この話の中には、作者の戦争観、歴史観、特攻に関しての考えを元に書かれております。
作中のいかなる人物、機関等もフィクションであり、現実の物とは全く関係が無いことを此処に明記いたします、又不快に思う可能性がありますので、注意してください。
一年間空いてしまいましたが、このタイミングでないと出しづらい内容でした。
ごめんなさい。
繰り返しますが、戦争を実際に体験した人の中には(高齢の方等)非常に不快に思われることが書かれている可能性があるので、できれば読むのをご遠慮いただいたほうが良いと思われます、ここに書かれているのは作者の妄想です。
警告!警告!警告!
キスカ、アッツ島撤退作戦、作戦会議前日深夜
鹿屋基地内、防波堤先端
白い海軍軍服を着た男が防波堤の先端に座り、じっと海を眺めている。
男の回りには小人のような影が3つ、佇んでいた。
頭を五厘刈りにした男は、海を眺めながらお猪口を傾けている。
お猪口が乾されるのを見計らったように、小人達が徳利を抱えてくる。
「ありがとう、」
男は微笑みなからそう言うと、お猪口を地面に置いた。
小人達は器用にお猪口に酒を注いでいく。
一人の小人が徳利を背中に背負い、残りの二人が零れないように左右から徳利をの口を左右から支えている。
小人達が注ぎ終わるのを待って、男は小人達が地面に置いた徳利をつまんだ。
「ありがとう妖精さん。君達もどうだい?」
妖精と呼ばれた小人達は、ちょこちょこと後ろに走って行ったとおもうと、宇垣の持つお猪口と同じものを抱えて、ヨタヨタと戻ってきた。
「・・・、わかったわかった。」
宇垣は苦笑いしながら三つのお猪口に酒を注いだ。
徳利を地面に置き、お猪口を手にした宇垣は、再び海に向かってお猪口を掲げ、静かに飲み干していく。
「 ・・・ほうっ。」
「・・・ぷはー。」
宇垣の小さなため息と、妖精さんの盛大なため息が聞こえたあと、再び波の音だけが聞こえ、静けさが辺りを包む。
4人は只黙って海を見つめていた。
「・・・長官、こちらにいらっしゃったのですか。」
長身の男がこちらに歩いてくる。
「Y君か、なに、こいつらと夜の海を肴に一杯・・・な。君もどうだ?」
そう言われて下を向くと、一人の妖精がお猪口を得意気に掲げ、残りの妖精が徳利をフラフラと抱えているのが見えた。
「・・・分かりました、頂戴します。」
Yと呼ばれた男は宇垣の隣に腰掛けた。
Yの言葉を聞いて、妖精さんは宇垣長官が置いたお猪口の隣に持っているお猪口を置き、徳利をフラフラと抱えている妖精さん達の所にかけよる。
三人がかりで徳利を運ぶと、器用に二つのお猪口に酒を注いでいく。
Yは、酒を注ぎ終わり、地面に置かれた徳利を つまみ上げると、妖精さん達に向かって言った。
「ありがとう、君達もどうだい?」
妖精さん達は、自分のお猪口に駆け寄ると、得意気な顔をして抱えてくる。
Yは、優しく微笑みなから彼らのお猪口に酒を注いだ。
数刻がすぎ、二人はまだ防波堤に腰掛けていた。
先程まで酔っ払って大騒ぎしながら怪しげな踊りを繰り広げていた妖精さん達は、地面に転がって気持ち良さそうに寝息をたてていた。
宇垣は、ポケットから手拭いを取り出すと、妖精さん達に掛けてあげる。
そしてお猪口を再び手にとり、くいっと酒を飲み干すと、Yに向かって言った。
「Y君、やはりアッツ島戦線には私が行くことにするよ。」
「・・・お考えは変えられませんか?長官。」
「今回の作戦は現場での細かい指示が勝敗を分けると思う。きみほど十全に指揮出来るわけではないが、やはり大海戦の経験者がいた方が有利なはずだ。」
「ですが、長官自ら、しかも最も危険なアッツ島戦線に向かうなど・・・。」
「なに、指揮官先頭が我が海軍の伝統だよ、それに山本長官と同じく連合艦隊を指揮し、今度こそ平和の礎になれるのなら、例え水漬く屍になったとしても、海軍軍人として・・・、本望だ。」
「長官!」
Yが慌てて腰を上げようとするのを、宇垣は「冗談だ。」と言ってYの肩に手を置き、再び座らせる。
「Y君、俺は嬉しいんだ。」
宇垣はじっと海を見つめながら言った。
「第五航空艦隊指令長官といっても、実際は部下の航空兵に『死んでこい。』と命令しているだけだった。」
宇垣は目線を落とし、寝ている妖精さんを見つめた。
「こいつらは、大和特攻の時、護衛に志願したんだ、その日の昼過ぎには爆弾抱えて死地に向かわなければならないのにな。」
「長官は兵士達の顔を皆覚えているのですか?」
驚いて話すYの質問に、宇垣は目を細めて答えた。
「・・・忘れられるものか。こいつらは、護衛の奴等の訓示をしている途中で駆け込んできて、『今宵一夜の命に免じて、最後の私情をお許し下さい。』と言い放ちやがった。」
宇垣はじっと妖精さん達を見つめながら話を続ける。
「聞けば、こいつの親父さんは大和の工作室の班長をしていた有名人で、『大和乗組員で、親父を知らない奴はもぐり』だそうだ。」
宇垣は、優しい目をしてすやすやと寝息をたてている妖精をみつめる。
「『親父の最後を看取る事ができました』と笑顔で敬礼された時、俺は『よくやった』としか言えなかった。」
「・・・。」
Yが返答に窮していると、宇垣が問いを重ねてきた。
「なあ、Y君、君のいた世界では俺達はどう思われていたんだ?」
Yは、暫く躊躇うように沈黙していたが、宇垣の催促に諦めたように重い口を開いた。
「非人道的な攻撃であると認識されています、最近では自爆テロと同じように考えている奴等もいるみたいです。」
「自爆テロ?」
「・・・イスラム教徒の過激派が主に行っているテロの事です。市街地等で爆弾を身に付けたテロリストが自爆し、多くの民間人を道連れにするテロ行為の事です。」
Yは宇垣にテロの内容を詳しく説明する。
黙って聞いていた宇垣は、やがて。
「・・・そうか・・・。」
重い口を開いた。
「君も、そう思っているのか?」
宇垣の問いに、Yは小さく、しかし低くはっきりとした声で答えた。
「否。」
「?Y君?」
「断じて否!特攻とは、戦う意思がある者同士が戦場にて闘うに辺り、何を武器に戦ったかの違いに過ぎない。豊富な武器、弾薬をもって戦う敵に対し、一つの爆弾と己の手足となる飛行機、そして命を武器に戦った彼等こそ立派な武士、民間人を狙う犯罪者と違いその行いに卑怯、卑劣な振舞いなし!」
一気にまくし立てたYは、口をつむぎ、じっと暗い海を見つめていた。
しばらくして、Yは一首の短歌を口ずさんだ。
「かくすれば、かくなることと、しりながら・・・。」
「やむにやまれぬ、大和魂。吉田松陰先生か。」
下句を次いだ宇垣の言葉に頷いて、Yは話始める。
「私の祖父は縫製職人をしていました、若い頃は銀座の山崎で働いていて、大正天皇陛下のお召し物も縫わさせて頂いた事もあると言ってました。」
「銀座の山崎?山崎高等洋装店か?」
宇垣の問いに頷いたYは話を続ける。
「戦時中は、徴用されて巣鴨消防署に機関員として配属されていましたが、そこの署長に随分重用されていたらしく、召集令状が二回来た際、二回共署長が出頭して取り消してしまったとの事です。」
「・・・、確かに警視クラスが出張れば可能だな、」
「ただ、祖父は兵隊に行きたかった様で、署長と陸軍採用官の前で『私は兵隊になって報国がしたい!』と直訴したそうです。『もう、一人だけ取り残されるのはイヤだ』と。」
「・・・。」
「その時、責任者の大尉が、祖父に言ったそうです。『帝都を火災から守るのも立派な報国です、貴方の忠心は署長を見ているとよく判る、御苦労様です、今後も署長の元で更なる忠心と報国に励んで下さい。』そう言うと責任者の大尉さんを始め、その場にいた軍人さん全員が祖父に向かって敬礼したそうです。」
宇垣は何度も頷いた。
「その場に泣き崩れた祖父は、署長に引き摺られる様に巣鴨消防署に帰ってきたとの事です。」
そこまで話すと、Yは一呼吸おいた。
「あの時代、民間、軍を問わずそうした思いがあったみたいですね。だから私は、今の時代を命を賭して作ってくれた英霊の皆様に感謝します。」
宇垣の 顔に笑顔が戻り、そして。
「・・・そうか。」
そう言って、ゆっくりと頷いた。
朝日が昇ってきたらしく、周りが少しづつ明るくなっていく。
「長官!もう我々には歴史の中にうずもれていく敗北は必要ありません。」
Yは、長官の顔をじっと見つめ名が言った。
「皆で行きましょう!暁の水平線の向こうに勝利を刻みに!」
「ああ!やってやるさ、やってみせるとも!」
宇垣は手を差し出し、Yはその手をしっかりと握った。
ゆっくりと、水平線の向こうに太陽が昇り始めていた。
一年以上前、ちょうど第6話を書き始めていた時、特攻隊の話題がツイッターで書かれているのを見て、唖然としてしまいました。
よりによって特攻隊が自爆テロと同じだと言っている・・・。
意見としては正しい(?)のかもしれませんが、気持ちとして釈然としませんでした。
私の祖父は戦争に行かずに済んだ、幸運な日本人の一人でしたが、それでも、毎年8月15日には必ず黙祷しておりました。
我々も、過去の大戦においては、敗者として歴史を作ってきたはずです。
多くの英霊の皆様の命と引き換えに、今の(頼りないけれども)豊かで、平和な日本があるのを忘れないでいてほしい、いや自分が忘れないよう心掛けねば。
今回の話は、その思いから書き上げました。
それにしても・・・。
遅すぎてごめんなさい!!!