「捕まっちまった時、教会の人に助けてもらった話か?」
「はい!」
「この部分はあんまり聞いてて気持ちのいい話じゃないんだが、それでも構わないか?」
「はい!聞かせて下さい!」
「…………分かった。」
トムスは話したくはなさそうな面持ちでアニエスに確認をするが、それでも彼女は食い下がる。
返答を聞いたトムスはしばらく逡巡し、了承する。
「あれは食料の補充がままならなくてスメイの街に訪れた時の事だった。」
彼は自身の経験を思い返し、噛み締めるように話を始めた。
「ふぅ、どうにか街に入る事が出来たな……。」
検問の兵士に賄賂を渡し、街に入る事に成功したトムス。
巡回中の兵士に難癖を付けられないよう、大通りを避けて食品を扱っている商店を探す。
「よし、ここにしよう。おやっさん、干し肉とドライフルーツをくれないか?」
「銀貨23枚だ。」
「……ほら、これで足りるか?」
「あいよ、毎度あり。」
人気のまばらな商店を見つけ、買い物をする。
物価の高さから今後の旅路の事を考え、値引き交渉を考えるも、面倒ごとを避ける方が賢明だと考え、トムスは銀貨を支払う。
目的は果たした。
早急に街を出よう。
彼はそう考えていた。
街に入った時と同じく手段で出て行こうとするが……
「これを……。」
「ほぉ、随分と羽振りが良いじゃねぇか。」
「いえ、そんな事は……」
「なぁ、一人旅で商人にも見えねぇが、どこに行こうとしてるんだ?」
検問の兵士に賄賂を渡し、街を出ようとした時に絡まれたのだ。
『マズい事になった。』とトムスは内心、舌打ちをして兵士の話に付き合う。
こういった事に対処するためのカバーストーリーは用意してある。
彼はそれを話して難を逃れようとする。
「ちょっとマスカで商売をやってる親戚の所に。」
「へぇ、マスカか。懐かしいな。オレもあそこの出身でな。」
「はぁ。」
「どの商会の親戚なんだ?」
「ヴァルラム商会です。」
マスカに居を構える商会、ヴァルラム商会。
規模はそこまで大きくなく、有名と言う訳でもない。
仮に眼前の兵士がマスカ出身だったとして、ヴァルラム商会の関係者を把握している訳がない。
問題なくこの場を乗り切れるとトムスは考えていた。
「………へぇ、おい、こいつを牢屋にぶち込んでくれ。」
「は!?な、なんでですか!?」
しかし商会の名前を出した瞬間、兵士の目つきが変わる。
そして槍を突き付けられ、拘束される。
「うちの親戚にお前みてぇな奴はいないんだよ。」
「っ!」
「連れて行け!」
予想外の展開。
偶然と言うには、あまりにも不幸過ぎる。
ヴァルラム商会の身内が、このような所で兵士をやっているなどと誰が予想できようか。
そのまま連行されて牢屋に入れられるトムス。
「くそっ!どうしたもんか……。」
自身の非運を嘆きながらも、脱出の手段を練ろうとするトムス。
そんな彼に声を掛ける人間がいた。
「貴方も無実の罪で捕まってしまったのですか?」
その人物は汚れた司祭服を着た30代程度の男性であった。