アニエスの下に向かいたいが、いくつかの障害がある。
一つ、少なくはあるが中庭で衛兵が雑談している。見つかったら牢屋送りだろう。
一つ、モルダが指差した先は中庭に向かってやや上。つまりはアニエスがいるのは一階では無く二階に当たる部屋だ。
一つ、別の道からアニエスの居る部屋に向かおうにも道が分からない。最悪、迷っている間に見つかってしまう可能性もある。
これらの障害を乗り越えて彼女の下へ行く作戦を、誰かがここを通りかかる前に考えなくては……
俺たちは一旦、柱の陰に隠れて小声で話し合う。
「どうする?アニエスの居場所は分かったけど、どうやって向かうかが問題だ。」
「可能であれば中庭を抜けて行きたいところですが……」
「間違いなく見つかるだろうぜ。せめてあそこにいる奴らがどっか行ってくれたらいいんだけどよ。」
「そんな上手い話がある訳……」
この先に進むには雑談に興じている衛兵の眼を掻い潜る必要がある。
モルダは希望的観測を語るが、流石にそれに期待は出来ないだろう。
強いて言うのであれば、交代の時間を狙うのがベターだとは思うが、それがいつになるのか分からないし、ずっとここに居るのも危険だ。
何か良いアイデアは無いだろうか……
「……って訳でさぁ。」
「ははは、馬鹿な奴だな!」
「おい!お前たち!持ち場を離れて何をしている!」
「げぇ……」
「い、いやぁ、ちょっとこっちに侵入者の気配を感じたって言うか、なんだか巡回をした方が良いんじゃないかって気がして……」
「適当な事を言うな!そこまで巡回に行きたいのなら聖堂外周の巡回に行ってこい!」
「うげぇ!」
「ツイてねぇ……」
「早く行け!駆け足!……まったく、最近の若い奴は……ヴェーン生まれの連中は真面目に働いていると言うのに、何故ルーメン生まれはあぁも不真面目なのか……」
作戦を考えている間に雑談していた衛兵二人は上官らしき人物に見つかって叱責され、巡回を命じられる。
あからさまに嫌そうな表情を浮かべる部下に業を煮やした上官は更に厳しく命令し、サボっていた衛兵たちは急ぎ足でこの場を後にした。
それを見送った上官も不満を口にしながら中庭から去っていく。
「あったわ。」
「まぁ見るからに仕事をサボって話し込んでるって感じだったしな。」
「ともかく、これで中庭を通れますね。」
「とはいえ、衛兵が一切いない訳じゃないし、気を付けるのに越したことは無いな。」
予想外の幸運に見舞われ、俺たちは鬼門だった中庭へと足を踏み入れられるようになった。
見た所、誰も通りがからない訳でもないが、人の眼を気にしながら進めば見つかる可能性は低いだろう。