スリュムとの戦いは予想通りの大激戦となった。
序盤の攻撃パターンは左右の拳による振り下ろし、左右による三連続の踏みつけ、直線軌道の氷ブレス、そして十二体の氷のドワーフを生み出す者だった。
ドワーフを生み出す攻撃は厄介だが、シノンさんの弓による精密射撃により弱点を撃ち抜かれ瞬く間に片付けてくれた。
直接攻撃系の技もタイミングさえ見切れば避けるのは容易く、ユウナとユイちゃんのカウントもあって完全回避が出来ている。
防御に関しては問題ないが、攻撃に関しては問題があった。
予想通り、俺たちの剣はスリュムの脛にまでしか届かず、分厚い毛皮のレギンスで守られたそこは金色のミノタウロス程ではないが、物理耐性が高い。
硬直が短く、すぐに対応できるソードスキルを当てるが、上位ソードスキルじゃないため属性ダメージは少ない。
そんな中フレイヤさんの電撃系攻撃魔法は心強かった。
NPCの為連携は拙いが、時折後方から放たれる稲妻はスリュムのHPを確実に削ってくれる。
フレイヤさんを助けたクラインさんの判断、いや、武士道は正しかった。
十分以上の奮戦の末、一段目のHPバーが消える。
するとスリュムは強烈な咆哮を轟かせた。
「パターンが変わるぞ!注意!」
キリトさんが叫ぶと同時に、リーファさんも声を上げた。
「お兄ちゃん!もう、メダリオンの光が三つしか残ってない!多分あと残り十五分!」
HPバー一本削るのに十分。
残り二本を十五分以内に削り切れるか?
そう思っているとスリュムは両胸を膨らませて空気を大量に吸い込む。
あれは、全体攻撃の前触れ!?
強烈な風に、前衛・中衛のメンバーが引き寄せられる。
リーファさんが風魔法で吸引力を中和しようとするが間に合わない。
「皆、防御態勢!」
キリトさんの言葉にリーファさんはスペル詠唱を中断し、防御態勢を取る。
俺もフィーを自分のコートの内側に隠すようにして身をかがめる。
全員が防御態勢を取った瞬間、スリュムの口から広範囲のブレス攻撃が放たれた。
青白く光る風がアスナさんのバフを貫通し、肌を切り裂くような冷気が俺たちを襲う。
きん、きん、と鋭い音がする中、俺達八人のアバターが凍結し始める。
逃れようにも氷の幕が分厚くまとわりつき逃れることができない。
そして、俺たち八人は氷の彫像と化す。
「ぬぅぅ――ん!」
スリュムは足を上げ、太い雄叫びと共に床をストンプした。
衝撃波が襲い、凍り付く俺たちを振動させる。
ガッシャ――――ン!
破砕音を響かせ、全身を覆う氷が砕け散る。
目がくらむようなショックを受け、床に叩きつけられる。
視界の端では十一本あるHPの内八本がレッドにまで落ちる。
だが、その直後アスナさんが唱えていた高位全体回復魔法により、HPが回復し始める。
シノンさんは両手長弓系ソードスキル《エクスプロード・アロー》を使い、スリュムの弱点の喉元に当てる。
それにより、スリュムはターゲットをシノンさんに変え、シノンさんに攻撃をする。
「時間を稼ぐから、その間に体勢を立て直して!」
シノンさんは自ら囮を勝手出て、スリュムのタゲをとる。
その間にポーチから赤いポーションを取り出し呷る。
じわじわと回復するHPを見ながらスリュムの猛攻を躱し続けるシノンさんの戦いを交互に見る。
「攻撃用意」
HPが八割まで回復すると、キリトさんが立ちあがる。
剣を握り直し、再度攻撃しようとすると、フレイヤさんが話しかけてきた。
「剣士様、このままではスリュムを倒す事は叶いません。望みはただ一つ、この部屋に埋もれているはずの。我が一族の秘宝だけです。あれを取り戻せば、私の真の力もまた蘇り、スリュムを退けられるでしょう」
「し……真の力……」
その話を聞き、流石に俺はここまで来てフレイヤさんが裏切りスリュムに加勢するとは考えられなかった。
それに、時間ももうない。
なら
「キリトさん、俺が時間を稼ぎます。その間に、秘宝を探してください!」
「……頼めるか?」
「はい!」
「……よし、分かった。なら、任せたぞ」
キリトさんはそう言うと、フレイヤさんに秘宝の形状を聞く。
「フィー、やるぞ」
「ふぃー!」
手を翳し、スペルを詠唱する。
すると、フィーの身体が光り輝き、どんどん大きくなる。
毛並みは綺麗な金色に輝き、口には獰猛な牙は鋭利に光る。
目は紅く怪しく輝き、目つきは鋭くなる。
手の爪も牙と同様鋭利に光り、尻尾は九つに分かれる。
仔狐のフィーはその姿を九尾の姿へと変えた。
変異魔法。
ピナにこの技を使うと、小竜から巨大な翼竜になるが、フィーは仔狐から九尾へと変異する。
「フィー!金狐炎輪!」
「フィィィィィィィィ!!」
フィーは九つの尻尾を広げ、尻尾の先に火の輪を作り出す。
火の輪は一気にスリュムに襲い掛かり、スリュムのHPを徐々に減らす。
「炎鎖縛封!」
今度は炎の鎖を作りだし、スリュムの両腕に絡みつく。
「ぬ!……ぬぅぅ――ん!!」
スリュムは火の鎖を引き千切ろうと両腕を引っ張る。
これで、後十秒は持ちこたえれるはず………
そう思った時、背後で乾いた雷鳴が轟いた。
振り向くと、キリトさんが片手剣重範囲攻撃ソードスキル《ライドニング・フォール》を使っていた。
すると、黄金の山の中で一ヶ所、紫の光が一瞬瞬いた。
キリトさんはそこに向かってダイブし、黄金のオブジェクトを次々と放り投げる。
そして、黄金の山の中から何かを取り出した。
あれは…………小槌?
小槌はキリトさんの筋力値でも重たいらしく、キリトさんは気合を入れた振りかぶる。
「フレイヤさん、これを!」
オーバースローされた小槌を、フレイヤさんは細い右腕で見事受け止めた。
その直後、重量に耐えられなかったのか、体を丸めた。
長いウェーブヘアーが流れ、白い背中が露わになる。
その白い背中は小刻みに震えていた。
「…………ぎる………なぎる…………みなぎるぞ………!」
うら若き美女とは思えない言葉と、低くひび割れた声が聞こえた。
フレイヤさんの身体にスパークが瞬く。
スパークは徐々に激しさを増し、ゴールデンブラウンの髪は逆立ち、白いドレスは裾が勢いよく翻る。
「みな………ぎるうぅぅぅぉぉおおオオオオオオ――――!!」
その絶叫はフレイヤさんのものではなかった。
その光景に俺達は唖然とした。
シリカも口を開け、唖然としてる。
背中の筋肉は盛り上がり、同時に白いドレスは粉々に引き千切れ消滅した。
その時、クラインさんがぐるっと素早く振り向き、一糸まとわぬフレイヤさんの姿に両目をひん剥き、そして、顎がかくーんと落ちる。
全身に雷光を纏ったフレイヤさんは巨大化し、スリュムを上回るほどになった。
腕や足は大木のように太く、たくましくなり、胸板は厚く、スリュムより隆々としている。
手にした金槌も、フレイヤさんの身体に合わせるかのように巨大化し、ノームの重戦士すら装備できないほどのサイズになる。
そして、頬と顎には金褐色の長い長い、髭が生えた、ナイスミドルだった。
「オッ…」
「さんじゃん!」
「……まじ?」
「……なにそれ?」
キリトさん、クラインさん、アヤメさん、アルブスの順に声を上げる。
巨大なおっさんはいつの間にか履いていた分厚いブーツに包まれた右足を踏み出した。
俺はあることに気付き、HP/MPゲージの下に刻まれた名前を確認する。
そこには、《Freyja》とは無く代わりに《Thor》と刻まれていた。