「交渉に連れて行くってどういう事だよ!?」
「僕って他の領地の貴族からは成り上がり者って嫌われてるんだよね。一部例外もいるけど、トリア公はその例外ではないし。」
「それなら別の人間に交渉してもらえよ………。」
「仔細を詰めるには僕がいた方が都合が良いんだ。」
その方が都合が良いとはいえ、嫌われてると理解したうえで交渉に行くのか………。
まぁ実際、フリードにも説得出来ないのであれば他の人間が交渉に向かっても厳しそうだけど、それでも嫌われていない人間を向かわせるのも一つの手段だろう。
「もちろん彼もキチンと話は聞いてくれるし、個人的な好悪じゃなく公的な損得で判断できる人物ではあるけど、それはそれとして交渉の成功率を上げるに越したことは無いからね。」
「いや、そもそも俺は昨日の会議で従者役で参加してるんだぞ?」
「他の貴族や商会の重役ならともかく、たかが従者の一人の顔なんて覚えていないよ。服装だって交渉に相応しい物を着てもらうし、礼儀作法も叩き込ませてもらうから。」
礼儀作法………あまり得意ではないし、なんだかフリードの笑みが怖いぞ。
この世界に来て少しずつ勉強はしているが、大変なことになりそうな予感がする。
「それから交渉の時は君はホーエンゼレル領の貴族、デリツェ子爵の縁者だから。」
「は?」
「大丈夫大丈夫。デリツェ子爵は多くの文官を輩出してきた家系だからね。その末端までは把握されてはいないさ。」
そういう事を心配してるんじゃない。
いやそっちも心配ではあるけど。
しかし計算高いフリードが言うのだから、少なくともバレるという可能性は低いだろうけど。
「…………本当に大丈夫なんだろうな?」
「本家ならともかく、傍流にまで詳細な家系図は無いし、ましてやトリア公がデリツェ子爵家の家系を事細かに把握する事は出来ないよ。」
「そうじゃなくて、そのデリツェ子爵って人は、俺みたいな奴が関係者を名乗る事を許してくれるのかって話だよ。」
俺が気にしているのはバレるバレない以前の問題だ。
縁者って血縁なり親戚なり、何らかの繋がりがある人間って事だろう。
見ず知らずの異世界人がいきなりそんな関係の存在を名乗るだなんて、普通怒るのではないだろうか。
「その心配も無用だよ。ホーエンゼレル公に許可は頂いているし、デリツェ子爵も認知して下さるとの事だよ。」
「認知って………。」
「何はともあれ、戻ったら礼儀作法の勉強だよ。とは言っても僕は忙しいから、代わりに教師を一人送るね。」
フリードは大丈夫だと語るが、俺の不安は立ち消えない。
その後も揺れる馬車から外を眺めながら帰路に就き、夕暮れ時にワシャールの街に戻ってきたのであった。