異世界転生後輩   作:一之三頼

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いなかった

「どうにかなったようだな。」

 

アルステッドの演説により、ひとまずは転生者たちの熱は下がり、内戦の可能性を排除出来た訳でこそ無いが、いったんは抑える事が出来た。

人々は心に燻りを残しながらも徐々に解散していき、広場には俺たちと僅かばかりの通行人が残される。

 

「アルステッド、助かった。ありがとう。」

「いや、こちらこそ感謝させてくれ。良い語りであったぞ。」

「結局、俺じゃアルステッドみたいに心に響かせることは出来なかったけどな。」

「おや?そうだろうか。少なくとも私の心には響いたぞ。」

 

俺はアルステッドに感謝の言葉を告げると、彼もまた感謝で応える。

しかしこの場を納めたのは彼のお陰だと言うと、彼は自身の胸元をトントンと親指で指して微笑んだ。

そう言ってもらえるだけで、俺の語り掛けが無駄ではなかったと思う事が出来て、なんだか少しだけ誇らしい気持ちになれた。

 

「しかし驚いたぞ。まさか海賊たちがただの民であり、弟は彼らと共に生活していたとは。」

「聞いてなかったのか?」

「あぁ、父からは何も。」

「ただ単に戻ってきた弟君が勘気に触れて謹慎、共に居たリョータ殿も牢獄で頭を冷やさせているとしか仰っていませんでしたね。」

「それじゃあなんでここに?」

「城を出たところでグランマと出会ってな。そこで広場で大変な事になっていると話を聞いて来て見ればリョータが演説をしていたと言う訳だ。」

 

アルステッドとベックはラディウム公から何も聞いていなかった事を語り、海賊の正体も初めて耳にしたと言う。

思えば牢獄から出してもらうときはジェーン婦人の事を聞いただけで、俺から海賊の話が出来ていなかった。

その時は投獄される理由になった人物の事を考えていて、報告にまで頭が回っていなかったのだ。

一方、ラディウム公からすれば、現地民だろうと海賊は海賊であり、排除すべき対象と考えているのだろう。

それ故にアルステッドたちに伝える必要はないとしているのだろうか。

ともあれ、これでアルステッドからもより一層の協力が見込めそうだ。

少しずつではあるが、問題の解決に近づけている気がしない事もない。

いや、まずはその前に……

 

「そうだ、ユーステッドはなんて言っていた?『覚悟を決めた』ってどういう意味だったんだ?」

「弟は…………」

 

広場での騒ぎで後回しになっていたが、アルステッドに頼んでいた事について尋ねてみる。

すると彼は言葉に詰まり、僅かに沈黙する。

 

「いなかった。」

 

少ししてアルステッドの口から出てきた言葉は、ユーステッドの意図ではなく、彼の不在を告げるものだった。

 

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