ジョセフは村人、ドンジの家に招かれ、食卓を囲みながら話を聞く。
「そうですな、どこから話したものか……。」
「ここはどこなんだ?」
「ここはカルヴァニと言う村ですな。」
「聞き覚えが無いな。どこの国に属しているんだ?」
「ウラッセア王国と言う国です。」
「やはり我が祖国ではなかったか……」
話を聞くも、全く聞かない地名にジョセフは落胆した様子を隠せない。
予想通り彼のいた国や地域ではなかったが、同時に気になる点もあったようで僅かに思案する。
「しかし『王国』か……。」
「どうなさったんで?」
「いや、何でもない。聞き覚えのない国名だったので暫し考え事をしていてな。」
「聞き覚えがない、ですか。かなり大きな国だと思うんですが、もしかしたらジョセフさんはテンセーシャって奴なのかも知れませんねぇ。」
「テンセーシャ?」
その様子を見てドンジは尋ねるが、ジョセフはすぐさま思考を切り替えて話を続ける。
聞き覚えのない地名に続き、聞き覚えのない単語に彼は首を傾げた。
「えぇ。わしはあった事はありやせんが、何でも稀にこの世界の生まれじゃない人がどこからともなく訪れるとか。そんな人らをテンセーシャと呼ぶって話を、流れの商人から聞いた事があるんでさぁ。」
「この世界に転じ生まれた者、つまりは『転生者』と言う事か。」
ドンジの説明を聞いて合点がいったように手を打つジョセフ。
自身の状況を理解した上で、彼はドンジに問い掛ける。
「一つ聞きたいのだが『イギリス』、『フランス』、『ドイツ』、『ポーランド』、『アメリカ』これらの言葉に聞き覚えはあるか?」
「いいや、どれも聞き覚えはありやせんな。」
「そうか……。」
この世界はかつていた世界とは違う世界である。
ジョセフはそれを理解し、悲嘆と納得が籠った呟きを溢した。
その様子を見たドンジは話題を変えようと、棚からある物を取り出す。
「流れの商人が持ってきた商品の中に転生者の持ち物ってぇのがありまして、珍しかったし値段も張らなかったんで買ったんでさぁ。こいつを見て下せぇ。」
「これは……。」
「ご存知で?」
「あぁ。これはチェスの駒だな。」
「ちぇす?」
「この駒を使った遊戯があるんだ。と言っても、この駒だけでは遊べないがな。」
「なんでぇ、それならただの置物って事ですなぁ。」
ドンジが見せたのはチェスの駒だった。
用途をジョセフが説明すると彼は残念がって駒を棚に戻す。
しかしドンジが席に戻る頃には暗かった雰囲気は霧散しており、彼の目的は達成されていた。
そして彼はジョセフにある提案をする。
「ジョセフさん、もし良けりゃあこの村に住みませんかい?」
「それは願ってもいない申し出だ。」
「もちろん村の仕事をしてもらいますがねぇ。」
「あぁ、問題無い。よろしく頼む。」
それはジョセフにとって渡りに船とも言うべきものだった。
彼は一も二もなくドンジの提案を受け入れる。
行くあての無かったジョセフは、カルヴァニ村に居つく事になるのであった。