アルステッドと話をしていると、彼の後ろからひょこっと小柄な男が顔を出す。
俺が声を掛けられる前の様子から、恐らくアルステッドの従者だろう。
「ども。不本意ながら若様のお目付け役を仰せつかっておりますベックと申します。以後お見知りおきを。」
「ど、どうも……。」
小柄で気力に乏しい垂れ目が特徴的な男はベックと名乗った。
気楽そうな雰囲気は親しみやすさを感じなくもないが、主の前で不本意と言ってのける振舞いに面食らう。
「ふっ、不本意とは手厳しいな!アストンには『若様のお蔭で兵士たちは常に気を張り、治安に対する意識を高めております。』と評されたのだが。」
「そう思うのでしたら、もう少し落ち着いてもらいたいのですが。それとアストン殿の言に関してはオブラートに包んだ苦言です。言葉の裏を読むべきかと。」
ベックは慇懃無礼と言った物言いで自身の主を表するが、肝心の主はどこ吹く風。良くも悪くも気にした様子は無い。
ある意味では信頼関係が成り立っていると言えなくもないだろう。
一見すると肝を冷やすようなやり取りだが。
「まぁ、立ち話もなんですし、中でお話しましょ。」
「うむ、そうだな。遠からぬうちにグランマも買い出しから帰ってくるだろう。それまで我が領について話をさせてもらおう。」
「そうだな。俺も聞きたい事がたくさんあるし。」
ベックに促され、『差し伸べる手』の拠点へと入る。
どうやらこの、やたらと豪奢な建物はラディウム支部で間違いなかったようだ。
「お、大将。お帰りー。」
「そいつがリョータか?」
「うむ、遂に見つけたぞ!」
「見つけたと言うより訪れたって言うべきですけどね。」
「細かい事は気にするな!私は気にせん!」
建物の中に入ると一組の男女が椅子に腰かけて休憩していた。
彼らは俺たちが入ってきた事に気付くと声を掛けてくる。
「アタシはイーリスだよ。よろしくねー!」
「オルガノだ。」
「あぁ、ユーキ・リョータだ。よろしく。」
一つ結びの金髪を揺らしながら手を振っている女はイーリスと名乗り、浅黒い肌に彫りの深い顔の男はオルガノと名乗った。
「話なら聞いてるよ。新リーダーなんだよね?」
「ジャックみたいに頼りにはならないけどな。」
「奴もまた手探りだった。」
「そーそー!オルガノの言う通りだよ。」
ジャックは長期療養に入り、その穴を埋めるために新しくリーダーとなったが、やはりそう呼ばれるのはまだ慣れない。
経験も実績も違うのだから当たり前と言えば当たり前だが、彼女たちはそれを気にせず前向きに受け止めてくれている。
「交友を深めているところ悪いが、少しリョータの時間を貰うぞ。」
「あぁ、ごめんごめん!それじゃ、グランマが帰ってきてご飯の準備が出来たら呼ぶよ。」
「こっちの部屋が空いている。」
話をしているとアルステッドが割って入り、俺と話をしたいと告げる。
それを聞いたイーリスは離れていき、オルガノは空き部屋を指差した。
さて、このラディウム領の問題とは何なのか。
遂にそれが分かる時が来たようだ。