。石原含め、この場に居る陸軍の軍人たちは何事か、と思いで見ていた。
また、この恐れように事の重大さを再度、認識してしまう者もあらわれていた。
「…なら、ならばだ。…これを成功させるために、必ず…成功させなければ、ダメだろう?」
「そうだな。成功させねば、玉帝(ぎょくてい 天皇の由来とされる道教の最高神)は永く生きられんだろう」
「……実証した存在が、居る。深海棲艦でもいい、なんでもいい。成功させるには、実証実験が要る。或いは、尸解仙を成功させた、その者が居るんだ。だが、そもそもこの時代は神秘が薄れ、廃れ、途絶えてきている…尸解仙を知る者なんぞ、居ないに等しい。
知っているとすれば、ワシらのように知識を継承、記憶してきた者だけ」
「加藤ではない、だれか…と言うことですね。でも、尸解仙と言う術を見て知っているのは……あ」
恵子の記憶、それは満州を出た時期。加藤が尸解仙を行った時期に、一人…あの場に居合わせた人物が居た。
ジョセフ・ニーダム。ケンブリッジ大学の生化学(せいかがく)教授、1942から1948年頃まで中国重慶に滞在しその時、加藤と恵子と邂逅(かいこう)。当時、東洋神秘に強い関心があったニーダムは、加藤の尸解仙を行う様を目の当たりにしていた。
彼が、と言う疑問が浮かぶ。
「教えることは誰でもできる。重要なのは、それを実際に行ったのは誰か、と言うことだ」
加藤の言葉に、沈黙が始まる。
見て知っている、それを上げるなら幾らかの人物は出ていた。だが、それを実行した存在が依然不明なままであった。
USBメモリの中の情報は、尸解仙を行った実験とその状況を写した写真、さらに深海棲艦の原理を解明の報告。研究員の名が記されているものの、責任者らしき名前が記されていない報告記録でもあった。
「…ふりだしか。だが、行っている邪法は解った」
「まだ、足りんか?」
「十分だ。だが…わしらが海軍のようではない、と言い切れるのか」
「ならば競わせればいい。どちらが優位か、それで振り落とし残った方を叩け、それでいいではないか」
「加藤、貴様…!」
「甘粕が言ったであろう。俺は、帝都が憎い…殺したいほどにな。だが、俺はこの世には興味は無い、帝都も見限った。つまらん世に成った、それだけよ」
「…貴様は、単につまらんなりに遊びを実行しようと言う訳か。貴様の手のひらに転がされるのは癪だ、大いに癪だ。
いいだろう、貴様に遊ばれてやろうではないか。これが本当なら、万死に値する」
ニタリ、と加藤が笑みを向けた。
石原は加藤に睨みを一つ入れ、その場に居た軍人たちに加藤が寄越した情報を再度分析などを開始させる。一気に慌ただしくなった陸軍、そんな中で平岡は加藤に声をかけた。
「加藤よ、まさかだとは思うが…海軍にも、同じようなことをさしていまい?」
「俺が海軍にも、と?ククク、安心しろ…俺はそんなことはしない」
「遊戯を欲しているんだろう。ならば、面白ければ…」
「俺は一度も、遊びもとい遊戯を欲しているとは言っていない。あれを渡したのは陸軍に発破をかけ、少し良くしようとしただけだ。古巣が何もできないままは、つまらんしな」
「ほおん、お前でも少しは情があるんだな」
「俺は帰る。あとは好きにしろ…行くぞ恵子、黒田」
平岡と甘粕は、さっさと帰宅する加藤とその後を急いで追う二人を、じっと眺め…見えなくなるまで、見ていた。
深海棲艦の脅威、終わってないのにね
なんだか、あらすじ詐欺になってきたぞぉ
それはそうと、帝都物語ってあんまりクロスやら二次創作無いんですね…出ないかな、出てくれ