噂の人物
リエフの街を出て一日、その間は事件も事故も無く穏やかな旅路が続いた。
そして馬車に揺られているとジャックさんから声を掛けられる。
「よし、ワシャールに着いたぜ。」
「ここが………。」
ワシャールの街に到着し、馬車から降りると目の前に広がった光景は、
「なんて言うか、普通ですね。」
割と異世界物で描かれるような、中世感のある建造物が立ち並んでいた。
「最前線の街って言うからもっとボロボロだと思いましたか?」
「はい。でも想像以上に平和そうで、ちょっと驚きました。」
「そりゃ王国軍の連中も無能って訳じゃねぇだろうからな。ただ………」
「ただ?」
廃墟とは言わなくとも、多少は建物とかが壊れているのかと思った。
ジャックさんは王国軍の事を無能ではないと評価するが、その先を言い淀む。
確かに全く戦えないなら、こちらまで逃げてこなかっただろうけど、王国軍に何かあったんだろうか。
「やぁ、ジャック。君もこちらに来たのか。」
ジャックさんに話の続きを促そうとすると、儚げな見た目の青年がジャックさんに声を掛ける。
彼も『差し伸べる手』の仲間だろうか?
「よぉ、フリード。久しぶりだな。」
「!?」
この優男があの噂のパワハラ上司ことフリードだと!?
もっと厳つくてゴリゴリの体育会系な見た目だと思っていた。
この見た目で『パワハラしてます』なんて言われても信じられないし、それどころかパワハラの被害に遭ってそうな見た目だ。
「リエフの方はどんな雰囲気だったかい?」
「一部の連中が不満を持ってるが、URPの奴らがそいつらを処分してる。不安定ではあるが、強引に引き締めてるって感じだな。」
「そうか。さっさと自滅してくれれば楽なんだけどね。」
「そう上手くはいかねぇだろ。」
「向こうに内患があるように、こっちも問題があるんだ。楽観的な話をするくらいは良いじゃないか。」
驚愕する俺を余所にジャックさんとフリードは話を続ける。
しかしそこにフリードの部下と思しき人物が声を掛ける。
「フリード様。ゲーラン様がお待ちです。」
「おっと、今行くよ。長旅で疲れている中引き留めて悪かったね。また後で時間を作らせてもらうよ。それじゃ、また。」
「おう、またな。」
フリードは部下に連れられてこの場を離れる。
「今の人が………。」
「あぁ、あいつがフリードだ。」
「こう言ったらなんですが、見た目だけだと噂で聞いたようなヤバい人じゃなさそうですね。」
「見た目だけなら、な。」
「え?」
「まぁそのうち分かるだろ。さっさと拠点に行って休むとしようぜ。」
ジャックさんに促され、『差し伸べる手』のワシャール支部に向かう。
出来れば実際にフリードのヤバさを体験する前に話を聞いておきたいが、聞きたくないと言う気持ちもある。
どうか想像を超えるヤバさを見せつけられませんように………。