「………………」
不審者がまた黙ってしまった。
いや、正確に言うと放心していて意識はあれども思考する事も喋る事も出来ない状態である。
流石にこの状態では踏み絵をさせた所で反応が返ってくることは無いと思われるので、その間にディーゴに質問する。
「なぁ、ディーゴ。」
「何故既に破門されていると考えたか、ですか?」
「あぁ、揺さぶる為の嘘って感じでもなさそうだし、破門ってそんなポンポンされるもんなのか?」
死刑を超える扱いをそんなに気軽に頻発するとは思えない。
もしも気まぐれに破門が横行していたら今頃そこら中に破門されて放心した人々が溢れかえっているはずだ。
そんな景色はこの世界に来てから一度たりとも見た事は無いし、見たくもない。
「理由は単純ですよ。失敗したからです。」
「失敗したから?って言っても失敗しない奴なんて……」
「ただの失敗、例えば詐欺師に騙されて寄付金を奪われたであったり、物品を紛失したり、そう言った失敗であれば破門なんてされないでしょうね。」
ディーゴの挙げたような失敗は、確かに皆に迷惑をかけるだろうが、厳罰に処されるものではない。
つまり彼が言わんとする事は……
そう考えている間にも『ですが』と話は続く。
「今回の件は内容が内容です。襲撃任務に失敗し、殺される事も自殺する事もなく捕まった。もっとも、ウハヤエ教において自殺は主より賜った命を蔑ろにし、自ら捨てる行為としてタブーとされていますが。ともあれ、とんでもない大失態ですね。となれば、破門して無かった事にするのです。」
「失敗の程度が大き過ぎて見逃す事ももみ消す事も出来ないって事か。」
「そういう事です。自分で言うのもなんですが、ディーゴ商会はそれなりに影響力があります。商会組合による横の繋がりもあり、各地の貴族の方々ともコネクションがある。積極的に敵対したいとは考えられない。しかし何らかの理由で襲撃せざるを得なかった。故に襲撃こそさせましたが成功すれば上々、失敗したとしても襲撃犯が死んでいれば良し、失敗を確信した段階で破門して知らぬ存ぜぬを貫くつもりでしょうね。」
彼の口から語られたのは悪辣な、そして有効な策謀に絶句する。
部下を切り捨てる事を前提とした策。
失敗を前提にした相手からすれば、軽い牽制程度なのだろう。
上に立つ人間ならば時に取捨選択を迫られることもある。
その牽制で、切り捨てざるを得なかった訳でもないであろう状態で、さもなんて事はないように切り捨てられる側からしたらたまったものではないだろうが。
しかしなんだか普段よりも随分と口数が多く、テンポが速いように感じられる。
「随分と舐められたものですね。義父の代で百歩譲っても良好とは言えなかった関係を、融和的な姿勢で改善し、無用な諍いを避けていた我々を相手に、対話を望むでもなく、抗議をするでもなく、最初の一手が襲撃とは。」
「っ!」
眼前の商会長は静かに、しかし確かに怒りを燃やしていた。
その気迫に俺は思わず息を呑む。
普段穏やかな分、怒らせると怖い。
いや、怖いを通り越して心臓が締め付けられるような圧迫感だ。
この人物は敵に回しては、それ以上に怒らせてはいけないと強く学ぶのであった。