教会から戻って来た夜。
眠っていたが、俺はトイレに行きたくなり目を醒ました。
廊下の燭台は既に消えており、外から差し込む月明りが足元を僅かに照らしてくれる。
用を足して部屋に戻るが、人々が寝静まった夜には聞こえるはずのない物音が耳に届いてきた。
僅かな物音ではあったが、不審に思いながら音のした部屋に近づいて行くと、そこは先程寝ていた部屋の隣の部屋であった。
「…………」
緊張と共にその部屋の扉を少し開くが、部屋の中は暗く良く見えない。
廊下からの月明りが徐々に部屋の中を照らしていくと不審な人物が部屋を漁っていた。
しかし視界を確保してくれた月明りは不審者にも同じであり、相手は扉の隙間から差し込む光に気が付くと、すぐにこちらに向き直る。
そしてこちらに向かって弾かれたように距離を詰めて来た。
その手に鈍く光る短剣を携えながら。
「うわぁ!?」
驚いた俺は即座に扉を閉めて逃げ出そうとする。
しかし『バァン!!!』と勢いよく扉を蹴り破った不審者は、俺を逃がさないように追いかけてくる。
このままではいつか追いつかれ、背中を切られてしまう。
それならば……!
「!」
廊下に設置されていた燭台を武器代わりに手に取り、不審者に向ける。
相手が短いとは言え刃物なのに対し、こちらはただの家具。
しかしそれでもリーチを確保できたのは大きい。
正直言って狭い廊下で振り回すには扱いずらいが、距離を取るのであれば十分だ。
不審者も距離を詰める勢いを弱め、じりじりと、少しずつ近づいて来る。
しかしそれも一瞬で、
「はっ!」
「くっ!?」
燭台の横を通り抜けて俺に近づき、逆袈裟に切り上げようとする。
すぐに燭台を手元に引き、不審者の刃をどうにか防ぐが、距離を詰められてしまった以上、防戦一方になる。
短剣を燭台で防げば『ガキィン!』と言う金属音が廊下に響き、時折混ぜられる突きを身体をひねってどうにか躱し、必死に生き延びようと打開策を探す。
しかし追い込まれつつある状況、緊迫感から来る疲労と恐怖、それらが頭の回転を鈍らせる。
燭台で攻撃を防ぐたびに耐久力が減り、ミシリと嫌な音が聞こえる。
致命傷は回避ているものの、かすり傷が増え、確実に血が流れる。
「死ね。」
「っ……!」
防衛戦は長くは続かなかった。
遂に燭台はくの字にへし折れ、使い物にならなくなる。
勝利を確信した不審者は短く、そして冷たく一言を発っして短剣を振り上げる。
ここで死んでしまうのか。
仲間たちの、そしてアニエスの顔が脳裏に浮かび、そして恐怖で目を閉じる。
覚悟が決まった訳では無いが、もはや抵抗する手段は無かった……。