一度したくらいでは終わらず、二度、三度と踏み絵は続く。
「やめろ……もうやめてくれ…………」
「止める理由がありませんね。」
不審者は滂沱の涙を流し、うわ言の様に『止めてくれ』と懇願する有様は、その姿だけで一般的な信徒ではないとよく分かる。
流石に一旦止めても良いんじゃないかと思うが、ディーゴは一切揺らいでいない。
「そこまで苦しむなら、もう素直に喋っても良いんじゃないか?」
「だめだ……いえない……もしもいえば……うぅ……」
「言えば?」
「おれは……はもんされてしまう…………」
「はもん?」
はもん……波紋?
何を言っているのだろうか。
追い詰めすぎたせいでおかしくなってしまったのだろうか。
そのうち石仮面とか言い出したりしないだろうな。
分からずに首を傾げていると横からモルダが翻訳してくれる。
「破門ですね。分かりやすく言うと追放、ある意味では死刑を超える扱いですが。」
「追放なのに死刑を超える!?」
「まぁこっちでもそんな感じか。」
「『こっちでも』!?」
その内容は穏やかな物では無かった。
追放がそんなにも重い扱いだとは思いもしなかったし、モルダの一言にも驚かずにはいられない。
俺の認識では追放されても命さえ残っていればやり直せるだろうと、とても死刑を超える処遇だとは考えられない。
加えてモルダの故郷でも同じ認識だとは……彼は一体どのような所で過ごしていたんだ?
「さて、『破門』となるといずれかの職人ギルドや商会、武芸の一門に属しているか……」
ディーゴが可能性としてあり得る候補を挙げていき、
「ウハヤエ教の信奉者であるか、ですね。」
「…………」
一拍置いて本命の候補を述べた。
不審者は何も言わず、ただただ俯いている。
「そして踏み絵にここまでの拒絶反応を出すとなれば……」
「ウハヤエ教の人間であるって事か。」
「もっとも、単純に熱烈な信奉者であるだけ、と言う可能性もありますが。」
彼はその様子を一瞥し、自身の分析を述べる。
反応は返って来ないが、それすらも『沈黙は肯定』と考えていそうだ。
「まぁ情報を吐いたところで破門はされないと思いますよ。」
「なんだって!?それは本当か!」
「えぇ、本当ですよ。何故なら……」
しかし不審者に一筋の光明が差す。
ディーゴが破門の心配は無いと言ったのだ。
破門を恐れる不審者にとって、その一言はとても甘美な救いの一言だったのだろう。
先程まで絶望に染まっていた彼の表情は見る見るうちに明るくなっていく。
「既にあなたは破門されているでしょうから。」
「…………ぇ?」
しかしそれもディーゴの更なる一言によって先程よりも深い絶望に叩き落とされる。
不審者は大きく目を見開いてディーゴを見つめ、絞り出した蚊の鳴くような声すらも現実を受け入れきれないものだった。