トリア公との交渉を成立させ、その日はワシャールに帰らずに一泊した。
晩餐会でもどうにかボロを出さずに過ごし、夜を明かす。
そして早朝、馬車に乗って帰路に就くのであった。
「君が予想以上に活躍してくれて嬉しいよ。」
「どうにかなって良かったけど、ヒヤヒヤしたぞ。正直言って、もうこんな交渉の席には座りたくないな。」
「これからもよろしく頼むよ、デリツェ殿?」
「勘弁してくれ………。」
辟易としているとフリードは茶化すように名ばかりの爵位で俺を呼ぶ。
礼儀作法の教育もそうだし、本番の交渉だって大変だった。
予想以上の活躍とは言うけれど、俺の発言がトリア公の勘気に触れかねなかった事もあり、綱渡りの結果感が否めない。
「でも君が今回の交渉を成立させる大きな要因となったのは事実だよ。僕だけだったら平行線を辿っていただろうからね。実際、エウリア大陸の交易権だけでは説得しきれなかったし。」
「まさかトリア公があそこまでゲーランの事を妄信、いや信頼しているとは思わなかったけどな。」
「妄信でも間違っていないと思うよ。」
俺が途中で言葉を選んだにも関わらず、トリア公の信頼を妄信と断じるフリード。
成り上がりだけではなく、その無遠慮な物言いが貴族たちから嫌われる理由なのではないだろうか。
「僕もこの世界に来た頃には既にゲーランは『怪人』の異名を持っていたんだ。だから実際にトリア公が彼を信じるに足る理由を知る機会が無かったんだ。」
「異名が付くほどの戦いぶりだったんだろ?それだけ凄い人物って考える事も出来ないか?」
「戦争に参加した貴族が異名を自称するなり、吟遊詩人に金を積んで歌わせるなりして異名を広める事も多々あるんだよ。国王親征なんて基本的に無い事だから、褒美欲しさに自分の功績を喧伝する為に作られた異名なんていくらでもあるんだ。まぁゲーランに関しては実際の戦いぶりを目にして張りぼての異名ではない事を理解したけどね。」
異名が付くレベルの活躍をしたのならば、ある程度その人物に対して信頼があっても良いと思ったが、フリードは異名だけでは信頼出来ないと語る。
彼の言い分は異名の中には正しい評価ではないものも混ざっていると言う事だった。
つまりはそれだけ名前負けしてる人物を見てきたって事でもあるのだろう。
まぁ実際、優秀である事が確定している人材がいるなら、わざわざ俺を教育するよりもそちらを引っ張ってくるだろうし、そもそも『差し伸べる手』に人材供給以外の働きを求めるだろう。
その後は馬車に揺られながら、フリードの愚痴、もとい名ばかりで実を伴っていなかった人材の話を聞かされるのであった。