ワシャールの街に帰ってきた翌日。
これまでの様にトレーニングと授業を行う。
しかしこれまでと違う出来事もあった。
「お初にお目にかかります。ユーキ・リョータ様でお間違いないですね?」
「あなたは………。」
「申し遅れました。フリード様のご命令によりリョータ様の教育係を勤めさせていただきますアウグストス・フィーア・デリツェと申します。よろしくお願い申し上げます。」
「ど、どうも………。」
それは午後になって俺の事を訪ねてきた人物がいた事だ。
金髪を中央分けにした中肉中背の男性が恭しく頭を下げる。
フリードは教育係を送るとは言っていたけれど、随分と到着が早く驚いた。
それに何よりも………
「あの、デリツェって………。」
「フリード様よりお話は伺っております。私共もこの件に関しては承知しておりますので、どうぞお構いなく。」
「は、はい。」
デリツェと言う姓は、フリードに交渉に連れて行かれる際に名乗らされる事になった貴族の姓だ。
そのデリツェ姓の人間が教育係として来たとなれば困惑するのも仕方がないだろう。
本人は気にするなと言っているが、気にせざるを得ない。
俺の困惑を他所に、アウグストスと名乗った男は話を進める。
「では早速ですが、まずは背筋を伸ばして下さい。教育はそれからです。」
どうやら最初は姿勢の矯正からのようだ。
まぁ背筋を伸ばすくらいなら、すぐに終わるとだろうと思った。
思ったのだが………。
「顎が上がっていますね。それでは横柄な態度だと感じられますよ。背筋は伸ばし、顎は引いて下さい。」
「体の軸がブレていますよ。上半身がゆらゆらと揺れてしまっていますので身体を一本の直線にして下さい。」
「また首への意識が疎かになっていますよ。」
「座る時も背筋を意識して下さい。それと椅子に腰かける時は深く座らないように。」
そんな事はなかった。
ダメ出しに次ぐダメ出し。
元居た世界でもそこまで姿勢について気を付けていたわけでは無いけれど、それにしてもここまで言われるものだろうか。
気が付けば明るかった空はオレンジ色になっていた。
「ふむ。姿勢は見るに堪える程度にはなりましたね。」
「ありがとうございます…………。」
「しかし、だいぶ時間が経ちましたね。」
疲弊しながらも一応は認められた事に安堵する。
日も傾いてきた事だし、今日はここまでだろう。
「では夕食ではテーブルマナーも学びましょうか。食堂から食器を借りて参ります。」
「えぇ!?」
しかしアウグストスの授業は終わる事はなかった。
夕食時すら心休まる時は無いと言うのか………。