「フミエ?誰だ、そいつは?」
「いや、人名じゃなくて……俺もそんなに詳しい訳じゃないんだけど、ざっくり説明すると信心深い奴、何らかの宗教の信徒に、そいつが信奉している宗教の偶像とかを踏ませるんだよ。」
「リョータ、お前……」
「それは……」
「え?何?なんだ、その反応?俺何かやらかしちゃった?」
踏み絵の説明をすると、モルダやディーゴの俺を見る顔が明らかにおかしい。
具体的に言うとドン引きしているように見える。
そんなに変な事は言ったつもりは無いんだが、彼らの反応から不安になって問題があったのか確認する。
「随分とえげつない事をするんですね……。いえ、確かに有効な手段でしょう。」
「それは、お前……もしかして昨日襲われてめちゃくちゃ怒ってるとかか?」
「怖くはあったけど別に怒っては……いや、一切怒りが無いと言えば嘘になるけど……」
「あんまり怒ってないのにそんなことさせるのかよ……。リョータって実は結構残酷な奴なのか?」
そこまで言われる事なのか!?
なんだか俺がとんでもない冷血漢みたいな扱いを受けているぞ。
踏み絵ってそんなにヤバい事だったのか!?
あまりの言われ様に、俺は慌てて反論する。
「い、一応言っておくけど、別に最初に俺が踏み絵を考えた訳じゃないからな!?直接的な関係は無いご先祖様的な、俺の住んでた国の昔の人がやった事だから!それに倣ってるだけだから!」
「リョータの先祖えぐいな……」
「…………」
しかしその反論も大して意味をなさず、モルダは相も変わらず非道な人間を見るような、しかしどこか憐れみを込めた目で俺を見る。
ディーゴもまた、何も言わずに沈黙を保っているが、その眼は雄弁にモルダと同じような気持ちを語っていた。
「まぁ、しかしそうですね。迷惑をかけられた事に変わりはありませんし、踏み絵をさせましょう。」
「…………!!?!?」
「おいおい、マジかよ?」
しかし次の瞬間にディーゴは感情を読み取らせないような表情を切り替えて、俺の意見に賛成した。
その発言を耳にした不審者は激しく動揺し、モルダも驚愕する。
「えぇ、確かに非道な行いです。こちらとしても心が痛む。しないで済むのであればそれに越した事はありませんが、いつまで経っても黙ったままの相手を置いておくわけにもいきません。かと言ってただ解放するのも論外です。ですので精神的に追い詰めて、それでもダメなら処理しましょう。」
「お、おう……」
そう言ったディーゴは心が痛む人間の顔をしていない。
喜びも悲しみも排した無表情で不審者の扱いを決める。
その様にモルダは顔を引きつらせながら、しかし肯定も否定もせずに曖昧に返した。
ディーゴは自身を商会の主として相応しくないと思っているらしいが、利と理で判断を降せるその様は、紛れもなく大きな商会を切り盛りするに相応しいと俺に畏怖を抱かせた。