鹿屋のY氏   作:yasu0573

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永らく投稿出来ず申し訳ありませんでした。
それでは、はじまります。


第5話 Y氏、対立する。後編

鹿屋鎮守府、応接室

 

Yに勧められてソファーに腰掛けた陸軍中佐は、不機嫌に顔を歪めながらYに話しかけた。

「ここはずいぶん規律が緩いみたいだな、上官にはむかうなんて陸軍では考えられん、全く、わざわざ忙しい中出向いてきたのに。」

辻中佐の嫌みにYは笑顔で答える。

「いやぁ、すみませんね、ここは機密事項の多い所ですので不審な人物には注意する様に常々言い聞かせてまして、所で陸軍の参謀さんが何の御用ですか?お忙しい参謀本部の方をわざわざ呼びつけた覚えはないすのですが。」

凄まじい嫌味をさらっと笑顔で言ってのけるYに、辻中佐はこめかみに青筋をたて、頬をひきつらせながら一通の封書をとりだした。

「これは一体どういうことなのかな?提督。」

Yは手紙を受け取ると、中を開いた。

「…いやはや、軍令部もやるなぁ、実にウエットにとんだ文章だ…、霞もそう思うだろ?」

コーヒーをテーブルに置いた霞も俺の後から手紙を覗き込みながら頷く。

「中々気が利いた文章じゃない、特にここの所なんて凄いシュールね。」

二人してニヤニヤしながら手紙を読んでいると、とうとう辻中佐が怒りを爆発させた。

「そんな事を言っているのではない!提督!何故演習の申し込みを断った!その手紙の内容といい、我々を愚弄しているのか?」

Yは溜め息をつきながら辻中佐に向かって言った。

「辻中佐、今我々は北方海域の攻略準備を進めなければなりません、」

辻中佐が驚いたようにこちらを見る。

「バカな!まだ鎮守府海域を開放したばかりじゃないか。何で北方海域の攻略準備をしているのか?」

辻中佐の言葉に霞が呆れたような声で答える。

「南西海域なら一昨日解放したわよ、宇垣中将への報告は昨日になってしまったけど。」

ポカーンと口をあけて固まってしまった辻中佐に向けて話を続ける。

「私が提督に推挙された時、キスカ島の話を聞きました、同胞が6000近く取り残され絶望的な防衛戦を強いられていると。」

Yは横を向き、窓から見える海を見つめながら話を続ける。

「提督に就任するにあたり、軍令部と参謀本部にはキスカ島撤退作戦は一刻も早く実施させて頂きたいとの上申をを行い許可を得ています、私は陸軍、海軍の同胞達を何としても救出したい、いや、救出しなければなりません、その為の電撃作戦であり、駆逐戦隊のレベル上げなのです。」

Yは顔を戻して再び辻中佐を見る。

「我々は今、この作戦に全勢力を傾けています、他の事に割く余力はないのです、どうぞ御理解下さい。」

そう言って頭を下げるYに、やっと頭の中で状況を整理し終えたであろう辻中佐が話始める。

「そ、それならばなせ我々に話を通さないんだ!」

「あんた何聞いてるの?参謀本部の許可を得てるっていってるでしょ。」

霞のバカにしたような返事を聞き、辻中佐が頭から湯気を出しそうなほど顔を真っ赤にして立ち上がった。

「貴様!兵器の分際で私を虚仮にするつもりか!!」

その言葉を聞いた途端、Yの顔色かかわる。

「…今の言葉は聞き捨てならないな、中佐。」

ゆらりと立ち上がったYは鋭い眼光で辻中佐を見据える。

「…どういうことなのかな?」

Yの怒りに気圧されながらも、辻中佐はどうにか返事を返した。

「き、決まっているだろう、こいつらは兵器だ。」

吃りながら辻中佐は言葉を続ける。

「へ、兵器とは本来使い手の動きに忠実に在るべきだ、意思を持った兵器など人類に対しての脅威以外の何者でも…。」

「その意思を持った兵器とやらに頼らなければ近海の安全さえ確保できない軍人が言うべき台詞なのかな?中佐。」

辻中佐の言葉を遮り、Yは嘲るように言葉を投げつける。

「そもそも彼女達を兵器と見なしていることが間違えだ、彼女達は此処ではない世界において、多くの船乗り達が慈しみ、育てあげた船の魂、その英霊たる魂が受肉した物だ。」

「そ…そんなことが…あるわけが…。」

しどろもどろになる辻中佐にむけ、Yは言葉を続ける。

「…其を理解出来る人のみ、彼女達の指揮をとれるのです、一度不本意に沈められた彼女達の心を守り、その魂によりそわなければ彼女達は十全に動けない…。辻中佐、今のあなたには無理だ。」

「き…貴様にはできるのか?何故だ!」

「…それこそ機密事項だ、おいそれとは話せない事だよ、中佐。」

鼻を鳴らして小馬鹿にしたように言い放つYにの態度に辻中佐の額に再び青筋がたった。

「ふざけるな!!貴様は一体何者だ?」

そう叫ぶなり立ち上がり腰に吊るしてある拳銃を引き抜きYに向けようとした。

その瞬間、霞は艤装を展開し二人の間に割り込むと、砲身を中佐に向けてかまえる。

「な、何のつもりだ!」

「それはこちらの台詞よ!警告するわ!手に持っているその銃を提督に向けたらあんたの頭を木っ端微塵に吹っ飛ばすわよ!」

辻中佐の怒声を霞の警告の声が遮る。次の瞬間、カシャっと艤装より音がして弾が霞が持っ連装砲に装填される。

その時、執務室に繋がっているドアが開いた。

「どうしたの?霞ちゃ…キャアアアッ!!」

大きな物音に驚いて、慌てて覗きにきた吹雪が、辻中佐の手に握られている拳銃を見て悲鳴をあげ、こちらに突っ込んで来る。

「司令官!危ない!!」

まるで始めて会った時の様に突っ込んで来た吹雪は、敵の銃弾から庇う様に押し倒し、その上に覆い被さる。

吹雪の悲鳴を聞いて駆け付けで来た艦娘達の反応は、素早かった。

大和は艤装を展開して吹雪とYを守る様に仁王立ちし、霞の横にきた加賀は弓に矢を番え引き絞る、曙と満潮は左右に別れながら艤装を展開、辻中佐に照準をあわせた。

「き、貴様ら!陸軍中佐たる私に、銃口を向けるなど!ど、どうなるか判っているのだろうな!!」

四方から砲口を向けられた辻中佐は、慌てた様にキョロキョロしながら喚きちらす

「あんたこそ判ってんの?陸軍の佐官が海軍の将官に向けて銃を抜いて、銃口を向けようとしたのよ!とっとと銃を捨てて手を上げないとどうなっても知らないわよ!」

霞の再度の警告に合わせるように、曙と満潮が、そして。

カシャ カシャ ガチャン。

大和の主砲にも砲弾が装填される音が響き、一瞬の静寂の中。

キリキリ キリキリッ。

加賀の弓を引き絞る音が聞こえてきた。

その時・・・。

「そこまでです!」

廊下側のドアから、赤城と龍譲に守られるように背広姿の恰幅の良い男が入ってきた。

「大高首相!」

吹雪を抱き起こし立ち上がったYは慌てて敬礼を行い、大高が頷くのを確認して腕を下す。

「みんな、砲を下ろせ!大高総理の前だぞ!」

Yの指示に従い駆逐艦の指示3名は主砲を下に向け、加賀は矢を弦から外し、大和は仰角最大にしてYの指示に従った、だが目線は辻から切らすことなく、目を光らせている。

「辻中佐、君は誰に銃口を向けようとしているのか理解しているのか?」

大高総理の後ろから、呆けている辻中佐に向けて声がかかる。

その声を聞き、ビクッとして向けた視線の先、大高総理の横に、陸軍の将官服に参謀肩章をつけた体格の良い男が現れた。

「さ、西郷総長!」

成り行きについていけず、敬礼する事も忘れて放心している辻中佐に向けて、陸軍参謀本部総長たる西郷は再び低い声で話始める。

「辻中佐、改めて聞く、陸軍中佐の君が海軍中将たるY提督に銃口を向けた、これが何を意味するのか、理解しているのか?」

西郷総長の眼力に気圧された辻中佐は、ヘナヘナと座り込んでしまう。

西郷総長は、辻中佐を見下ろす様に見据える、その時、隣で小さくため息をついて顔を左右にふっていた大高総理が西郷の方を見て言った。

「西郷君、もう良いでしょう、Y君も、いいですね?」

大高の問いにYが頷くのを確認した西郷は、眼力を緩めながら辻中佐を見て言った。

「辻中佐、今日の事は不問にする。退出したまえ。」

がっくりとうなだれた辻中佐は、ヨロヨロと立ち上がると、西郷に一礼し、俯きながら部屋を出て行った。

中佐の退出を確認した後、西郷は改めてYの方を向いた。

「Y中将、この度は辻中佐が無礼を働き申し訳ない。」

深々と頭を下げる西郷総長に、Yは慌てながら言った。

「どうか頭を上げて下さい、西郷総長。それに私は少将ですが?」

西郷の態度に恐縮しつつ、頭にはてなマークを浮かべる。

「?まだ聞いてないのかい?君が昇進したことを。」

頭をあげた西郷総長が首をかしげながら尋ねる。

「「「「「「…えええっ!!」」」」」」

艦娘達の驚きの声が室内に響いた。

「はははっ、言われてしまいましたね、総長。」

「…少し外連がすぎないか?宇垣君。」

大高総理と、西郷総長の後ろから声が聞こえ、西郷総長が横に下がると、そこには高野海軍軍令部総長と宇垣基地司令の姿か見えた。

「高野総長!宇垣司令!」

Yが慌てて敬礼すると、艦娘達も焦ったようにそれに倣う。

高野と宇垣は苦笑いを浮かべ答礼をかえした。

「宇垣基地司令、どういう事ですか?」

敬礼を下すとすぐにYは宇垣に尋ねる。

宇垣は笑いながら近くにいた龍譲の頭をなでながら言った。

「手柄を立てたんだ、昇進するのが当然だろう、何あせっているんだ?」

ニヤッとしながら話す宇垣を見て、Yはがっくりと肩を落とす。

「…中将、また黙ってましたね?」

悪戯が成功した時の子供のようにニヤニヤしている宇垣を見て、Yはため息をついた。

「…んんんっ。そろそろいいかね二人とも。」

高野総長の咳払いに、宇垣はそっと高野に場所を譲るように後ろに下がった。

「失礼しました総長。」

「うむ。さてY君、突然で驚いただろうが勘弁してほしい。君の快進撃に軍内外から非常に期待すると言う声が多く聞こえてくるようになってね、是非海軍中将と艦娘艦隊の総責任者の地位を受けてもらいたいのだ。」

高野の言葉に大高総理、西郷総長も頷く。

「Y君、おめでとう。これで私と同じ階級になったな。」

宇垣中将が嬉しそうに握手してくる。

その時、高野総長が先ほどの宇垣中将のようににやりと笑いながら彼の肩をたたいた。

「残念だが、君も昇進だ。鹿屋基地、第五航空艦隊は正式に艦娘艦隊を指揮下に入れ、横須賀、呉、舞鶴、佐世保、大湊と同格の基地司令規模と、独自作戦執行権を有する事になる、よろしく頼むよ、宇垣大将。」

「陸軍参謀本部として、その人事案を支持します、たしか、大将以上の人事は陸海軍合意が原則でしたな。」

西郷総長がすかさず同意する。

「内閣府としても、海軍の人事案を支持します。直ちに必要な手続きを開始しましょう。」

大高総理も、続く。

「では、この場で昇進と言う事で異存ありませんね?」

「「異存無し!!」」

宇垣がポカーンとしている間に、昇進手続きが完了してしまった。

高野は、ニヤリと笑うと再び宇垣の肩をポンポンとたたいた。

「宇垣君、これが正しい外連というものだよ。」

高野のどや顔をぽけーっと見ていた宇垣は、やがて短く刈り上げた頭をぱしぱしと叩きながら頭を下げる。

「いやぁ、参りました。お三方とも、お見逸れしました。」

暫くの間、笑い声が部屋の中に響いていた。

「…さて、二人とも。」

高野が話始める。

「これで、鹿屋基地独自の作戦が行えるようになったわけだ。宇垣君、Y君、待たせてしまいもうしわけない」

高野の声に二人は力強く頷く。

「Y中将、アッツ島の撤退も可能かな?」

西郷総長がYに尋ねる。

「アッツ島ですか…。」

言葉を濁すYに、宇垣が声をかける。

「大丈夫だ、フィリー君に戦力増強を頼んでおいた、もう来る頃だが…。」

「もう来てるわよ!」

宇垣の声にかぶせる様に、フィリーの声がドアの外から聞こえた。

そして、空いたままのドアから、ぞろぞろと艦娘が入ってきた。

艦娘達は一例に並んでYに正対する。

矢矧の頭の上には、どや顔をしたフィリーがふん反りかえっていた。

「軽巡矢矧、着任したわ、提督、最後まで頑張っていきましょう!」

「駆逐艦、朝潮です。勝負ならいつでも受けてたつ覚悟です。」

「駆逐艦島風です。スピードならだれにもまけません。速き事島風のごとき、です!」

「名取といいます。ご迷惑をかけないように、が、頑張ります!」

「羽黒です。妙高型重巡姉妹の末っ子です。あ、あの…ごめんなさい!」

五人の艦娘の挨拶を受けて、Yは答礼をかえした。

「鹿屋基地第五航空艦隊所属、鹿屋鎮守府提督のYです。」

Yが答礼を下ろしたとき、吹雪が、朝潮の前に駆け寄ってきた。

「朝潮ちゃん!」

「吹雪さん、又、一緒に戦えますね。」

手を握り再会を喜びあう二人の後ろに島風が近付く、そして。

「吹雪~。」

横から吹雪に抱きついた。

「きゃつ!し、島風ちゃん?」

「…吹雪のぽかぽか…久しぶり…♪」

最初は驚いていた吹雪も、抱きついてご満悦の島風を見て、優しく微笑む。

「もう、島風ちゃんてば…。相変わらず甘えん坊さんなんだから。」

島風の頭を優しく撫でると、島風は嬉しそうに頭を擦り付けつきた。

部屋の中にいた皆も優しい眼差しで三人をみつめていた。

 

鹿屋鎮守府の入口から一人の男が出てきた。

陸軍の服を纏ったその男は、瞳の奥に憎悪の炎を滾らせていた。

「…許さん…許さんぞ!」

その言葉を呪文のように唱えながら、基地の出口に向けて歩いていった。

 

 

 

 




読んで頂き有り難う御座いました。
次は、いよいよキスカ島撤退編を始めたいとおもいます。
今度ははやく投稿したいなあ。
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