痛いほどに脈打つ胸を押さえ、彼は地面に残された血痕を辿る。
その先は村の物資が保管されている倉庫だった。
僅かに扉が開いていた倉庫の中を、息を殺しながら覗き込むとそこには…………
「カミサマ、コナイ……。ミンナ、イナイ……。イケニエ、タリナイ?」
上半身裸に刺青を入れた男が何か儀式らしい事をしている姿と、
「なっ……ぁ……!?」
見るも無残な姿になった村人たちの姿があった。
誰も彼も、胸元を切り裂かれ、心臓を摘出されていたのだ。
それを見てしまったジョセフは驚愕のあまり、声を漏らしてしまう。
「ウ?」
その僅かな声を聞き取った刺青の男は倉庫の出入口に顔を向ける。
ジョセフは後ずさるも、彼に気付いた刺青の男は倉庫から出てくる。
困惑を、恐怖を、嫌悪感を胸中に抱えながらも、ジョセフは刺青の男に問い掛ける。
「なんだ、お前は!何故皆を殺した!」
「イケニエ!イケニエ!カミサマヘノ、イケニエ!」
刺青の男の答え、それは生贄だった。
それを聞いたジョセフは、それまで抱いていた感情が消え、血液が冷え切っていくかのような感覚を覚える。
「生贄、だと……?」
「ウイ。キガツイタラ、オレ、ヒトリボッチ!カミサマヘノ、イケニエ、タリナカッタ!」
もはや彼の中にある感情は怒りを越え、殺意のみになった。
その様子に気付かず、刺青の男は更なる生贄を求める。
「ダカラ、オマエモ、イケニエ!」
「…………。」
刺青の男の振るった凶刃がジョセフに迫る。
しかし、その刃が彼に届くことは無かった。
響く轟音と共に刺青の男は倒れ伏したのだ。
「ウ……?ァ…………」
「これを使う事が無ければ、と思っていたが……。」
刺青の男は何があったのか分からないような表情を浮かべて息絶えた。
「皆、安らかに、眠ってくれ。」
刺青の男の死体を村の外に引きずり出し、ジョセフは村の中に穴を掘る。
その穴の中に村人たちを埋葬し、短く、心を込めて祈りを捧げた。
「この村での生活は平穏で、ささやかな幸せを感じられていた。これを使う事は二度とないかも知れない。夢を忘れて過ごす事も悪くは無いかも知れない。そう思っていた。」
十数人程度の人々が住んでいた小さな村。
慎ましくも日々の営みに幸福を感じさせる、そんな村があった。
『あった』のだ。
「だが、私は、やはり止まる事は出来なさそうだ。これは私の不抜の証。もはや寄る辺がないのなら、これを使わざるを得ないのなら、ひたすらに進むしかあるまい。」
幸せな日常はいとも容易く崩れ去った。
天性の独裁者を繫ぎ止めていた村は一夜にして滅びた。
であれば、独裁者は暖かな夢から目を覚まし、解き放たれる。
「祖国の為に、夢の為に、理想の為に……」
彼は荷をまとめ、夜の暗闇の中に消えて行った。
十年後。
「同志ニコライ。三年計画の進捗はどうなっている。」
「問題ありません。生産量は確実に向上しています。」
「では例の試作は?」
「……職人ギルドの技師たちを用いても再現が難しく、芳しくありません。またギルドの解体も難航しています。」
「そうか。」
「で、ですが!折衝担当を変更しておりますので遠くない未来、必ずや!」
「…………期待しているぞ、同志ニコライ。」
「は!」
王都の中央部、かつての王城にて独裁者は政を治める。
彼は止まらない。
彼は止まれない。