ジョセフはジャックの頭突きによって意識を失い、ジャックもまた多量の出血によって意識を失った。
この執務室において立っているのは俺だけだ。
今回の任務はジョセフを捕まえる事。
しかし、
「…………。」
この男のせいでどれだけの人が死に、どれだけの人が苦しみ、どれだけの人が悲しんだのだろうか。
タガミ先輩は連れ去られ、生死は不明。
アニエスの恩人は処刑され、晒し物になった。
ジャックも銃弾を受け、もしかしたらこのまま死んでしまうかもしれない。
そんな諸悪の根源を生かしておいて良いのだろうか?
「今なら……」
こいつを殺すチャンスだ。
仮に捕まえたとしても、拳銃を没収したとしても、まだ隠し玉を持っているかも知れない。
一発逆転の秘策が、拳銃以外の武器が、抵抗する為の術があるかも知れない。
身体検査をしている間に目を覚ますかも知れない。
それならばここでジョセフを殺してしまう方が良いのではないだろうか。
「今ならこの剣で……」
俺は腰元の剣に手を掛け、引き抜かんとする。
しかしその時、腕に硬い何かが当たった。
「クロス……。」
それは出発前にアニエスから受け取り、胸元に入れていたクロスだった。
その瞬間、悲しみに暮れながらも顔を上げた彼女の言葉が脳裏を過る。
『私は別に復讐だったり、ジョセフに死んでほしい訳じゃないんです!』
『赦しはしていません!ただ、償ってほしいんです!死んでしまったら償う事すら出来ないじゃないですか!』
『個人の復讐で人を殺すのは違うと思うんです!悪い人はルールで裁かれるんです!』
彼女が望んでいたことは加害者のジョセフの死ではない。
報復ではなく、法に依る裁きと彼の償いを以て罰とする事をこそ求めたのだ。
それに今回の任務は捕縛であり、決して殺害ではない。
「俺は…………」
ジョセフへの恐怖から来る殺意に対し、理性と思い出がそれに歯止めをかける。
「俺はどうすれば良いんだ……?」
今ならば無力であり、拘束する事など容易なはずのジョセフにさえ恐怖を抱く自身に情けなさを感じずにはいられない。
しかしそれでも、これまでの所業が、拳銃と言うこの世界には本来存在しないであろう兵器が、効率化への苛烈なまでの思想が、その眼に宿っていた劫火が、俺の心に『今のうちに殺しておくべきだ』と強く訴えてくる。
「今この場でジョセフを殺してしまうべきか、生かしておくべきか…………。」
相反する感情と理性。
葛藤の末、俺は…………
鞘から剣を抜き、振るった。