王都マスカに到着し、各所の城門の前に布陣する。
正門前には本陣が置かれ、街を包囲するように柵を張り巡らせる。
兵士は巡回を続け、ネズミ一匹たりとも通さない監視体制を築いた。
俺は進軍開始前と同じように手が空いていたので軍議に参加する事になった。
「さて、事前の軍議でも策定していた市街へ潜入計画だが……」
「おう、任せとけ!」
「……ゲーラン?君には潜入部隊の指揮は任命していなかったはずだが?」
軍議では予定していた策について最後の確認をしようとしたところで、何故かゲーランがドンと胸に手を打って口を挟む。
フリードはそんなゲーランに困惑しながら返答をするも、
「だが策を発案したのはオレだぜ。それになんとなくだが、オレが行っておいた方が良いような気がするんだよ。こういう時のオレの勘は良く当たるぜ?」
「君の将としての直感は信じるに値するが……。」
ゲーランは自らが潜入すると力説する。
フリードは悩まし気に顎に手を当てて思案するが、彼を信じたい気持ちと、本軍の指揮に留まってほしい気持ちで葛藤しているようだ。
そこで意外な人物が発言をする。
「それならオレが護衛に付いて行くってのはどうよ?」
「ジャック!?」
「オレなら大抵の奴には負けねぇし、こっちにいるよりかゲーランに付いてった方がユーイギってやつだろ。」
「うーん…………。」
それはフリードの護衛として控えていたジャックだった。
確かにジャックは腕っぷしが強く、敵の本拠地に攻め込むのであれば頼りになるだろう。
しかし、その提案を受けてなおフリードは頭を悩ませる。
これまで暗殺者が襲ってくると言った事は無いし、慢心するわけでは無いがジャックをゲーランと共に行かせても良いのではないだろうか。
そう考え、意見を述べようとするも、先にフリードは予想だにしなかった事を言い出した。
「リョータ、悪いが君もジャックと共に行ってくれるかい?」
「俺も!?」
「ジャックが暴走したり敵を深追いしようとしたら止めてくれ。彼は力は強いが、それ以上にイノシシよりも向こう見ずだ。ゲーランは部隊の指揮もしなくてはならないからジャックの手綱を握る者が別に要る。」
「何言ってんだよ。オレのどこが向こう見ずだっての。」
「『搦め手』の『か』の字でも理解してからそのセリフは言ってもらいたいね。」
「ぐぬぬぬぬ…………。」
フリードは俺にジャックを制御するように頼み込む。
ジャックは強いが、確かに搦め手に対応できるかと言われると否定せざるを得ない。
敵に負ける事は無いだろうけど、敵が逃げたら追いかける。
間違いなく深追いする。
そして包囲されるなり罠に誘導されるなりする。
ゲーランは部隊の指揮でジャックの制御までは手が回らない、と言うよりはそんな事に脳のリソースを割かせるべきではない。
うん。
「分かった。俺も行くよ。」
「いいのか?」
「ジャックが死んだら困るからな。それに俺だってこれまで鍛錬を積んできたんだ。足を引っ張ったりはしない、と思いたい。」
「そこは言い切れよ。」
流石に実戦は初めてだから不安もある。
それにジャックの手綱を握るのであれば、強さよりも弱さを活かした方が良いだろう。
ともあれ、潜入部隊にゲーラン、ジャック、そして俺が加わる事が決まり、軍議は終わった。
そして日は落ちて夜の帳が下りた頃、
「よし、それじゃあ行くぜ。付いて来い、野郎ども。」
ゲーランに率いられ、俺たちは隠し通路へと向かう。