モルダに取り押さえられた眼前の不審者をどうするか思案していると、廊下の曲がり角の方が僅かに明るくなり、ドタドタと複数人の人物が走ってくる音が聞こえて来た。
その人物たちはすぐに角を曲がって姿を現す。
「何事ですか!」
「ディーゴ!」
この商館の主が部下を連れてランタンを片手に駆け寄って来た。
あれだけ騒いでいればおかしな話では無い。
俺は順を追って不審者に襲われた話をディーゴにすると、彼は不思議そうに首を捻って疑問を呈する。
「この館には資金や、商品、重要な書類は保管していません。盗人が侵入したとしても、大したものは盗み出せないんですよ。」
それを聞くと、先程から疑問に感じていた不審者の狙いが分からない、と言う疑問がより明確になる。
その間にもディーゴは話を続けていく。
「仮に商品を狙ったと仮定して、うちで取り扱っている物品は単独で運ぶには重かったり、大き過ぎる物が多数を占めるので単独で盗みに入るには適していないでしょう。それに商品を狙ったにしてもエウリア大陸の物品を取り扱っている商会は限られているので足が付きやすいんですよ。」
ディーゴは『それなのにわざわざうちの商会を狙う理由が分かりませんね』と付け加え、不審者が金や商品を狙ってきた盗人ではないと推測する。
彼は更に理詰めを続け、そのまま他の可能性についても言及を始めた。
「仮に他所の商会が重要な書類を狙っていたとしても、狙っている書類の保管してある場所も調べずに侵入するような愚は犯さないはずです。つまり他所の商会の人間の可能性も非常に低いでしょう。」
ディーゴ商会のライバルの商会が弱みや情報を握る為に送って来た訳でもなさそうだ。
可能性として挙がっていた動機を一つずつ潰し、ディーゴは遂に結論を不審者に突き付ける。
「つまり、何かを盗みに来た人間ではありませんね。貴方の目的は何ですか?素直に話せば痛い思いはせずに済みますよ。」
「…………」
「そうですか、残念ですね。バルドル。」
「おう。」
ディーゴが不審者に脅し掛けるように問うが、答えは沈黙。
その態度を見た彼は連れていた男の名を呼ぶ。
バルドルと呼ばれた男は前に出て手に持っているロープで不審者の手足をきつく縛り上げ、身動きを取れないようにした。
「彼はこちらで処理させてもらいます。もしも何か情報を引き出せたらお伝えしますので、今夜は一旦お休み下さい。」
「お、おう。何て言うか、手慣れてるんだな。」
「義父に代わって商会を取り仕切るようになってから色々とあったものでして。」
これまでディーゴが見せて来た温厚な雰囲気は何処へやら。
彼が初めて見せる冷酷な顔に驚きを隠せず、その色々とは何だったのか尋ねたくなるが、同時に尋ねるのが恐ろしくもあり二の足を踏む。
ともあれ、その話は置いておくとして今夜は休ませてもらおう。
緊張が解けて戦いの疲れがドッと出て来た。
しかし部屋に戻ろうとしたその時、
「きゃーーー!!!」
廊下の向こう、レオノーラやナーヤが滞在している部屋の方から絹を裂くような悲鳴が聞こえて来た。