フリードの策に若干呆れていると、ゲーランが聞き捨てならない言葉を溢す。
「ま、理由はそれだけじゃねぇが、とにかく楽が出来るってこった!」
「理由はそれだけじゃない……?実はワシャールが攻められてる、とか言わないよな?」
「ほぉ……!」
そうであってほしくない可能性を口にすると、ゲーランは感心したように短く呟いた。
その呟きにまさかと思い、問い詰めようとするが、彼は先に言葉を続ける。
「ゲハハハハハ!なぁリョータ!おめぇ、オレの下で働かねぇか?」
「はぁ!?」
思わぬ勧誘に驚愕し、素っ頓狂な声を上げてしまった。
俺が、ゲーランの部下に!?
「フリードの気持ちがちっと分かった気がするぜ!テメェで戦場を駆け巡って武功を挙げるのも悪かねぇが、人を育てるってぇのも興味が湧いて来た!」
「将軍の部下なんて戦場に出なくちゃいけない立場、断るに決まってるだろ!?」
「ゲハハハハハ!そいつぁ残念だ!」
冗談じゃない。
戦場なんて好き好んで出るような場所じゃないだろう。
必死な表情で断ると、ゲーランは全くそうは聞こえない笑い声を出して残念だと言う。
「と言うか、勧誘で誤魔化されそうになったけど「それ以上先は言うなよ。士気に関わる。」っ!わ、分かったよ……。」
ワシャールが攻められている可能性を提示した時に見せた反応について問い詰めようとすると、ゲーランは冷たく重々しい声色を出して俺の発言を遮る。
表情こそ会話をしていた時と同様に明るい物であったが、その瞳には怜悧な将軍としての威圧感が宿っていた。
その瞳と声に息を飲み、それ以上の明確な追及を止める。
しかしそれでも不安が消えるわけでは無い。
「でも大丈夫なのかよ?」
「おいおい、何の為にリィンのおっさんたちに力を借りてると思ってんだよ。」
「おっさんって……大貴族なんだろ、あの人。そんな言い方して良いのかよ?」
「公的な場ではトリア公って呼んでるから気にすんな。」
主語を出さずに不安を吐露するが、ゲーランはあっけらかんと返答をする。
と言うか、俺のワシャールへの言及はダメでトリア公をおっさん呼ばわりは良いのかよ。
ベクトルが違うのは分かるけど、ゲーランはそういう奴だと分かっているけど、なんだか釈然としない。
「問題ねぇよ。防衛部隊が負けるこたぁねぇ。それに仮に俺らに気付いて引き返そうにも、次は背中が不安になる。向こうの連中は進むも退くもままならねぇさ。」
「それなら良いんだけど……。」
ゲーランは理路整然と問題無い理由を説明するが、胸中には何とも言えない不安が渦巻く。
しかし今更引き返す事は出来ないし、仮に俺が一人で引き返したところで出来る事は無い。
「それよりも、そろそろ見えてくるぜ!王都マスカが!」
「あれが……。」
不安を押し殺し道の先を注視すると、王都マスカが見えてきた。
そこには街を囲む広大な城壁と、王城と思しき建物がそびえ立つ。
城壁の三分の二ほどの高さの城門、街道と広がる平原、街の周りには河川を利用した堀が見え、それらはこの世界に来て最も巨大な街である事を感じさせる。