トリア公の回答はシンプルかつ明確な拒絶だった。
そのまま彼は諭すように言葉を続ける。
「そもそも先日の会議でも言ったと思うが………」
トリア公は一旦言葉を溜め、重々しく口を開く。
「『怪人』と仇名される程の名将、王国一の将、ただの一度として敗れた事のないゲーラン殿が負けると本気で思っているのかね?」
「仰ることはよく分かります。しかし負ける事は無くとも、勝利に至るないのが現状なのです。」
以前の会議でも語っていた事を再び述べるトリア公。
それに対し、フリードもまた持論を述べる。
「ふむ………。時にフリード殿、リョータ殿。貴殿らは怪人殿の戦いを見た事はあるかね?」
「私はありません。」
互いの意見の違いは水掛け論になると考えたのか、トリア公は目を瞑り、間をおいて話題を変えた。
俺はゲーランに会った事こそあれど、その戦いぶりを目にした事は無いので、その旨を答える。
「フリード殿は?」
「現場に居合わせた訳ではありませんが、指揮官として見た事はあります。」
「何を感じたかね?」
実際にゲーランの戦いを見た事があると答えたフリードに、トリア公は更に問いかけを投げかける。
「物資を集積している場所や敵指揮官のいる本陣、はたまた補給部隊の経路と言った敵の急所を的確に突く稀代の名将かと。戦いの間、私は防衛線の堅持に努めていましたが、その間に少数の兵を率いての奇襲、強襲には芸術性すら感じられましたね。」
実際にあった時は大らかと言うか、大雑把と言うか、パワーで敵を蹴散らすようなイメージを抱いたが、想像とは違い将軍としてのセンスに優れているようだ。
まぁ実際、王国一の将軍って立場なんだから、当たり前と言えば当たり前だけど。
「そうだとも。彼の出る戦いに負けは無い。それよりも先に敵が瓦解するのだから。」
トリア公は数度頷き、フリードの意見を肯定する。
その上で、
「そして共和国を名乗る不届き者たちがいつまでも国としての体裁を保っていられるとでも?元々労働者階級の解放を掲げ、王を弑逆し、権勢を手にした。しかしその後はどうだ?王都の民たちは搾取され、地方の貴族は廃位されたが下々の生活は変わらない。それどころか善政を敷いていた主君がいなくなり不満を抱く地さえあるだろう。加えて度重なる徴兵で民心は離れている。」
協力を拒絶する理由を淡々と述べる。
確かにトリア公の言う事にも一理あるだろう。
しかし、別の可能性が存在する事も否めない。
「以上を踏まえてなお、憂慮する必要があるとでも?」
「それは現状の話ではないでしょうか。逆に時間を掛ける事で共和国が基盤を固める可能性もあります。それに現状負ける事は無いとは言え、将来的にゲーラン殿に比肩しうる将が敵に現れないとも限らないかと。」
俺は必ずしもトリア公が言うような都合の良い未来が訪れると信じられない。
むしろ逆の可能性がある事を、敗北の可能性を彼に伝える。
この世界に来て学んだ事は、何事も悪い方向へ転じる可能性がある事だ。
俺の身ぐるみを剥いだ商人も、連れて行かれた先輩も、教会に拒絶されたアニエスも、悪い事が起こるだなんて最初は思ってもいなかった。
何事も疑ってかかるのはどうかと思うが、悪い事が起こる可能性を見過ごす事はしたくない。
その上で考えて、行動するべきだろう。