「どなた様でしょうか?」
「あ、こ、この人です……!こ、この人が、私に、リョータさんたちの事をお、教えて、くれたんです……!」
「やぁ、先ほどぶりだね、お嬢さん。」
ディーゴは困惑しながら来訪者に尋ねる。
入口にはフードを目深にかぶった人物がおり、ナーヤに向けて軽く手を振っていた。
「予想通りの働きをしてくれて嬉しいよ。でもボクはただの使い走りだから、詳しくはこちらのお方に伺ってほしいかな。」
「こちらの方って……」
フードの人物は自分は重要な人物ではないとして入口の脇に寄ると、外からは見知った人物が商館に入って来た。
その人物とは……
「先日ぶりですな、リョータ様。」
「レナード殿!?」
王城で出会った司祭、レナード。
かの穏やかな老爺であった。
「いやはや、王都から戻って来て見れば、リョータ様が聖堂にいらしていたようで。声を掛けに行こうと思いましたが、まさか痴れ者が牢に繋ごうなどとは思いもしませんでした。」
彼は懐からハンカチを取り出し、額を拭きながら予想外の出来事であったと述べる。
「故に、私の手の者を動かし、救出に当たった次第です。」
何かが引っかかる。
が、それが何であるのか具体的な形にならず、いったんこれまで疑問に感じていた事を問う。
「助けてもらえたのはありがたいのですが、どうして直接釈放してもらうのではなく、わざわざナーヤが動くように差し向けたのですか?」
そう、教会関係者が脱獄を手引きしてくれた事は予想通りだったが、では何故、直接釈放せずに間接的に動いたのか。
それに関しては全く予想が立たず困惑していたが、事を起こした張本人に聞けるのであれば聞いておきたい。
「本来であれば、罪無き物を釈放する事に問題は無いのですが……」
俺の問いかけに対してレナードは困ったように眉尻を下げて口ごもる。
本来で、と頭に付けるのだから、彼としても脱獄の手引きは本意ではないと言う事だろう。
「今は時期が悪いのです。」
「時期が悪い?」
「次の教皇を選ぶ時期が近く、藪をつついて蛇を出す事になりかねないのですよ。自分で言うのもなんですが、私も決して教会の中で低い地位に居る訳でもなく、軽々しく周囲を刺激するような行動を起こすと何が起こるか分からないのです。先日、次期国王陛下へのご挨拶に伺えたのも粘り強く根回しと手続きを進めたが故でありますし、それも極力、周囲への影響を抑えるようにしておりました。」
レオノーラを探しに来たはずが、気が付けば予想を遥かに超える事態の話を聞かされて頭がショートする。
それでも何故俺たちが捕らえられる事になったのか、その疑問は解消されていない。
結局、アニエスと会う事も出来ていない。
そして何より、一度牢屋に入れられ、脱獄した事で次期教皇を選ぶ諍いに巻き込まれかねないのではなかろうか。
先程、俺の口から脱獄の旨を伝えられたディーゴの気持ちが今ならよく分かる。