「ウハヤエ教って言うのはウラッセア王国で広く信仰されている宗教です。王様だってウハヤエ教を信仰しているくらいですから。」
なるほど、元居た世界でのキリスト教とか仏教とか、そんな感じの宗教か。
「教義だっておかしなものはありません。人々の調和を重んじ、平和を尊び、王国の安寧に大きく貢献してきたのですが………」
カルト宗教的な雰囲気は今のところ感じない。
こっちの世界に来てから酷い人間ばかり見てきたが、そう考えると広く信仰されているとは言えども温度差はあるのだろう。
しかし説明を続けるアニエスの表情は神妙な物に変わっていく。
「ジョセフ?と言う人が王国をメチャクチャにして、ウハヤエ教を信仰する事を禁止したんです。」
王国をメチャクチャに、か。
この世界に来て最初に出会った商人から話を聞いた時には、『ジョセフは労働者を率いて国を乗っ取った』とか言ってたし、普通に生活している、ジョセフに加担しなかった人たちにとっては、まさにその通りなんだろう。
でも今まで宗教や信仰とは縁のない生活を送ってきた俺には『信仰を禁止された』と言われても、それがどれほど本人たちにとって酷い事なのか想像がしづらい。
「でも私たちは信仰を捨てる事なんて出来ませんでした。そして、教会に兵士たちが押し入って来て………。私は教区長様に逃がしてもらいましたが、恐らく他の皆は捕まっちゃったと思います。」
話を聞くに、恐らくは共和国の範囲内の教会はどこも似たような状況になっているのだろう。
正直、弾圧する側の気持ちも、弾圧されても信仰を続ける側の気持ちも理解出来ない。
何故そこまで争うんだろうか。
もう少し話を聞いてみたいが………
「その後は教会と付き合いのあったレオノーラさんを頼って街から連れ出してもらったんです。偶然、通りすがりのレオノーラさんと出会う事が出来て助かりました。」
「私は焦りましたよ。兵士たちに教会の人間だと思われたらどうなるか分かりませんからね。」
その前に一つ疑問が浮かぶ。
それは、
「レオノーラさんはジョセフが国を乗っ取る前からアニーと知り合いだったんですか?」
「情報を集めるにしても、地域に根付くにしても、ウハヤエ教会の存在は都合が良かったんですが、まさかこんなことになるなんて思いもしませんでしたね。仮にこうなると分かっていれば近づかなかったと思いますよ。」
「これも主のお導きですね!」
「本当は見捨てたかったですが、騒がれても面倒なので仕方なく連れて来ただけです。この街にも教会はあったはずですから、ようやく解放されますね。」
「また遊びに行きますね!」
「来ないで良いです。来ないで下さい。」
「そんな事言わないで下さいよ!『汝、隣人を慈しめ』って主もおっしゃっているんですから!」
「私は信徒では無いので知りませんね。」
アニエスはレオノーラさんに抱き着こうとするが、レオノーラさんはアニエスの頭を片手で抑えて近づけないようにしている。
レオノーラさんは口調こそ嫌々と言った感じだが、雰囲気は柔らかく仲が良さそうに見える。