「私は……」
「こっちだ!急げ!」
「アニエス様!失礼致します!」
アニエスへの問いかけは、彼女が答える前に中断された。
『バンッ!』と扉が開く大きな音が室内に響き、部屋の中に衛兵が雪崩れ込んでくる。
「見つけたぞ!大人しくお縄につけ!」
「アニエス様、ご無事ですか!」
「我々が不甲斐ないばかりにこのような事に……申し訳ございません!」
扉の側には兵士が、バルコニー側には俺たちが、そしてその間にアニエスがいる形となっている。
兵士たちは扉を固めつつアニエスの横から剣を構えて俺たちに詰め寄って来た。
「ま、待って下さい!」
「アニエス様!?」
「侵入者を庇うのですか!?」
「何故そのような事を!」
どう逃げるか算段しているとアニエスが俺たちの傍に近寄り、守るように両腕を広げて声を上げる。
その姿を見た兵士たちは困惑しながらも武器を下げ、足を止めた。
「こ、この人たちは侵入者じゃありません!」
「しかしアニエス様!奴らはバルコニーに登ってこの部屋に入って来たのですぞ!」
「どう考えても不審者でしょう!」
「「「…………」」」
「それは、その……」
アニエスは俺たちを庇おうとしてくれるが、兵士たちの発言に俺たちは一切の反論ができず目を逸らすしかない。
彼女も苦しそうに目を泳がせて言い訳を考え……
「この人たちは……芸人です!」
「芸、人……?」
「そう!そうです!私が驚くような登場の仕方をして楽しませてほしいと、以前街に出た時に頼んだのです!」
「ですが、そのような話は聞かされては……」
「その……こっそり頼んだので誰にも伝えていなかったんです!こうしてここで過ごす時間が長いので、息抜きに……」
出てきたものは『芸人』であった。
しかし言い訳としてはやはり厳しく、それを聞いた兵士は訝し気に彼女に確認を取る。
「それがこんな騒ぎになるなんて思いもしなくて……ごめんなさい……」
「い、いえ!」
「そういう事でしたら……」
それもアニエスが悲し気に俯いて謝ると兵士は慌てて問い詰めるのを止め、引き下がる。
「ほっ……なんとかなりましたね。」
「ありがとう、アニー。」
「助かったぜ!」
「ありがとうございます。」
兵士たちが部屋から出て行ったのを確認し、アニエスは軽く息を吐き、俺たちは胸をなでおろして彼女に感謝の言葉を告げた。
「でも……」
「でも?」
「嘘を、吐いちゃいました…………」
「世の中、嘘を吐かない奴なんていないさ。」
「まぁあんな登場の仕方をしたんだし、ある意味芸人みたいなもんだ!」
「それに仲間たちの中には芸人として活動して資金や情報を集めている人もいますからね。」
落ち着いたかと思ったらアニエスは嘘を吐いた事に落ち込み、俺たちはそれをフォローする。
嘘一つでそこまで落ち込むとは、純粋な所は変わっていないようで俺は心の中で安堵していた。