「次の教皇を選ぶって話だけど、アニーも教皇候補だったりするのか?」
「アニー?どなたの事を言っているのでしょうか?」
「アニエスって奴が今めっちゃ持ち上げられてるって聞いてよ、確か聖者?だったかになるとかって聞いたんだ。」
俺が虚空を眺めている間にもモルダはレナードに質問する。
衝撃に飲まれていなければ失礼な言葉遣いを咎めていたかも知れないが、今はそんな余裕もない。
しかし問われたレナードは気にした素振りを見せず、彼に返答しようとするが、アニーと聞いて首をひねる。
「……あぁ、彼女の事ですか。であれば、お答えしますとアニエス卿は教皇候補ではありません。」
「人気らしいけど流石に違ったか。」
「ほっほっほ、確かに名声や人気、支持基盤も大切ではありますが、それだけで教皇に成れた方は歴史を遡ってみても一人もおりませんな。」
本名を聞くとレナードは少しして納得したように頷いて返答の続きを述べた。
彼女は初対面の時から自身の事をアニーと呼んでほしいと強く推してきたが、流石に教会に帰ってからも同じようには振舞えなかったのだろうか。
ともあれ、彼の答えたように聖者候補には挙げられているようだが、それだけでは決め手としては弱いらしい。
言ってしまえば実力が不足していると言う事か。
聖職者における実力が何なのかは分からないが、正直な所『差し伸べる手』に居た頃は聖職者らしい所をあまり見られなかったし、むしろそれで良いとすら思う。
シスターとしてどうこうではなく、彼女自身の爛漫な、あるがままの姿勢には皆、明るい気持ちになれたのだから。
「へぇ~、まぁあいつは教皇って感じじゃないもんな。ちなみに爺さん、えーっと……レナード、だったっけ?は教皇候補なのか?」
「ほっほっほ……まぁ、一応は候補の末席を汚させて頂いておりますな。」
「おぉ!すげぇじゃん爺さん!」
「はっ!」
「お、戻って来た。」
レナードも教皇候補であることを聞いた辺りで意識が覚醒する。
これまでも聞こえては居たが、脳の処理が追いついておらず反応が出来なかった。
「おいモルダ、さっきからレナード殿に失礼だぞ!」
「でもこの爺さん気にして無さそうだぜ?」
「ほっほっほ。」
「な?」
「な?じゃないんだよ!」
しかしあまりにもモルダが無礼過ぎた結果、衝撃から帰って来た。
レナード本人は笑っているが、流石にこれは咎める。
教皇候補と言う大人物を前に、と言うかそもそも間接的にではあるが、俺たちを助けてくれた恩人でもある人物を相手にこの態度。
代理とは言え『差し伸べる手』のリーダーとしては肝が冷える。
少なくとも、今度こいつを連れて地位のある人間には会いに行かない、行けない事が俺の中で確定した。