「さて、リョータ様とお連れ様方。今であれば穏便に、咎められる事も引き止められる事もなくルーメンを脱せます。私がある程度までならば手を回せます故。逆に、今を逃せばそれも難しくなるでしょう。」
「ここまで戻ってくる時は大丈夫でしたが、もう脱獄がバレている可能性が高いのでは?」
「いえいえ、心配はございません。リョータ様たちを捕らえた者も、すぐには動けないでしょう。」
レナードはルーメンを脱する事を勧めるが、脱獄してからそれなりに時間が経過している。
もう追手が俺たちを探している可能性もあり得るし、そうなれば街の出入り口は見張られていてもおかしくはない。
しかしレナードは自信満々に問題無いと言い切った。
「善は急げ、と言いますぞ。さぁ、お行きなされ。またいずれどこかでお会いできる事でしょう。」
「…………。」
「おや、如何なさいましたか?そこまで時間に猶予がある訳でもありませぬ故、どうかお早く。」
「レナード殿。お申し出は大変ありがたいのですが……俺はここに残ろうと思います。」
「それはまた、何故?」
「果たしていない目的があるんです。この機会を逃せば、後悔すると、そう思うんです。」
「伺った話では行方知れず出会ったお連れ様を探し出すとの事でしたな。そちらの女性がそうなのでは?」
「レオノーラを連れ戻すって目的は確かに達成出来ました。」
レナードの言う通り、ルーメンを訪れた当初の目的は達成されている。
それならばこれ以上ここに留まり続ける理由はないと、そう考える彼の疑問はもっともだ。
「でも……」
彼女と一緒に居た時間は長いとは言えないだろう。
俺は別に教会の人間ではないのだから、手を差し伸べる必要性は無いのだろう。
ルーメンに滞在し続けるのは危険であり、早急にここを脱出して帰還するのが賢い選択なのだろう。
「あんなに暗い顔をしたアニーを放っておけないんです。」
それでも、かつて共に過ごした彼女を見捨てたくない。
話を聞いて、曇った表情を晴らしたい。
俺は、アニエスに手を差し伸べたい。
どうしようもなく、そう思ってしまうのだ。
「モルダ、悪いけどレオノーラとナーヤを連れて戻ってくれないか?」
「リョータ、私もここまで来て戻るつもりはありませんよ。」
「うーん、オレも残りてぇところだが、流石にナーヤをこれ以上巻き込む訳にはいかねぇか……」
「あ、あの……えっと、わ、私も、の、残り、ます……。」
「え!?」
「ナーヤに残る理由なんてあるのか?」
皆だけでも無事に帰れるよう、モルダに帰りの馬車を任せたが、レオノーラはそれを拒否する。
出来れば帰ってほしかったが、彼女がここまで来た理由を考えると、そう答えるのも理解は出来る。
しかし半ば巻き込むような事になってしまったナーヤまでも帰還を拒否するとは思わなかった。
俺は思わず声を上げ、モルダは首をひねって彼女に問い掛ける。
「ろ、牢屋を壊しちゃった、ので、そ、それの謝罪と、弁償を……こ、このまま、逃げたら、ルーメンに、出入りしづらく、なっちゃいますし……」
「「「あぁ…………」」」
あれはナーヤは悪くないと思いたいが、破壊したのは事実だし、でも彼女が罪悪感を抱くのも、まぁ分からなくもない。
申し訳なさと納得が混ざったような、何とも言えない感覚で俺たちは嘆息交じりに理解を示すのであった。