「よし、行くぞ……!」
「おうっ……!」
俺とモルダは互いに小声で声を掛け合って心の準備が出来た事を確認し合う。
互いに頷き合った後、助走をつけ、足場となるモルダに向かって全力疾走する。
「はっ……!」
「それっ……!」
モルダの手に片足をかけ、その瞬間に彼は大きく腕をかち上げる!
腕が最高高度まで上げられたであろうタイミングで更に跳躍!
ほぼほぼ完璧な連携でバルコニーの縁まで距離を詰める!
手を伸ばし……あと30cm!……20cm!……10cm!
時間が引き延ばされたかのように感じられる。
そんな長い一瞬の果てに……
「っ!!!」
届いた!
まずは片手、次いで自由落下に捕らわれる前にもう片方の手もバルコニーの縁をしっかりと掴み、そのまま自分の身体を持ち上げる。
どうにか肘の辺りまでバルコニーの縁に掛け、足を柱の装飾に引っ掛け、登り切った。
今この時ほど、この世界に来て身体を鍛えて良かったと思う瞬間は……いや、ラディウムでも鍛えていたことに感謝した事はあったが、ともあれ良かった。
昔の自分では到底不可能な挙動だっただろう。
「よしっ……!次はレオノーラが来てくれ!」
俺はすぐさま手摺の隙間から上着をロープ代わりに垂らし、レオノーラの手助けをする。
彼女は俺と同じように助走をつけてモルダを踏み台に跳躍、上着を掴んだ所で俺が引き上げ、無事に登る事に成功した。
「届くか、これ……?」
「モルダ、上着を丸めてこっちに投げてくれ……!結んで延ばす……!」
「分かったぜ……!」
しかし最後の一人、モルダは自分の跳躍で上着を掴める高さまで飛ばなくてはならない。
このメンバーの中で最も背が高く、身体能力も優れているが、それでも届くかどうか怪しい高さであった。
不安を露わにした彼の為にロープ代わりの上着の長さを伸ばす事にする。
そしてこの長さなら大丈夫だろう、となったところで……
「そこで何をしている!」
「げぇ!」
「モルダ!急げ!」
衛兵に見つかってしまった!
慌ててモルダは走り出すが、助走をあまり付けられず、中途半端な勢いで跳躍する。
「届っ、いたっ!」
「よしっ!掴んだな!レオノーラ一気に引き上げるぞ!」
「えぇ!いきますよ!」
「待て!」
「うおぉぉぉ!」「よいっ!しょっ!」
ギリギリで上着を掴み、すぐにモルダを引っ張り上げる。
衛兵も走ってモルダの下へと向かっていたが、間一髪で捕まる事無く登り切れた。
眉間に皺を寄せた衛兵はすぐに踵を返し、
「皆!侵入者だ!侵入者だ!南棟二階!アニエス様の部屋近辺に侵入者がいるぞ!」
大声で増援を要請しに行った。
「ヤバいな……」
「見つかっちまったもんは仕方がねぇ。」
「それよりも早くアニエスの所に行きましょう。」
この後、どうなるのかは分からない。
しかし、アニエスの下まであと少しと言う事だけはハッキリとしている。